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ドリーム・キャッスル

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 美波はティーカップをテーブルに置き、そのままソファに深く座り直した。天井を見上げ、そのまま眼を閉じる。テレビは付けられていなかった。

 僕たちは、今月いっぱいでこのマンションから出て行く。
 そう、2年と3ヶ月の幸せだった生活と、バイバイする。
 ここと、さよならするのだ――。

       10

 ひょんなことから始まったラッキーな生活。突然飛び込んできた信じられない現実はとびっきりの経験を僕たちにくれた。

「あ、宝くじジャン、当たらないかな~……」
「当たらないよ~、絶対に当たらないようにできてるんだって」

 こんなどこにでもあるような会話が、僕たちにお城をプレゼントしてくれたんだ。最初はラッキーなんて言葉じゃ物足りなく感じていたくらい、本当に信じられなかった。ポン、って来たからね。
 本当にひょんなことで始まった生活は、意外にも長く続いた。僕たちはケンカすることもなく、仲良しのまんま、ここを出て行く。
 夢を叶える為に出逢った2人だけに、別れる時もやっぱり夢が関係していた。
 美波は1年前に1人で海外旅行に出かけた。つまり、2人がお城に引っ越してからちょうど1年とちょっとが過ぎた頃ね。僕たちは結局Ⅰ年間まるまる仕事をしなかった。夢を叶える為に、その時間を全部そそいだの。
 眼の前に残っていたお金は本当に役に立った。どんな問題もすらすらと解決。悩むことを忘れたくらい。
 スクールにも通った。また別のボイスレッスンやダンスレッスンも週2で受けていた。もちろん個人練習も欠かさない。夢に向かって走ってる女の子がそこに2人揃っているんだから、そりゃあ、毎日が練習、もう快適な合宿みたいな感じだった。
 でもね、現実はそう甘くない。これだけはとんでもないラッキーを掴む前と変わらなかった。本当に、いいところまでは行くんだけどね、やっぱり、どうしても、最後の最後で、涙が待ってるんです。
 そういう生活を送る中で、美波は海外旅行を計画した。はじめは2人で「傷心旅行だ~!」とか言って盛り上がってたんだけど、僕がドタキャン。これはその期間にオーディションを見つけたから。美波は、「今回だけは行こうよ」の1点張りで、オーディションを蹴った。
 僕はそのオーディションをどうしても見逃せなかった。運命を感じたのよ。受けなかったら絶対に後悔する。心がそう言ってるの。傷心旅行もかなり行きたかった。もう、2人でパンフ集めまくって選りすぐりの、選り取り見取りのパーフェクト・バカンスって感じだったんだけど、だけどぉ、だけどね、僕の本心がどうしてもオーディションを見逃せなかったの。――そのたった1回のオーディション。オーディションなんて2つの開催が重なり合ってどちらか1つ、なんてことがしょっちゅうなのに、僕はどうしてか自分の直感を信じてしまった。
 「今回は」とか「絶対に」とか、そういう直感は毎回なんだけどね、僕は毎回それを見逃せないの。
 美波はブーブー言ってたけど、夢のことは死ぬほどよくわかってくれるから、そこまでしつこくは誘ってこなかった。「私は1人でも行く」。結局その一言をあの子は実行したの。
 美波が選んだ国はパリだった。情熱の国、だっけか? とにかくロマンチックだよ。もうその響きだけで羨ましかった。僕は必ず受かるっていう期待に全てを賭けたんだけどね、結果はいつも通り。その時も、落ちたのは最終審査だった。行っとけばよかったって、悔しすぎて口にも出せなかったよ。「僕は後悔してない」。こんな感じで僕はその時強がったと思う。
 ほんと言うと、後悔しか残ってなかったんだけど。
 とにかく、美波はパリに2週間も行ってきたわけ。帰国した美波は新しい価値観を身につけてきた。部屋のインテリもそれから変更して、服装なんかも露骨に変わった。
 でも、一番変わったのは、あの子の視線の強さだった。
 梅澤美波という人間は、とても真剣な視線で物事を見つめる人なの。簡単なことでも、難しいことでも、些細なことでも、大きなことでも、必ず自分の中の誠実な捉え方で、全力の実行の仕方。美波とは一緒のスクールに通っていたんだけどね、つらいダンスレッスンの時に、美波はよく笑顔でいるの。「何笑ってんの?」とかきくと、凄い言葉が返ってくる。
「次、取り寄せる美味しいもの、考えてた……」
 ありえなくない? 普通つらいダンスレッスンに対して挫けたりするもんでしょ。なんで今? なんで今美味しいもの考える? とか思って直接きいてみたんだけど、そうやってるとつらい時間が早く終わるんだって。その後の時間に体力を残しておきたいから、独特の方法で1日の体力配分まで考えてる。
 美波はどんなことでも真剣にそれを見つめるの。だから、夢に向けての意気込みだってもちろんハンパじゃない。僕と同じか、それ以上だと思うよ。まあ、同じぐらいかな。
 そんな美波がするパリの話で、一番熱く語っていたのが、「ファッションモデル」のことだった。なんか世界一有名なモデルの祭典を見てきたみたいで、すっごく興奮してたのを今でもよく憶えてる。簡単に言うとね、それが梅澤美波の新しい夢になったの。
 その美波の旅行が終わってから、あの子は3ヶ月くらいの間に2回オーディションに落ちて、「歌手」という夢をあきらめた。爽やかに笑っていられたのは、後ろに「ファッションモデル」という新しい夢があったからだと思う。
 僕はダメだった。美波が肩の荷を下ろした後も、まだ「歌手」という儚い夢をあきらめられずに追いかけ続けた。これが、そう簡単にあきらめられるものじゃないんだな。
 僕が違う夢を見始めたのは、そう、半年くらい前から。その理由は簡単。僕は自分の夢のランクを一つだけ下げたの。
 彼氏ができたわけね。
 僕の夢は「歌手」になること。これは永遠の1位だった。2位は「お嫁さん」。「結婚」っていう言い方でもいいのかな。だからね、彼氏ができたので、あっさりとそっちに乗り換えてみたの。僕は結構このタイミングを待ってた感じもあって、絶妙なタイミングだと思った。彼氏でもできなきゃ、三十になっても四十になっても五十になっても、同じ夢を追っていたかもしれない。一度有り得ないラッキーを掴んだ者として、やってみれば叶うかもしれない、という心力はかなり強い。その可能性は充分あった。そんな自信があります。
 でね、そのくらいの時期からちらほら出始めてたんだけど、この先の生活について話し合うようになったの。
 スクールを辞め、個人レッスンも辞め、全てから解放された僕たちはただのリッチなプー太郎になった。「夢」から解放された僕たちは少し時間をおいて、すぐにまたお互いの新しい「夢」を見始めた。夢とは口に出して言わないけど、僕は彼氏との幸せな結婚。美波は憑りつかれたようにもともとの高身長を活かしたプロポーションに磨きをかけた。
 美波は海外に住みたいらしい。向こうに行って、直に勉強するんだって。僕はそれを聞いてすぐに止めたけど、「向こうにいるのと、こっちにいるのとじゃ、全然違うんだよ」。これの一点張りで、美波は首を横に振るだけだった。
作品名:ドリーム・キャッスル 作家名:タンポポ