幸福論
「いいよ、だいたいわかった……。それは、どうせ、奈央にやるつもりできたものだから。逆に、ごめんねえ。こんな状況の奈央に、そんなもの見せちゃってねえ。ごめんごめん、ははは」
「さいってえ……、私……、ごめんおばあちゃん……。ごめんなさい……。理由とか、奈央馬鹿だから…、自業自得って言われるの、すっごく怖くって……、話しずらくって……」
「いいんだよ、もう奈央のなんだから。ね。ほうら、泣かないの」
生まれてこの方、こんなことしたことはない。しかし、一度味わった空腹とは、悲惨なものすぎて、恐ろしいものすぎて。気がつけば、私は大好きな祖母のお金に手を出していた。
たまったら返すつもりだった。ちゃんと祖母の口座も聞いておこうと思っていた。
でも、そういうこことではない。
心が、痛すぎる……。
こんなの、知らないぐらい、愛してくれている。
たぶん、私が祖母を愛しているのと、同等か、ううん、それ以上。
こんなにも愛されているのにも関わらず、私のとった行動は……。
最低な気持ちなのに……。
愛されている喜びの方が遥かに勝つ……。
許されたことが、安堵を超えて、感謝に近しい後悔を、涙に変換させていく。
もしも子供が生まれて、孫ができたら。
私はこういう祖母に、きっとなろう。
「おばあちゃん……」
「んぅ?」
「えへへ、一緒に寝ちゃだめえ?」
「いいよう、じゃあ、今夜は一緒に寝ようか」
「おばあちゃん、ありがとう。そしてごめんなさい……。一生後悔して、一生、感謝します」
「すぐ忘れちゃって。あははは」
電気を消したあと、少しだけ話をして。疲れていたのか、祖母はすぐに眠ってしまった。それはそうだろう。手料理を作り、急遽、京都から東京へと駆けつけてくれたのだ。
祖母の寝息が聞こえ始めてから、私の涙は止まらなくなった。
そっとベッドから抜け出して、私は自分のカバンから、あの封筒を取り出した。
ずくずくと胸が痛み、底知れぬ愛情がわき続けるなかで、私は封筒から、10万円だけを抜き取らせてもらい、残ったお札を封筒に戻し、祖母のカバンへとしまった。
その温かな封筒に、おばあちゃん世界1大好き――。と、マジックで書置きを添えて。
2023・5・29~END~
あとがき
作タンポポ
誰に主人公を務めて頂いたのかは、あえてここでは語りません。これはフィクションであり、実在する彼女は絶対にしない行動を書かせて頂きましたから。この方向から幸福論を攻めたいな、という趣向で今回、書かせて頂きましたので。
なぜ彼女なのか、というとですね、主人公のモデルである彼女と、その祖母様とのご関係が、とても理想的に、仲良しに温かく思えたからなんです。沈黙の金曜日などのラジオでよく耳する、祖母様とのエピソードなんかが、タンポポ的に大好きでして、そこで閃いたもので、書いてみた超超短編小説なんです。
あ、主題歌お待ちしております。タンポポにはしっかりと、ちゃんと届いていると思います。クリエイター様達の素敵すぎる主題歌たち。ありがとうございます。
また次回作でお会い致しましょう、タンポポでした。
2023・5・29~END~