彼方から 第四部 第九話
その様を見やる『男』の手の内にあった剣もまた、同様に崩れ落ちてゆく。
「お互い、剣が力に耐えられなかったようだな」
地に零れ落ち、風に吹かれ飛ばされゆく剣の残骸……
『男』の言葉が、耳朶を通り過ぎてゆく。
未だ嘗て、闘いにこれ程の『力』を使ったことはない。
…………『人の姿』のままで――――
――このままでは
――埒があかない……
息が、詰まる。
――…………だが……
――これ以上、力を出したら…………
『懼れ』が、胸を過る。
――これ以上
――【天上鬼】の力を呼び出したら……!!
彼女の姿が、顔が……瞼に浮かぶ。
――やがて『力』が心を侵し始め
――……おれは……ノリコを忘れてしまう
――……あの日の……ように……
悍ましい記憶が、頭の中で鮮明に像を結ぶ――
――おれに
背を寒気が奔る。
――……制御できるだろうか
『戦慄』が、臓腑を締め上げる。
――この…………
――『内なる敵』、を……
蟀谷を冷たい汗が、流れ落ちる。
もう、逃げることの叶わぬ現況……
運命を変える方法の糸口すら掴めぬ中。
眼前の敵と内なる敵を見据え、イザークは置かれた『場』に抗い、打ち勝つ法を未だ……見つけられずにいた。
彼方から 第四部 第九話 終 第十話に続く
作品名:彼方から 第四部 第九話 作家名:自分らしく