確かなもの
柚飼一哉は、気がついたかのように、鈴木碧に振り向いた。
「長い話もあるでしょう……。私、もう行くから、先に買い物していい?」
「あ、ああ……。悪いな」
「ううん」
鈴木碧は、笑顔で飛鳥にも振り返った。
「じゃあ、お先に買い物して、もう私は行くね。夢も、ずっと外にいるのは、暑すぎると思うから」
「うん、わあ……。本当におめでとう」
「うん、ありがと」
ドリンクの買い物をした鈴木碧は、最後、齋藤飛鳥に、深い一礼をして、その場を去っていった。
飛鳥は、改めて柚飼一哉を見つめる。
柚飼一哉は、買い物を終えて、片方のフルーツのいっぱいに飾られたドリンクを飛鳥に手渡した。
「ありがと……。ふん、こんなとこで会っちゃうとはね……」
「うん、嬉しい……」
「鈴木さん……、碧ちゃんと、夢ちゃんまで一緒とは……」
「うん、びっくりだよな」
「今、幸せなの? いやいや、そんなこと聞くまでもないっか……」
「飛鳥は?」
柚飼一哉は、愛しそうに、飛鳥を見つめた。
飛鳥は、へへんと、強く微笑む。
「幸せよ。お仕事が忙しいけども……、やりがいある、毎日を送ってますよ」
「そっか……。あれから、何度も、ラインしようか、迷ったんだけど……。なんとか、我慢できた」
「うんうん、結果的に幸せになれたんだから、それはもう、よしとしよう。……。夢ちゃんの名前は、柚飼くんが、どっちがつけたの?」
「いや、知らんし」
「は?」
「鈴木だろ、どうせ、名前つけたのは……」
「鈴木だろって……」
「なんか、勘違いしてないか?」
「は?」
「鈴木は、俺と結婚したんじゃないからな……」
「ん。ええっ‼‼」
「はあ――。あいつは、今は片霧碧だよ……。昔、俺達のドラマのプロデューサーやってくれてた、片霧敦也さんと、一緒んなったんだ」
「え……」
「今、彼氏は?」
結婚していない。柚飼一哉は、鈴木碧と結婚していなかった。という事は、鈴木碧とも、ここ南国の島で、偶然に出会ったという事か。
この、胸の胸騒ぎはなんだろう……。
こんな南国で、一度振り払ったあの辛い決断が、まるで夢であったかのように、夏の日差しに溶かされていく……。
飛鳥は、まとまらない思考を放棄して、上目遣いで、柚飼一哉を見つめる。
「い、ない………」
「俺も、一人のままだ。あれから、ずっと」
もう、自分に嘘はつかない。
出逢った時から、おそらく惹かれていた。
好きに、なっていた。
飛鳥は、上目遣いのままで、柚飼一哉を見つめる。
柚飼一哉は、どうしようもなく、微笑んでいた。
「もう、時間なら、たっぷりやったぞ……。別れを選んだ飛鳥に、ちゃんと向き合って……。探したりもしなかった」
我慢してたの?
ずっとずっと、誰とも、恋をせずに。
「………」
「何年でも待てるって、言っただろ」
飛鳥が好きだ……。
見てたら、誰か伝えてほしい。
千年生きてられるなら、千年待ってるって。
一億年生きてられるなら、一億年、待ってるって……。
「ばかだな………」
それじゃあ、全く、私とおんなじじゃんか……。
「ばか………」
飛鳥は、唇を噛んで無くした。
上を向いた……。
浮かび上がった、涙をこぼさぬように。
「まだ、好きは残ってるか?」
大好きだよ。
大切だよ。
ちゃんとまだ、君が好きだよ。
一哉……。
「まだ、俺に。チャンスは残ってるか……」
「………、うん」
私を、見つけてくれた……。
声が出せない。
うまく、笑えない。
探さずに、いてくれて、ありがとう。
見つけてくれて、ありがとう。
もう大丈夫だよ……。
もう、何にもこだわらない。
けれど、なんにも、無くさない。
慎弥を好きになったように……。
一哉、あなたを好きになった、この思いも。
どうやら、本当に、確かなものみたい。
遠回りしちゃったね。
寂しかったね……。
悔しかったよね……。
胸に穴があくぐらいに、苦しかった……。
ごめんね、一哉……。
そして、
ありがとう、
慎弥……。
いつまでもーー。
本当に本当に。大好きだよ。
ありがとう………。
「もう、抱きしめて……、いいか」
「……っ…、う、ん……」
山下美月と遠藤さくらは、絶えない愚痴を吐き捨てながら、海沿いの道路へと続く短い階段を上がった。
「飛鳥さんおそ~~い!」
「炭酸のやつありましたか~~?」
「ああああ!!」
「あ‼‼」
山下美月は、飛鳥を指差して驚愕した。
遠藤さくらは、絶句して両眼を隠した。
そこには、周囲の民間人から拍手を貰いながら、抱きしめ合い、キスをする齋藤飛鳥と柚飼一哉の姿があった。
山下美月は大慌てで絶叫しながら、注目を浴びている二人を指差す。
「あああ、チュウしてるうぅぅ~~~‼‼」
遠藤さくらは眼隠しから、指先をずらして二人を覗き見た。
「うわ、うわうわうわ………」
「何も、捨てなくていいから……」
「うん……」
「飛鳥を守るって、決めたんだ……」
「うん……」
「勝手に守れば、とか……、思ってる?」
「んふ、うん……」
「じゃあ、勝手に守る……」
「うん……」
「もう一回言うけど…、二度と言わせるなよな……」
「………」
飛鳥は、柚飼一哉を見上げる。
「うん」
「もう、離さない」
柚飼一哉は、優しく、
ぎゅっと飛鳥を抱きしめた。
「うん……」
飛鳥は、眼を閉じて――。
幸せそうに、上を向いて……、
大粒の涙を落とした。
「じゃあ、離れない……」
齋藤飛鳥・乃木坂46卒業SP企画
二部構成作品・第二部『確かなもの』
2023・6・20~END~
あとがき
作 タンポポ
大好きだよ、飛鳥ちゃん。。改めて、乃木坂46卒業、おめでとう――。
はい、タンポポです。永らく連載いたしました『ここにはないもの』シリーズの完結作『確かなもの』を今回は執筆させて頂きました。
永らく、齋藤飛鳥さんに主人公を務めて頂きました。心より、誠にありがとうございます。本当に、あなたを書けてよかった。
<m(__)m>
クリエイターの皆様。どうか、この永かった物語を締めくくる、主題歌を、エンディングテーマソングを、どうか、ユーチューブ等で聴かせて下さい……。世界中の誰でも聴ける永遠の宝となります。
この物語は、夢や、愛や、運命、別れを描いています。タンポポとして、数多くなってきたタンポポ乃木坂短編(長編)作品の中でも、特に胸を打つ作品と成りました。
乃木坂合同会社の皆様に果てしない感謝を――。
秋元先生に迸る星々のように輝く尊敬と敬愛と御礼と感謝を――。
菊池友様に尽きぬ御礼を――。
今野義雄様に、宇宙にも等しい感謝と敬愛を――。
クリエイター様達に、愛と感謝を――。
乃木坂46に――。
乃木坂46OGに――。
絶大なる愛と恋と憧れと、尊敬と、底の無い感謝を――。