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確かなもの

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「どうすればいい? 慎弥……、慎弥が決めて……。私、どうしたら………」


 光葉慎弥は、光の粒に輝きながら、穏やかに微笑んだままで、ゆっくりと頷いた。


「慎弥を、慎弥だけをずっと好きでいればいいよね……」


 光葉慎弥は、ゆっくりと、はっきりと、首を横にふった。
 飛鳥は、急な不安に、光葉慎弥に歩み寄ろうとするが、なぜか両脚は、光の靄に埋(うず)もれたままで、びくりとも動こうとしなかった。


「慎弥、待って……。私、どうしたらいいか………。慎弥ぁ、いなくならないでぇ……、慎弥、慎弥ぁぁ、慎弥が、……慎弥が。好き………」


 光葉慎弥は微笑んだまま、光の中へと吸い込まれていくように、その姿を眩く煌めく光の結晶へと変えた。
 飛鳥は、どうしようもなく、
 かけがえのない愛を思い出しながら。
 どうしようもなく、
 手で顔を隠しながら、少女であった、幼かったいつかの日のように、声を殺して泣いていた。


 綺麗な顔ですやすやと眠る柚飼一哉の顔を、愛しそうに見つめながら、飛鳥はその頬の涙を指先で短くぬぐいとった。
 何も知らぬ子供のように、
 ただひたすらと眠る柚飼一哉のひたいに、
 小さなキスをして……。
 飛鳥は、「ありがと。バイバイ」と呟いて、立ち上がった。

 柚飼一哉は眼を覚まし、すぐにベッドルームを確認してから、リビングへと飛び出して、部屋中を探し回った。
 誰もいないリビングのソファスペースのガラス製の小テーブルの上に、柚飼一哉のスマートフォンが置かれていた。
 柚飼一哉は、すぐにスマートフォンを手に取って、一件のラインに気がついた。
 それは、齋藤飛鳥からのラインであった。
 そのラインは、五時間前に残されたメッセージであった……。
 残されていたメッセージを、柚飼一哉は息を呑んで、すぐにその眼で読み上げていく。


 飛鳥
 どうしても、忘れられない人がいます
 隠してたわけじゃないんです
 ごめんね
 好きになったよ
 一哉のこと ちゃんと
 ごめんね
 ありがとう
 さよなら


「飛鳥ぁ‼‼」
 柚飼一哉は窓を広げて叫び上げた。
 しかし、叫び上げた声は空気に虚しく走っただけで、想い望んだ声は帰って来ない。
「飛鳥……っ、飛鳥ぁぁ‼‼」
 窓の外の景色は、もうすっかりと、蒼の広がる、今日の空であった。

       8

 それぞれの運命はその後、二度と交差する事無く、時を刻み続けて、時は二千二十六年の夏の日を迎えていた。
 齋藤飛鳥は、何度目かに見る南国の島の海、その場景に、瞳を澄まして、いっぱいの空気を吸い込んだ。
「はあああ……。夏っ‼‼」
 砂浜はデザートカラーに染まり、照りつける太陽が青すぎる海の表面を美しく反射してみせていた。
 カラフルなパラソルの下に簡易ベッドを広げて休む山下美月は、サングラスを外して、日光の下、砂浜から海の方を見つめ続けている齋藤飛鳥に、眩しそうな顔を向けた。
「日焼けしちゃいますよ?」
 飛鳥は、振り返る。
「日焼け止めクリームぬってるもぉん……」
「あ、飛鳥さん今の顔……、かぁ~わいい!」山下美月は眩しそうなままでにやけて、指先でキュンを作った。「ナンパされちゃうぞ~~」
「ばか、お馬鹿!」
 飛鳥はまた、海の方を向く。
 遠藤さくらは、山下美月の隣で、簡易ベッドからむくりと起き上がり、サングラスをかけたままで、齋藤飛鳥を見つめた。
「飛鳥さぁ~ん……、喉かわいたんですけどぉ~……」
「あ、私も喉かわいてきたなぁ~~」山下美月は、サングラスをかけてはにかんだ。「今日の朝、ジャンケンで負けましたよね~~、誰かさん……」
「嘘でしょう?」飛鳥はおどけた笑みで、二人を振り返る。「先輩をこき使う気? 嘘だろ……、ある? そんなことって……」
「だあってジャンケンで買ったもぉん」山下美月は寝転がる。「私、コーラでいいんで」
「あ、じゃあ私も、コーラとか、炭酸っぽいやつで」遠藤さくらも、寝転がった。
「なんだよ炭酸、ぽい、やつって……」
 濡れたまま砂浜にどかんと座った秋月奏は、からかうように飛鳥を指差して笑った。坂根双葉も、タオルで海に濡れた肌をぬぐいながら、声に出して笑った。
「笑ってないで、お前らも来い。海ばっか入ってはしゃいでないで~」
「嫌だね、俺は休憩したらもっかい海行くんだ!」
「秋ヅキくんだけじゃ遭難しちゃいそうだから、私もついてないと。飛鳥ちゃん、アイムソーリー」
「へん! バカップルが」
 飛鳥はぶつぶつと愚痴をこぼしながら、すぐそばの海沿いの道路に出されている露店へと、ドリンクを購入しに浜辺を歩く。
 夏の乾いた風が飛鳥の長い黒髪をさらっていく。
 浜辺から道路へと続く短い階段を上って、眼の前の露店へと向かった。それは黄色い屋根のテントを張った、日本でいうところの夜店の屋台のような造りであった。
 飛鳥はポケットの小銭と海外紙幣を確認する。何人かが並んでいる。一人は背の高い男。もう一人は、小さな赤子と手を繋いだ若い母親であった。隣に立っている背の高い男はその夫で、二人は夫婦で、その三人は家族なのだろうと思った。
 太陽を眩しく見上げてから、三人の家族の真後ろに立ち並んだ。
 日よけのあるベビーカーから立ち上がっている赤子は、一歳ぐらいだろうか。元気いっぱいに立ち上がり、ママと手をしっかりと握っている。

「飛鳥………」

 飛鳥は、そう言った背の高い男をふと見つめて、
 その時間を止めた――。

 男は、驚いた顔で、飛鳥を見つめたままで、動かない……。
 それは、柚飼一哉であった。
 飛鳥は、ふと、柚飼一哉の後ろに立つ、子供の母親を一瞥した……。
 母親が振り返る。
 それは、鈴木碧であった――。

「飛鳥、なんでここに……。あ、そっか……。旅行か……」
「うそ、齋藤さんなの? うわあ、齋藤さん、また綺麗になったねえ~。覚えてる? 鈴木、旧姓だけど。鈴木です……」

 いっぺんに頭へと跳び込んできた情報で、ごった返しであったが、飛鳥は頭の中を瞬間的に整理して、全てを察知し、理解した。
 飛鳥は微笑む。

「お子さん……、可愛い。お名前は?」
「ありがと~、名前は、夢、ていうの……。夢ちゃん、お姉ちゃん綺麗だねえ? 夢ちゃん可愛いって言ってくれたんだよ~~」

 飛鳥は、柚飼一哉を見つめた。
 清々しく、微笑む事ができた。

「久しぶり……」
「ああ、うん。久しぶり」

 飛鳥は、鈴木碧の笑顔に応えるように、鈴木碧を見つめ返して笑った。

「聞いてないですよ、ご結婚してたなんて」
「うん、芸能活動、休止してる間に、生ませてもらったんだ……。大事な人との子供だし、絶対に生みたかったから。実は、籍はまだなの」
「え、まだ入れてないんですか?」
「うん……。でも、これが新婚旅行で、これから、帰国したら、一緒に入れに行く予定」
「おめでとう」
「ありがとう、齋藤さん」

 飛鳥は、凛々しく微笑み、呆然と飛鳥を見つめている柚飼一哉を見つめた。

「おめでとう、柚飼さん……」
「飛鳥、元気にしてのか?」
「うん。元気よ……、そっちは? ああ、元気か……」
「一哉」

 鈴木碧は、柚飼一哉を見上げて、下の名前で彼を呼んだ。
作品名:確かなもの 作家名:タンポポ