クリスマスケーキ
それからまたしばらく歩いて、司令部にたどり着く。
これから会合なんて言うと嫌になってくるが、行かないわけにはいかないので、兄さんと2人で大佐の執務室に向かった。
でも。大佐の部屋の扉を開けて、ぼくたちを迎えたのは。
「メリークリスマス! エルリック兄弟!」
はじけるクラッカーの音と、舞い落ちてくる紙ふぶき。
そして目の前には大きなケーキと、たくさんのごちそう。
ぼくも兄さんも目を丸めるしかなかった。
「せっかく君たちが東部にいるというからな、ちょっとしたパーティーを開いてやろうと企画したのだ」
自慢げに、大佐がふんぞり返る。
「発案したのはフュリー曹長です」
と、冷静なツッコミを返すのは、例のごとくホークアイ中尉。
「まあともかく。ガキは皆でクリスマスを祝ってやろうってことだ!」
わしゃわしゃと、背の高いハボック少尉が兄さんの頭をかき回す。
「ガキ扱いすんな!」
兄さんはそう訴えるけど、でもどこか嬉しそう。
まさか、こんな展開が待っているなんてさすがに思わなかったんだからあたりまえかもしれない。
みんなの心遣いが、ぼく自身本当に、嬉しかった。
「みなさん、本当にありがとうございます」
心からの感謝を込めて、深く頭を下げる。兄さんにも何かお礼を言ったらと促したけれど、兄さんはやっぱり照れたようにむくれている。ハボック少尉にガキ扱いされたせいでふてくされているのかもしれない。
それを見て、マスタング大佐がにやりと笑った。
「おや、鋼のはどうやら、わたしたちのもてなしが気に入らないと見える。残念だな。料理もたっぷり用意したんだが……。仕方ない。ここは私達だけでパーティーをするとしようか」
わざとオーバーアクションで、大佐が兄さんをたきつけた。
ちらりと、落とされる嫌味な視線。
「な、なにも参加しねーとはいってねぇだろ……」
「そうかね? だったら、先に言うことがあるんじゃないのか?」
言い返されて、兄さんは言葉に詰まった。
ちらちらと、その視線が山と盛られた料理大佐の間を泳ぐ。
「……アリガトウ、ゴザイ、マス」
不本意そうな、棒読みの台詞が、口をついた。
「よろしい」
眉間に皺寄せる兄さんと違って、大佐は明らかに優越に浸って楽しそうだ。
そんな大佐に見下ろされて、兄さんがついにキレる。
「ちくしょお! こうなったら食って食って食いまくってやる〜〜〜〜っっ!!」
ほとんど雄叫びのように叫んで、料理の山に兄さんは飛び掛った。そのがつがつと大きなケーキにかぶりついている様は、まさに野獣だ。
我が兄ながら、なんというか、呆れる?
「アルフォンスくん。君もどうか楽しんでいってくれたまえ。余興の用意もぬかりはないからな」
いったい何の余興やら。不敵に笑う大佐の表情を、ぼくはなるべく考えないようにした。
ともかく、そんなこんなでクリスマスパーティー――というよりもはや忘年会のノリとなってしまったのだが――は、その夜が更けるまで盛り上がった。