brother
東方司令部の廊下を大きくよろめきながら、積み上げられた本の山が歩いていた。否。歩いていたのは本の山ではない。本の山に埋もれそうになりながら、その小さい体で運んでいる、かの有名な豆――もとい鋼の錬金術師だ。
資料室から出てきたらしい彼は、両手で山ほどの資料の束を抱え、前もろくに見えない状態でよたよたと歩いていた。時折、すれちがう軍人とぶつかりそうになって「ゴメン!」と慌てた声が飛ぶ。しかも、その拍子にまたよろめいて、慌てて崩れそうになる本の山を押さえる。
そうやって一生懸命運んでいる姿は、彼の性格を差し引いても微笑ましくてかわいいのだが、流石に危ない。それにずっとこの繰り返しで、資料室の前からちっとも進まないことに、回りが見えていない彼は気付いていないらしい。
やがて見かねただれかが彼に手を差し伸べるのは時間の問題だった。しかし、それをだれが言い出すのか。エドワードとすれ違った面々は、エドワードのかわいらしさにぐっと耐えて互いを牽制しあう。
そのとき、よろめくエドワードの背後で火花を散らしあう男達の脇を、その人は風のようにすり抜けた。
「半分持つわ、エドワード君」
急に半減した重さに、逆にエドワードはよろめいた。
慌てて姿勢を立て直して顔を上げると、普段は滅多に拝むことのできないその人の微笑に、エドワードはきょとんとする。
「あ、ありがとう、中尉……」
これまた、滅多に聞くことのできない素直な礼に、周囲の男達は一斉に歯噛みした。でも、誰もその二人の間に割って入ろうと思う者はいなかった。なぜなら、この東方司令部司令官の有能な副官が、実は司令官本人よりもずっと恐ろしいということを、全員がよく知っていたからだ。
そうして、がっくりとうなだれる男達を尻目に、エドワードとホークアイは肩を並べて楽しげに談笑しながら、資料室前から立ち去った。
資料室から出てきたらしい彼は、両手で山ほどの資料の束を抱え、前もろくに見えない状態でよたよたと歩いていた。時折、すれちがう軍人とぶつかりそうになって「ゴメン!」と慌てた声が飛ぶ。しかも、その拍子にまたよろめいて、慌てて崩れそうになる本の山を押さえる。
そうやって一生懸命運んでいる姿は、彼の性格を差し引いても微笑ましくてかわいいのだが、流石に危ない。それにずっとこの繰り返しで、資料室の前からちっとも進まないことに、回りが見えていない彼は気付いていないらしい。
やがて見かねただれかが彼に手を差し伸べるのは時間の問題だった。しかし、それをだれが言い出すのか。エドワードとすれ違った面々は、エドワードのかわいらしさにぐっと耐えて互いを牽制しあう。
そのとき、よろめくエドワードの背後で火花を散らしあう男達の脇を、その人は風のようにすり抜けた。
「半分持つわ、エドワード君」
急に半減した重さに、逆にエドワードはよろめいた。
慌てて姿勢を立て直して顔を上げると、普段は滅多に拝むことのできないその人の微笑に、エドワードはきょとんとする。
「あ、ありがとう、中尉……」
これまた、滅多に聞くことのできない素直な礼に、周囲の男達は一斉に歯噛みした。でも、誰もその二人の間に割って入ろうと思う者はいなかった。なぜなら、この東方司令部司令官の有能な副官が、実は司令官本人よりもずっと恐ろしいということを、全員がよく知っていたからだ。
そうして、がっくりとうなだれる男達を尻目に、エドワードとホークアイは肩を並べて楽しげに談笑しながら、資料室前から立ち去った。