01:素粒子の溜め息
溜め息をすると幸せが逃げるんだって。知ってた?
それなら毎日毎日何回も何回も溜め息をしている俺は、きっと幸せになんてなれないんだろうな。
俺には好きな奴がいる。しかも同性で、学校のクラスメイト。
ソイツは容姿端麗、成績優秀、運動神経も抜群で、まさしく文武両道という言葉を着飾るに値する人物だ。
あまりに完璧過ぎて、最初はソイツの存在を知った時、ただ顔を顰めてしまった。悔しかったのだ。どう頑張って足掻いてもソイツのような人間には成れない。成れるわけがない。そもそも、俺とソイツは違う存在なのだから当然。そう自分に言い聞かせても、醜い想いは止まらなかった。それはつまり、ただの嫉妬。
このどうしようもない苛立ちを解消するには、極力ソイツを見ないようにするしかなかった。高校一年生の頃は違うクラスだったから遭遇率も低かったけれど、高校二年生になってからは同じクラスになってしまったが為、なかなか無視することが困難になってきた。
ちょっとでも視界に入ってくれば、いちいち陰で舌打ちをしたし、ソイツの周りで皆が楽しそうにしていれば、教室から出て図書室へ向かった。
極力、ソイツが目に触れないように。ソイツからも俺が目に触れないよう。
だってそうだろ。俺がこんなに嫌っていれば、ソイツだって俺のことを嫌いになるはずだ。見てくれなくなるはずだ。無視してくれるはずだ。忘れてくれる、はずだ。
そして俺だって、ソイツのことを忘れらる、はずだ。
自分の醜い感情が胸から破裂せんばかりに溢れて止まらなくなる。分かっている。己がどれほど卑しい人間か。分かっている。己がどれほど情けない人間か。
そうして訪れた、転機。
いつものように、ソイツの周りで皆が笑っている教室にいるのが嫌で、図書室へ逃げ込んだ。黒く蠢く靄を胸に抱え、足早に。
入ってみれば、そこは天国。本は好きだし、背表紙を眺めているだけでも癒される。俺が足を向けたのは自然科学系の本が並ぶ棚。天文の本を探そうとした。特に星座の本は好きだ。なかなか夜に見上げても星が見えないから、俺は本を見て天体観測をする。昼間にだって出来るから便利だ。
少し晴れた気分で分厚い図鑑をちょっとした脚立を使って高い棚から取ろうとした。
がくんっ。
全身が床に引っ張られるような感覚に陥った。どうやら脚立の留め具が甘かったらしく、脚立が倒れてしまったようだ。空中で体勢が崩れる。
あっ━━━と声が零れて、そのまま盛大にガッシャンッと床に落ちるように倒れた。一緒に落ちてきた図鑑が胸に直撃して、全身を強か叩きつけてしまう。頭も打ってしまったようで、視界がグラグラと地震が起こった時のように揺れる。
これはまずいなぁ、とまるで他人事のように思いつつ、意識を手放した。結構な音が響いたから図書館にいる先生がどうにかしてくれるだろう、と他力本願なことを考える。
そうして感じた人の気配。あぁ、やっぱり誰かが来てくれた。有り難い。霞んだ視界では誰なのかを判定することは出来なかったが、安心して瞼を下した。
それなら毎日毎日何回も何回も溜め息をしている俺は、きっと幸せになんてなれないんだろうな。
俺には好きな奴がいる。しかも同性で、学校のクラスメイト。
ソイツは容姿端麗、成績優秀、運動神経も抜群で、まさしく文武両道という言葉を着飾るに値する人物だ。
あまりに完璧過ぎて、最初はソイツの存在を知った時、ただ顔を顰めてしまった。悔しかったのだ。どう頑張って足掻いてもソイツのような人間には成れない。成れるわけがない。そもそも、俺とソイツは違う存在なのだから当然。そう自分に言い聞かせても、醜い想いは止まらなかった。それはつまり、ただの嫉妬。
このどうしようもない苛立ちを解消するには、極力ソイツを見ないようにするしかなかった。高校一年生の頃は違うクラスだったから遭遇率も低かったけれど、高校二年生になってからは同じクラスになってしまったが為、なかなか無視することが困難になってきた。
ちょっとでも視界に入ってくれば、いちいち陰で舌打ちをしたし、ソイツの周りで皆が楽しそうにしていれば、教室から出て図書室へ向かった。
極力、ソイツが目に触れないように。ソイツからも俺が目に触れないよう。
だってそうだろ。俺がこんなに嫌っていれば、ソイツだって俺のことを嫌いになるはずだ。見てくれなくなるはずだ。無視してくれるはずだ。忘れてくれる、はずだ。
そして俺だって、ソイツのことを忘れらる、はずだ。
自分の醜い感情が胸から破裂せんばかりに溢れて止まらなくなる。分かっている。己がどれほど卑しい人間か。分かっている。己がどれほど情けない人間か。
そうして訪れた、転機。
いつものように、ソイツの周りで皆が笑っている教室にいるのが嫌で、図書室へ逃げ込んだ。黒く蠢く靄を胸に抱え、足早に。
入ってみれば、そこは天国。本は好きだし、背表紙を眺めているだけでも癒される。俺が足を向けたのは自然科学系の本が並ぶ棚。天文の本を探そうとした。特に星座の本は好きだ。なかなか夜に見上げても星が見えないから、俺は本を見て天体観測をする。昼間にだって出来るから便利だ。
少し晴れた気分で分厚い図鑑をちょっとした脚立を使って高い棚から取ろうとした。
がくんっ。
全身が床に引っ張られるような感覚に陥った。どうやら脚立の留め具が甘かったらしく、脚立が倒れてしまったようだ。空中で体勢が崩れる。
あっ━━━と声が零れて、そのまま盛大にガッシャンッと床に落ちるように倒れた。一緒に落ちてきた図鑑が胸に直撃して、全身を強か叩きつけてしまう。頭も打ってしまったようで、視界がグラグラと地震が起こった時のように揺れる。
これはまずいなぁ、とまるで他人事のように思いつつ、意識を手放した。結構な音が響いたから図書館にいる先生がどうにかしてくれるだろう、と他力本願なことを考える。
そうして感じた人の気配。あぁ、やっぱり誰かが来てくれた。有り難い。霞んだ視界では誰なのかを判定することは出来なかったが、安心して瞼を下した。
作品名:01:素粒子の溜め息 作家名:Cloe