二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
自分らしく
自分らしく
novelistID. 65932
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

彼方から 第四部 第十話

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 

 彼方から 第四部 第十話


 激しい戦闘の『気』が大地から……
 膨大なエネルギーの波動が大気から、伝わってくる。
 降り注ぐ木漏れ日の中、未だ、自分の腕一つ持ち上げることすら出来ぬことに、エイジュは唇を噛み締めていた。

 自分の身体に何が起こっているのか……おおよその見当はつく。
 ……一ヶ月ほど前――
 エンナマルナへと向かう『彼ら』の護衛を務めた。
 あの戦いの中で使い過ぎた、『癒しの雫』の能力。
 体内に吸い込んだ『毒』を、彼らを守り『背に受けた傷』を癒す為に、連続で使用せざるを得なかった……
 ……限界近くまで、『能力』を高めて。
 それに――――

          チチッ……

「……カ、ル――」
 短い鳴き声と共に、頬に身を摺り寄せる黒チモの『名』を口にする。
 
 ――この子の力を同時に使ったのも……
 ――きっと、いけなかったのね

 『能力』の制御範囲を、越えてしまった。
 『無情』に、引き込まれてしまいそうだった……
 …………あの時、『彼』が来てくれてなければ、カイダールを殺し『あの頃』の自分に戻ってしまっていたかもしれない。
 『情』を持たなかった頃の自分に……

 …………皆の面影が、脳裏に浮かぶ。
 この数年の間に多くの人と繋がり、自分も随分と変わったと感じる。
 あの頃は、『人の死』など気にも留めなかった。
 眼前で誰かの命が失われようとも、自分の手でその命を奪おうとも……同等に気に留める必要のないことだった。
 【天上鬼】を見守り続ける内に『何か』が――胸の内に溜まってゆくのを自覚してからだろうか……
 『情』というものが、自分の中にもあるのだと分かったのは……
 ……鬱屈とした想いを、少なからず抱くようになったのは――

 傀儡であるとはいえ……あまりにも『都合良く』使われていると、そう思える。
 ある程度の『自由』があるだけに余計に、『制限』があることに理不尽さを覚えてしまう。
 …………そう――――
 人間らしい『思考』や『感情』などの一切を…………与えられなければ良かったのにとさえ、思えるほどに……
 どうせ、『傀儡』なのだから――――と……

 『あちら側』が、何を意図しているのか解することが出来ず、苛立ちが募る。
 それに今、あの『二人』に起こっている出来事に介入することが叶わぬこの身も、恨めしくてならない。

 ――…………いえ……
 
 溜め息と共に、思い直す。

 ――仮にこの状態でなかったとしても
 ――彼らを手助けすることは、許されなかったでしょうね……
 
 恐らく『今』が『イザーク』にとって、とても重要でとても大切な『場』で、あるはずだから……
 自分が『彼らの未来』の『鍵』となることは、あってはならないのだから――
 
 ――あたしにはあたしの役割が……
 ――……初めから決められている役割が、ある

 未だに明かされぬその『役割』を果たす為に、『彼ら』を必要な時に必要なだけ、『命』を受け、助けているだけ…………
 ……『彼ら』を助けることが、どうして『本当の役割』へと繋がるのかも、分からぬままに――

 禍々しい気配が、移動してゆく。
 
 ――イルクたちは……
 ――もう、向かってくれているのね

 森からイルクの気配も、『森の住人たち』の気配も無くなっている。
 自由に身体を動かせるようになるには、まだもう少し、時間が掛かる。
 エイジュは、この世界の全ての気を探るかのように遠くを見やり、やがてゆっくりと、瞼を閉じていた。


          **********


「――二匹のチモは残してある」

 網に捕らわれ、強い精神に抑え込まれ、優しさの欠片もない扱われ方をされ……二匹のチモが眼前に、投げ置かれた。
 ラチェフの、何の感情もない冷たい声音と、チモの甲高く、短い鳴き声を耳にし――――
 遺跡の床に力なく座り込み、ドロスは零れる涙もそのままにただ茫然と、残された小さき生き物を見やっていた。

「今回のことで、他のすべてのチモを失った。おまえにまた、増やしてもらわねばならん」

 勝手で――それでいて、『至極当然』かのようなラチェフの言葉。
 
「なにしろ、それの飼育にかけては天才的なおまえだ。一時、ここを出て行った間等、なかなか増えずに困っていた」
 
 ラチェフの精神に因って抑え込まれ、網から逃れることも出来ず小さな鳴き声を漏らしながら……二匹のチモが懸命に這い寄ってくる。
 雇い主である彼の言葉が、まるで雑音でも聞いているかのように、耳には入ってくるが頭の中で『意味』を成さない。
 ……以前の自分なら、今のラチェフの言葉を喜んだかもしれない。
 だが今は分かる。
 『そこだけは認めてやっている』と見下した、嘲りの籠められた押しつけがましい『誉め言葉』なのだと……

 慕うように……助けを求めるように、膝に掛かるチモの小さな『手』。
 両の手で優しく掬い上げ、ドロスは涙の絶えぬ瞳で、残されたチモを見詰めていた。


          ***


「わたしに退けと言ったの? ゴーリヤ!」

 自然界の奏でる音が、『何も』聞こえぬ遺跡の中……
 
「――どういうつもりっ!?」 

 苛立ちの籠った声音が一際、良く響く。

「わたしだから、彼らの居場所をこうも『正確に』、把握して誘導できたのよ!? あのイザークとノリコの『気』に! 直接出会った『わたし』だからこそ!!」

 美しき女占者、タザシーナの高慢でヒステリックな物言いを耳に留め、ラチェフは眉一つ動かすことなく、静かに彼女を見やっていた。

「いかにも、ご苦労だった。おかげで彼らの『気』を、わたしもつかむことが出来た」

 幾十匹ものチモの命と引き換えに開かれた、異空間への入り口を前に向かい合い立つ、二人の占者。
 己よりも背の高いタザシーナを見上げ、老占者ゴーリヤは、彼女の功績を『一応』認める言葉を口にはしたが……

「もはやノリコを見つけるぐらいは、わたし一人でできる。おまえは雑念が多くて、一緒ではかえってやり難い」

 続けて発せられた言葉は、彼女に対し『占者として未熟だ』と…………
 そう指摘しているようにしか聞こえない台詞だった。

「なっ……!!」

 『占者』として見下された言葉に、思わず眉根を寄せる。
 美しきその面を歪め、タザシーナは苛立ちも露に、老占者を睨み、見据えていた。

「……さがれ。タザシーナ」
 
 ――……っ!!

 ラチェフの命に、言葉を失う。
 それは明らかに、『ゴーリヤ』の方に重きを置いている言葉……
 ……彼に、ラチェフにどれだけ尽くし、仕え、功績を上げようとも――
 優先されるのは自分ではない…………
 その『事』が、嫌というほど分かる、言葉―――― 
 だが、それでも……
 あからさまな処遇の差に、苦虫を噛み潰すような想いを抱えながらも――
 タザシーナは唇を噛み締め、ラチェフの言葉に従うしかなかった。
 

          ***


 青白い光を放つ苔が生す石の床を踏み締め……
 こちらに一瞥もくれることなく、煌めくような金髪を靡かせ、彼女が直ぐ横を通り過ぎてゆく。