二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
自分らしく
自分らしく
novelistID. 65932
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

彼方から 第四部 第十話

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 

 苔生し、木の根や蔦の蔓延る柱や壁に、低く落ち着いた声音が吸い込まれるように響く。
 現実とは思えぬような、怪しく異様な雰囲気に満ちた場。
 その場で再び捕らえられ……ノリコは青褪めたその面を、空恐ろしい言葉を放つ『ラチェフ』に、向けていた。

「だがそれでは、我々が彼を支配することは出来ない」

 彼に仕えているのであろう男たちに、荒々しく掴まれた腕が少し、痛い。
 半ば引き摺られるように『黒い渦』へと連れて行かれながら、理解する。
 彼らがどんな目的を以って、襲撃して来たのかを……
 そして彼らが――得体の知れない何らかの『力』を持っているのだということを……
 でなければ……
 任意の場へ瞬時に移動することの出来る『歪み』など、作り出すことも使うことも出来るはずがないのだから。
 
「……君は、その『為』の切り札だ」
 
 全身から……
 血の気が引く思いがする。
 何よりも考えたくない自分の『価値』を――
 この男性は、ラチェフという人は知っているのだと、思い知らされる。

 ――これは……
 ――あの向こうに見えるのは……

 『黒い渦』の向こう……
 まるで透けているかのように『向こう側』の景色が見える。
 見たことのない部屋と、見知らぬ人たち。
 そして……
 確かに見覚えのある二人。

 ――……あぁ……

 二人の姿に、得心する。
 彼らが、『何処かの国』や『他の誰か』の依頼を受けた訳ではないことを……
 あの日……
 自分が【目覚め】だと、イザークが【天上鬼】だと知ったあの日。
 あの日の因果が、『今』なのだと――――


          ***


「殺す必要はない。ただ消えてもらう」

 冷酷な言葉を、穏やかな口調で繰りながら……
 ラチェフが『黒い渦』へと歩みを進める。
 その歩調に合わせるかのように、ノリコを捕らえている男たちも『黒い渦』へと進んでゆく。

「彼の――」

 『黒い渦』が在る壁へと、自らの手を添えるラチェフ。
 青褪め、表情の硬い彼女を一瞥し、そのまま男たちへ目配せをする。

「あ……」
「――目の前から……」

 溶け込むように、渦の中へと連れて行かれるノリコ。
 完全に、彼らが渦の向こうへと姿を消したのを見計らい、ラチェフは壁を撫でるように、添えた手で『黒い渦』を払っていた。
 初めから、『何も』無かったかのように――『黒い渦』は跡形もなく消えてゆく。
 『能力者』ではないはずの、ラチェフの手に因って…………

 
 もう一つの異空間への入り口、『歪み』から、『気配』がする。
 そう、それは『何か』が、『歪み』を通る気配。
 勢いよく飛び出し、現れ出でた人物を見やる。
 少し、青みを帯びた肌……ブルーグレイの髪を靡かせ、瞳の色を水色へと変容させた【天上鬼】――
 …………『イザーク』の姿を。

 即座に、迎え撃つかのように対峙し、
「……来たね――」
 姿を変容させた彼の者に、満足げに薄笑みを浮かべるラチェフ。

 その言葉に、その表情に、焦りも動揺も有りはしない。
 ただ、待っていた。
 情報を集め、準備を整え、『力』を蓄え――
 待っていたのだ。
 
 今、この『時』を。

 望みを叶える為に必要な『力』を手に入れる……
 この『時』を――――
 
 
          彼方から 第四部 第十話 終

                第四部 第十一話に続く