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君に優しい世界を贈ろう

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CとGってのはわからなかったけど、音に重みがないってのはなんとなく理解できた。
「4重奏とかで演奏する時、ヴィオラはほとんど目立たねぇ楽器なんだよ。 パットしねぇって言うか・・」
「縁の下の力持ちなんですよね それで演奏する人も少ないんです 残念なことに・・・ ヨホホホホ」
進めてくるのは、つまり下手なのがバレにくいから なのかな?



「でもなコレは全~~~部大きさが小っさいのがいけねぇんだ!!」
力をこめて言う船長に面食らってしまった。
この船長が言う事は全て俺の薄暗く狭い世界に新しい風を吹かしてくれる。



「じゃあ大きければいいと思うだろ?」
そりゃそうだ 小さいのが原因なんだから。
「ここが一番重要な落とし穴だ。 いいか・・」
「本当の音を出したければ、バイオリンに比べて2対3の割合で長さも幅も大きくしなければならない。
つまり約54㎝でなければならないんだ!! しかし実際のヴィオラは39~41㎝。 弦の長さは49㎝必要なトコロ36㎝しかない。 幅上部19、中部13、下部24㎝・・・・」
「っおい 俺の邪魔すんなっ!!!」

「ブラッドの説明じゃまったく理解できなさそうだから 俺が代わりに。」
「オマエの説明じゃ解かりずれぇんだよ!!!」
確かに数字が頭を左から右へ流れていっただけだった。
しかし、この2人のやりとりは漫才を見ているような気分だ。



「あ~俺も詳しい事はわかんねぇだけどよ、つまりだ! コイツの言う“お数学的な法則様”の通りで作ったら、大きすぎて腕で支えられねぇってことだ。」
「本当なら力強くて、重圧で深い音がヴィオラの真の姿だけど、バイオリンと違いを出す為にわざと太くて重い弦を使ってるけど僕はこれがとても気に入らないんだ。」
ブルックでも腕足りねぇもんな と俺との長さを比較する。
さっきからあまりしゃべらなかった男は何処か不機嫌そうな顔で小型のヴィオラを非難する。


「こんな中途半端な楽器だがらヴィオラは下手なバイオリニストか御老体の管楽器奏者にしか演奏されてなかったんだ。」


「で、そのヴィオラをだな 是非ともお前に弾いて欲しいんだ!」
船長はそう言ったあとに 嫌なら・・別に止めてもいいんだぜ・・・? と子犬の様にシュンと項垂れてしまった。


その様子に慌てふためく俺に追い打ちをかけるように、
「君なら俺達にはできないヴィオラの本当の姿で演奏できるんだよ?!」
「リオさんのその長い手と大きな身体が必要なんですよ 我々には」
「なぁ 四重奏? いや五重奏でもなんでもいいが やろうぜ? 一緒によぉ」
なんなんだこの新たな宗教の勧誘みたいなのはっ?!!


でも悪い気は全然しない。
寧ろすっっっごく 嬉しい。
此処にいてもいい だけでも凄く嬉しいのに必要とされてることがこんなに幸せな事だなんて今まで知らなかった。

「俺 ヴィオラやりたいっ! あの・・えっとコントラ?・バスは大きいから俺でも弾けるかなって思ってただけだから・・・」
しどろもどろでもやりたいといった俺の気持ちはもう揺るがないものだった。
でも一つ残る疑問があった。

「でもちゃんとした大きさのヴィオラなんてあるの?」
もしかして凄く高いとか・・・
厄介になってる以上に迷惑をかけては心苦しい。


「ああ 心配すんな♪ 紹介しとくぜコイツがウチの秘蔵の弦楽職人!!」
若いけど腕は確かだぞ~ と紹介されたのは寡黙な顔立ちの整った男だった。
っていうかこの船の乗組員は船長といい、眼鏡の人といい、黒髪の人といいワリと美形ぞろいなのか?・・・


「僕が最高のヴィオラを作ってあげるよ もちろんお代は船長の身体で」
 「「っテメ 調子付いてんじゃねぇぞっ!!!(怒」」
「冗談だよ 船長から対価なんて取るわけないじゃないか」
澄ました顔で黒髪の人だけでなく表情も変えず眼鏡の人までからかうとは・・・恐るべし!!
俺は急いで心の危険人物リストに書き込んだ。


「ただ、ヴィオラは作った事ないから時間かかるよ?」
自分だけの楽器に今からワクワクしていて心が小躍りしだしそうなそんなソワソワ感に駆り立てられる。


「この船にはヴィオラ専門の奏者はいませんが、私を含めて教えられる音楽家が数人います。 専門知識もアルドさんならきちんと系統立てて教えてくれます。 一緒に演奏して欲しいと思った時はこの船全員が楽器を携えてすぐ飛んできます。 だから焦らず少しずつ慣れていけばいいんですよ 船にも音楽にも。」
大きく頷く俺に ああっ と長身の先輩音楽家は思い出したかのように呟いた。


「船長は楽器弾けませんけどね」
意地悪げに微笑むブルックに耳を疑った。

いつの間にか隣にいる船長に顔を横を振り向けたら、
――――俺もお前と同じだ 音楽が堪らなく好きなんだよ――――
と楽しそうに笑っていた。





この日俺は新しい世界を手に入れた。
あったかくって、気持ちよくって、広い広い世界を。
何処までも青くて、清々しい風の吹くその世界には、幸せの旋律が高らかに響いていた。
作品名:君に優しい世界を贈ろう 作家名:堕椿