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熱の行方

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「はっ……ぁ、」


煉獄は木の幹に両肘を突き、向き合うようにしたまま猗窩座に後ろから抱き込まれ、口の中を指で蹂躙されていた。開きっぱなしの口腔からははしたなく唾液が垂れ、彼の指先をしとどに濡らしていく。
隊服の前釦は外れ、シャツもはだけて下を寛がされた状況で、晒された後腔には指を二本受け入れていた。

燻っていた欲はすぐさま駆り立てられ、胎内をまさぐられると身体中の血液が下腹部へと集約していく。
震えるほどの快楽に甘い声が溢れるが、待ち望んでいたものとは程遠い。

猗窩座が耳元に顔を寄せ、揶揄するように囁いた。


「杏寿郎…、絡みついてくる。こんなにいやらしい身体で、ずっと俺を待っていたのか?」


煉獄の雄からは糸を引いて先走りが滴り落ち、ぴくぴくと刺激を求めて小さく跳ねている。
粘性の水音をたてて後腔を掻き混ぜていた猗窩座も、荒くなる息遣いを噛み殺すようにしていて。こちらに負担をかけないよう丹念に解してくれているのだろうが、今のこの身体には毒でしかない。

口の中の指に気遣いながら、煉獄は半ば吐き捨てるように告げた。


「っ……いいから、早く…挿れてくれ…ッ」

「……、…わかった」


余裕のない声に猗窩座は目を細め、手早く逸物を取り出すと煉獄の唾液をたっぷり纏った手で数回扱き、絡めていく。
先端を菊門にあてがうと、ゆっくりと押し拡げて侵攻した。


「く……ぁあっ、」


息を吸うことができないほどの質量を受け入れつつも、そこには痛みを上まわる快感が確かにあって。
猗窩座の優しさが見せる躊躇いがもどかしくてつらい。
どうしようもなく疼く身体に、煉獄は困惑していた。


「……杏寿郎、動くぞ」


静かに声をかけ、こちらの負担にならないようにと慎重に腰を揺らす猗窩座。
微弱な電気が神経を駆けまわるような気持ちよさに、腹の底へと蓄積する疼きは増す一方だ。


「はあっ、…も、もっと……奥に…っ」


求めるままに口をついて出た言葉は、熱に浮かされた譫言のように半ば無意識で。自身の聴覚が己の声を認識すると、顔を上げられない羞恥に襲われた。

猗窩座にとっても衝撃だったようで、彼は数秒のあいだ絶句したのちに平静を取り戻すためか一度深く息を吐き「もう少し慣らしてからでないと…」とやはりこちらを気遣ってしまう。

もういっそ気が触れるほどの快楽に溺れてしまいたい。数週間飼い殺していた熱は、ちょっとやそっとでは霧散してくれそうにない。


「問題ない……、奥を、強く…」


熱い。
顔が熱い。

我ながら平素なら考えられない発言だが、今なら相手の顔さえ見なければ口にできた。


「……。わかった。責任を取らねばならんのだったな。」

低い声で言いながら、猗窩座の両手が左右から腰を掴んでくる。

「杏寿郎が満足するまで、悦くしてやろう」


直後、猗窩座の雄がずるずると出ていき、思いきり奥に叩きつけられた。
視界に火花が飛ぶ。奥歯を噛み締めなければ、聞くに耐えない嬌声でも出てしまいそうで。
奥に到達した楔で、更に壁をぐりっと抉ってから再び引き抜かれていく。
怖いくらいの官能の波が、内側から全身を襲いびくびくと腰が痙攣する。


「う……ぁ、ああっ」


繰り返される動きの大きな抽挿。肌と肌がぶつかる音が夜の林に溶けていく。
次第にその間隔は短くなっていき、木にしがみついていないと立っていられないほど激しく揺さぶられる。
腰を引き寄せられ、強すぎる愉悦を確実に植え付けられていた。
閉じ切っていた扉がひらかれ、蓄え込んでいた茫洋とした熱が徐々に解放されていく奇妙な感覚。
身体が気持ち良さに跳ねるたびに、じわじわと満たされていく。


「腰が落ちてきているぞ、杏寿郎…っ」


見かねた猗窩座は煉獄の羽織を地面にぞんざいに広げ、木の幹から煉獄を引っ剥がすとその上に仰向けに横にした。
両膝を持ち上げられ、再度奥まで貫かれる。突かれる場所が変わったことで、急速に射精感が増した。


「そっ、…そこ、は…っ」

「…あまり締め付けてくれるな。達してしまいそうだ」


互いの胸を合わせるように身体を重ねて深く穿ちながら、険しい表情を浮かべて吐露する猗窩座。
気がつけば、ぐっしょり濡れた煉獄の雄は相手の鍛え抜かれた腹に擦り付けられていて、抽挿のたびにぬるぬると弱い責苦を強いられていた。


「はあっ、あ……猗窩座っ、もう…」


限界が近いことを必死に言葉を紡いで伝えると、猗窩座は小さく笑って一度煉獄の額に口付けを落とす。
健気に反り返った雄に指を絡めるようにしたかと思うと、腰の動きに合わせて全体を激しく扱いた。


「ぁああ…ッ、だ、めだ…!」


ぐちぐちと耳を覆いたくなるようないやらしい音が聴覚を犯す。
そして猗窩座の楔が己の奥を更に暴き、ずぶりと最奥に到達したことを引き金に一際大きく身体が跳ね、煉獄の雄は白濁を吐き出した。
猗窩座も自身を引き抜いて外で果てたが、余韻を味わう様子もなく、間をおかずに慌ててこちらに背を向けて蹲る。

それを視界の端に捉えた煉獄は、相手の不可解な行動を不審に思い、荒い息遣いをそのままに口をひらいた。


「…どうした」

「…無事だった」

「……?何がだ」


短く返す彼の言わんとしていることがわからずに切り返すと、猗窩座は膝立ちになってこちらを振り向く。


「俺の魔羅だ。先ほどの杏寿郎の締め付けは凄まじかった。今日こそちぎり取られたかと思ったぞ」

「……」


安堵の色も濃く逸物を見せつけて報告してくる猗窩座に、普段なら苦言のひとつやふたつ呈してやるところだったが、煉獄は拍子抜けして破顔した。

彼との情事はいつだって疲労困憊だが、今回は輪をかけて疲れた。それだけ張り詰めていたのだろうか。
しかし、これで身近な者に迷惑をかけずに済むならよかった。

大儀そうに起き上がり、手拭いで身体を拭いて煉獄は居住まいを正す。


「付き合わせてすまなかった。助かったぞ」

「ふむ…未だ理解が及ばんのだが……何があった?」

「……。」

「…?」

「きみは知らなくてもいい」

「いやそれはないだろうっ」


食ってかかる猗窩座に煉獄は腕を組み、逡巡してから顔を上げた。


「ならば一つだけ。色事を途中で中断した場合、可能な限り近いうちに訪ねてきてもらえるだろうか」


その言葉の意味を噛み砕くように猗窩座は数度瞬きをして、得心いったとばかりに「なるほどな」と頷く。
そしてにやりと口角を上げて煉獄の正面にしゃがみ込むと、目線を合わせて楽しげに笑う。


「しかし杏寿郎、お前は欲求不満であるとまるで修羅のようになるのだな。あの闘気は尋常ではない。また強くなっている。お前と久々に斬り合えて、俺はとても嬉しかったぞ」

「…あれは忘れてくれ」


上機嫌に猗窩座は言うが、あれはあんな未知な苦痛の元凶である彼に対する八つ当たりのようなもので。
頭の中はいかがわしいことでいっぱいだったわけで。

若干の気まずさに視線を逃す煉獄の胸中など知る由もなく、新たな一面を知ることができたと喜ぶ猗窩座であった。


fin.
作品名:熱の行方 作家名:緋鴉