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秘密兵器

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心底驚いたように見上げてくる為、やっぱり慣れないことは口にしないほうが良かったと猛烈な後悔と気恥ずかしさが押し寄せてきたとき。

相手の肩に置いていた右手の上腕部を捉えられてぐいと引っ張られると、続けざまに反対の手が後頭部にまわり引き寄せられた。

胡座をかいた男の装備のない足を間違って甲冑の足で踏まないよう、慌てて体勢を整えようと試みるが問答無用に唇が重ねられてそれどころではなくなる。
思いきりネツァワルピリの足に躓き、バランスを崩して相手に凭れる形になってしまった。

当の鷲王は全身鎧のこちらをしっかり受け止めた上で、口腔内を舌で暴き倒してくる。
痺れるほど強く舌を吸われ、裏筋を撫でられると情けないほど弱々しい吐息が口唇から零れ落ちた。


「…っ、は……ぁ」

「……ガウェイン殿、」


口付けの合間に低く官能的な声で名を呼ばれると、腰の内側からぞくぞくと震えが走る。

求められている。
そう実感できるから。

しかし。


「ッ外だろう…、もう離せ…」


相手の胸に拳を押し当てて顔を逸らすが、頭部をがっしりと固定した大きな手はどいてくれない。
鼻が触れ合うほどの至近距離のまま、ネツァワルピリは猛禽類のような鋭い瞳を無邪気に細める。


「何故であろうな、心が熱い。斯様に胸が躍るのは初めてであるぞ」

「…そ、そうか。わかったから……いい加減離せ」


狙いどおり、泰然とした皮を剥いでやることに成功したのかもしれないが、この童のような屈託ない笑顔もこれはこれでずるい。熱い。心臓が暴れて痛みすら感じる。

いつ誰が来るとも知れない中、冷や冷やしながらなんとか距離を取ろうと身を捩ると、ネツァワルピリが顔を傾けてこちらのこめかみ付近の髪にちゅ、と軽く口付けてきた。


「なっ…!」

「ガウェイン殿、愛している。お主を愛でたくて仕方がないのだ。すぐにでも抱きたいのだが、良いであ」

「わああああ!!良いわけがないだろうがこのド阿呆っ!!」

色気のある声が耳に直接注ぎ込まれ、堪らず大音声で突っ撥ねるとさすがに相手の脳みそまで揺さぶってしまったらしい。
一瞬緩んだ拘束から必死に逃げ仰せ、ばくばくと暴れ放題となっている鼓動を持て余しながら、甘やかされた右耳を手で抑えた。

「そっ、そういう声でそういうことを言って…俺を憤死させたいのか貴様!!」


恨みを込めて噛み付くが、ネツァワルピリはうん?と小首を傾げる。


「そうではない。憤死させたいのではなく、抱きたいのだ」

「ええい喧しい!真面目に言う奴があるか馬鹿がっ!」

「はっはっは!真面目も真面目、大真面目よ。さあ、参ろうぞ」

「ッ……、ど、どこに…」

「無論、我の部屋である」


ネツァワルピリは本を拾い上げて立ち上がるなり、にこりとなんの下心もなさそうな、可愛いとすら思える笑顔で手を差し伸べてくる。
まるで、エスコートを申し出ているように。

とっくに思考回路はオーバーヒートの末に焼き切れていて、ガウェインは反応できず硬直してしまう。


「行かぬのか?」

「……、……い、……行く…」


ぼそりと。
もし聞こえていなかったら断ろうという程度の適当加減で答えた。

しかし、鷲王は目だけでなく耳も良かったようで。

ぱっと破顔して、耳にやっていたこちらの手を優しく掴み、艇内に続く扉に足を向ける。


…知っている。
この天衣無縫の笑顔が、情事の際には凄絶な色気を孕んだ捕食者さながらの微笑に変貌することを。


手を引かれるままについて行きながら、少し本音を漏らしただけで彼の欲を煽ったのだという事実にこそばゆさを覚える。
ひとつ武器を手に入れたような高揚感を胸に秘めつつ、これから訪れるであろう甘いひとときに緊張するガウェインであった。


fin.
作品名:秘密兵器 作家名:緋鴉