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怨嗟ノ嘆_

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#1 絶望


 某日 17時
 
部活動のなかったこの日、
俺は学校の課題をするために図書室へと
足を運ぶ。
 
普段、放課後の図書室には誰も来ない。
1人でいられるこの空間が、
何の喧騒もないこの空間が…
家以外での数少ない居場所になっていた。
 
…だが、
そんな図書室から聞こえてきたのは、
女子数人の喋り声。
 
しかも、その喋り声は明らかにうるさく、配慮がなく、
素行の悪そうな口調だった。
 
…本当に運がない、特にここ最近は。
1人で心を落ち着かせることができる時間すら与えられないのか……

思わず 深いため息をついた。
 
しかし、ここでクヨクヨしていても
仕方がない。
 
ずっと教材忘れや宿題忘れが続いてるんだ。
今やらないとまた忘れてしまうに違いない。
 
1つ、2つ…

静かに深呼吸をして、
覚悟を決めた俺は扉を開いた。
 
 ガラガラ

…と言う音とともに
俺の視界に入ってきたのは、
やはりと言うべきか
女子が4人、座って楽しそうに談笑する姿だった。
 
受付担当の人がおらず
咎める存在がいないからか、
配慮もなくザワザワと
騒がしく笑いながら喋っていた。
 
見覚えのない顔…
最近入学してきた1年生なんだろう。
 
明らかに染められた髪、着崩された制服、
爪に施されたネイル…
 
俺にとって苦手なタイプの女子だった。
 
これから話しかけるわけでもないのに、なぜか緊張してしまう…
 
俺は、恐る恐る
女子たちの機嫌を損ねないように
 
視界に入らないように
 
彼女らと離れた場所の席に座った。
 
肩に担いでいたカバンを机に置き、
そこから宿題用のノートと筆箱を取り出した俺は、何も考えず宿題に取り組むことにした。
 
ここであの女子たちのことを考えてしまったらおしまいだ
 
俺とは絶対に関わりの無い人種なんだから
気にするな…
 
平常心…
 
俺は、女子の話し声を
気にしないように
自分に暗示をかけながら
ただひたすら、
宿題と向き合っていた。
 
大丈夫だ…
きっと何も起こらない…
宿題を終わらせるだけでいいんだ…
 
あの女子たちが俺に興味を示すことなんて、少しも…
 

しかし
 

俺の期待とは裏腹に、思いもよらぬ事態が発生する
 
近くに置いていたカバンが、
いきなりバランスを崩して
地面に落ちてしまった。
 
しかも、落ちたその場所は
女子たちの近く。
 
「きゃ!!」
 
「うわっ!!」
 
ドサッ
 
…と落ちる音と、
女子たちの声が室内に響く。
 
この時、
俺はカバンのことを疎かにしていたことを…
 
いや、図書室に入ったことを後悔した。
 
だが、もう遅い。
カバンは既に音を立てて地面に落ちているのだから。
 
またやってしまった……
 
俺は心の中で自分の不幸を嘆いた。
 
カバンが落ちてしまったことに気がついた俺は、
慌てて立ち上がる。
 
しかし、落ちたカバンは女子たちの方に近かった。
 
「えぇ〜」
「マジか〜」
 
気がつけば、女子たちは全員
カバンの落ちている地面を見ていた。
 
チャックを締めていなかったこともあり、
カバンから紙の何枚かが露わになっていた。
 
「あ……す す すみま…せ……」
 
気遣いからか、女子の1人がカバンから出てきた紙を拾い始めたのを見た俺は、
咄嗟に言いかける。
 
しかし、彼女が拾おうとする紙を見た瞬間、
俺は背筋が凍る感覚に囚われて
何も言えなくなっていた。
 
散らばった紙には、
昨日家で描いた漫画が描かれていた。
 
自分の思い描く世界を思う存分に描いた漫画だ。
当然、その中には
側から見ると少しおかしいような内容、発言もある。
 
そして、その漫画は
女子たちにも見える状態。
 
1人の女子が紙を手に取るのを見た
他の女子たちが次々と紙を手に取る。
 
そんな状況で、
何も起こらないはずがなく……

 
 ア ハ ハ ハ ハ ハ ハ

 
俺の漫画を見ていた女子たちは
一斉に笑い始めた。
 

「君は俺が守るぅ〜」
 
「やだー!!かっこいー!!」
 
「マジこれヤバいだろ!!」
 
「きゃははははは!!」
 
「うわー
ねぇ これ自分で描いたんすか?」
 

耳をつんざくような女子たちの笑い声が、
俺の心を蝕んでいく。
 
俺の作った漫画が
他人に笑いものにされるのは
本当に辛かった
 

「やべー
ワンピ超えてるわ」
 
「いやいや ワンピディスんな」
 
「あー ゆっこミスドだって」
 
「いこいこ!!ミスドブーム来てる!!」
 
「あ!ウチシフト入ってたわ」
 
「私もパスで」
 
「マジか〜」

 
しかし、
女子たちはいつまでも笑っているわけではなかった。
 
満足したからか 飽きたからか

暫く会話をした後に、
散り散りになって
図書室を去っていく。
 

「ハヤっち帰んないの?」
 
「ん〜 後で」
 
「マジ?もの好きか!」

 
しかし、どう言うわけか
1人だけ女子が座ったままで
立ち去る様子がない。
 
他の女子たちの話し声が次第に遠ざかり、
聞こえなくなっても座ったまま…
 
俺はその様子を見ているしかなかった。
 
 
どうしてこんなにツイてないんだ?
 
今すぐここから逃げ出したい
 
もう、これ以上苦しみたくない
 
俺は、泣きそうになるのを
必死に堪えながら
ただただ俯いていた。
 
そうすれば いつかイヤなことも終わるはずだ

…と思ったから。
 

 
しかし、この時の俺は知らなかった
 
今、目の前にいる1人の女子が
俺の人生を狂わせてしまうことになるなんて_

作品名:怨嗟ノ嘆_ 作家名:早瀬丸