怨嗟ノ嘆_
#2 追撃
この話は図書室_
俺が不注意からカバンを落としてしまい、
チャックの締め忘れで
中から自分の描いた漫画が飛び散ってしまったことから始まる。
拾うついでか
近くで談笑していた女子たちは
その漫画をみてケラケラと笑い…
そして何事もなかったかのように、
悪びれることもなく、
再び談笑しながらその場を立ち去っていった。
しかし、なぜか1人だけ
紙を拾って手に持って座ったまま
その場を離れなかった女子がいた_
女子は、どう言うわけか、手に持った漫画を
机に置いて、じっとそれを凝視している。
どうしたんだろう…?
俺の漫画が気に入ったのか…?
俺は、混乱していたこともあって、
棒立ちのまま動けなかった。
しかし次の瞬間
「私 1年だけど 2年?」
突然、その女子は俺の方を見て
話しかけてくる。
「う うん…」
俺は、咄嗟に頷いた。
「あは!当たり
じゃあ センパイ
ですね」
女子は、謎の笑みをこちらに向ける。
相変わらず立っていることしかできない俺を、彼女の瞳は捉えていた。
このやり取りから、
女子と俺の会話が始まった
「腕は立つが世渡り下手な剣士
ジークフリート!!
旅の途中で出会った
敵国の美しい女騎士エリザベートと共闘し
遂に魔王を倒すも
帰路の途中
待ち構えていた王国の兵士達から
攻撃を受ける!!
自分は何の為戦うのか!?
自問するジークフリートだったー!!」
女子はいきなり俺の漫画のあらすじを
楽しそうに読み始める。
彼女の向かいの席に座った俺だが、
何がしたいのか理解できない。目も合わせられなかった…
「要するにこれ
ジークフリートってセンパイ自身ですよね?」
にも関わらず、
女子は不敵な笑みで俺に尋ねてくる。
「い いや…そんなことは…」
俺は、彼女の言いたいことが理解できず
上手く言葉を紡げない。
「自分を投影した不遇な剣士が
美しい女騎士と出会い
戦いの中で徐々に心を通わせて…」
しかし、女子は俺の返事を無視して喋り続ける…
「だ だからそんなんじゃないって…」
痺れを切らした俺は、先ほどよりも強めの口調で言った。
「ああ いやいや
センパイの創作行為を笑うつもりは
ありませんよ?
ただ まあ
ジークフリートもセンパイも
かわいそーな奴だなーって」
(な…
何だ こいつ…?)
俺は、その言葉に返す言葉が見つからなかった。
それを知っていたからなのか、女子は間髪入れず、
「でも センパイ
漫画にあまりどうこう言うつもりは
ありませんけど
ここはちょっとどうかと思いますよ?」
漫画を指差して言う。
この漫画…
俺の描いた、この漫画
女子の指差したページには_
剣士ジークフリートと女騎士エリザベートの会話
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女などとうに捨てた!!\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"
エリザベートは刀を振るって見せて言う
それを聞いたジークフリートは
彼女のすかさず後ろ髪をめくり_
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そう返すのだった
その言葉に
エリザベートは赤面する_
2人の、少しロマンチックな掛け合い…
数コマの中に、
俺は描いていた。
「プ…ククク…」
それを見ていた女子は吹き出すのを堪えるような笑い声を漏らす。
「プクク…いやいや 笑いませんよ
ジークフリートは
センパイの分身なんですからねぇ」
言葉とは裏腹に、
手を口元に当てて笑っている…
「でも ちょっとおかしいですよ」
女子の口角は更に上がっていた。
「え…?な 何が…」
俺は、どもり気味に尋ねる。
一体、何がおかしいんだ…?
少し考えていると、
「よーし
じゃあ ちょっと
やってみますね!」
ガタッ
…と音を立てながら、
女子は勢いよく席を立った。
俺も、彼女につられて席を立ち
本棚の横の空いたスペースに移動する。
「やるって 何を…」
いきなりの行動に戸惑う俺。
「私 剣とか使ったことないんで
こっちでやりますね」
やはり、女子は俺の疑問には構うことなく話を進める。
俺の横で拳を突き立てるふりをしたと
思うと、
真剣な表情でボクシングの構えをとって
じっと静止する…
…と、その時
シュッ
キュ
ギュンッ
いきなり拳で
突き、薙ぎ払い…
そして華麗な足払いを
俺の前でやってのける。