怨嗟ノ嘆_
#3 侵略
後輩の女子に 泣かされた…
その晩は
あいつのニヤニヤした目つきが
小馬鹿にするような声が
脳裏に焼き付いて寝られなかった
風邪から治ったばかりの病み上がりの身体だったことも災いし、
朝日が昇るまで
ずっとトイレから出られなかった
ずっと吐き気と頭痛に悩まされていた
涙と汗を流しながら、
夜から朝までずっと
トイレにこもっていた
だけど、
出席日数のために
親を心配させないために
俺は学校に行かないといけない
朝になると
症状が落ち着いたので、
俺はいつも通り学校で授業を受ける事にした
だが、そこでも俺は
また忘れものをして、先生に叱られた
クラスの皆に
冷たい視線を送られた
授業を受けるのが
ただただ辛かった_
時は過ぎて 放課後
俺は、部活動で美術室に向かっていた。
いつも通りの差し障りのない日常
不幸続きだったけど
ようやく、落ち着いて過ごすことができそうだ…
そう思っていた
しかし
「セーンーパイっ!!」
美術室の扉に手を掛けたと同時
昨晩から耳に残っていた『あの声』が
背後から聞こえてきた。
そう、その声の正体は…
「ちーっす!!」
昨日、散々俺を揶揄った褐色肌の女子だった。
彼女の友達と思しき2人の女子が後ろにいる。
この2人は俺に興味はなさそうだった。
「あれあれ 部活っすか?
美術室?
センパイ美術部っスか」
それでも女子は、興味津々に尋ねてくる。
まさか、こんなところで
遭ってしまうなんて…
本当に運がない
予想外の事態に、
俺は困惑して黙り込む。
しかし、俺には
この女子にすることがある
「…洗濯しといたから…」
昨日
女子はハンカチを何故か俺に渡していた。
いくら揶揄ってきた女子とは言え、
流石に借りたものは返さなければと思った俺は、
彼女のハンカチを持参していたのだ。
「え〜
せっかくあげたんですけど〜?」
女子はこう言いながらハンカチを受け取る。
「じゃ…」
この女子と関わるのも、
もうこれで最後だ。
気持ちを切り替えて部活動をしなければ…
そう思い、
俺は部室に入っていく
美術室_
ここが、放課後に
1人きりでいられる場所だった。
1人きりで、
自分の世界に閉じこもる事のできる
唯一の場所…
気分転換に、キャンバスで絵を描こう…
そうすれば
昨日のことも、
今日あった不幸も、きっといつか忘れる…
そんなことを考えていた
次の瞬間
ガラ…
部室の扉の方から
音がする
ま、まさか…
咄嗟に扉の方を向くと
そこには、
昨日…
そして、さっきも会った
あの女子の姿が。
友達はいなかった。
入ってきたのは、この女子1人
扉の前に立つ彼女は、
またしても不敵な笑みでこちらを見ている…
「な…な…何しに…」
俺は動揺して言葉を発する。
「ん〜…
他に誰もいないんスか…?」
しかし、女子は
俺の言葉なんて気にも留めず
俺の安息の場所だったはずの美術室を
ウロウロし始める。
戸惑う俺は
返す言葉など見つからず
黙り込んでしまう。
すると、
女子は
「ひょっとしてぇ…
2人きりっスか…?
セ・ン・パ・イ」
不敵な笑みで再びこちらを見て言う。
「よ 用がないから帰れよ…!!」
入ってくることなんて予想していなかった
俺は、動揺しながらも彼女を追い払おうとする。
「あ〜 センパイ つーめーたーいー」
しかし、女子は全く気にしない。
美術室から出ていくことを
心の中で祈りながら
しばらくキャンバスに向かっていると、
何かを閃いたのか
突然
女子はパイプ椅子を持ってきた
そして、
それを俺の目の前に置いて座り出したんだ。
その直後
「センパイ
昨日のお詫びに
絵のモデル やってあげますよ」
女子は俺にとんでもないことを提案してくる
絵のモデル
自分から誰かに頼んだことなんて、1度もなかったことだ。
「い いいよ別に…」
だから、あまり気が進まなかった。
ただ帰ってほしいだけなんだ
俺は、ただ元の日常に戻りたいだけなんだ…
「遠慮しなくていいですよ
私今日暇なんで」
それなのに、この女子は帰らない。
「いや 遠慮とかじゃなくて…
そういうの描きたい気分じゃないというか…」
こんなことを言ったとしても、
何の意味もない。
「じゃあ
ちょっとエロい感じでいきます?
センパイ好きそうだし❤︎」
昨日から、
あの恥ずかしさと困惑の混じった感情が
俺の頭の中にこびり付いていた。
「はぁ!?
そそそ そんなことないから!!」
そのせいで、自分でも驚くぐらいには
まともな抵抗ができなくなっていた。
ニヤニヤしながら、
いきなりポロシャツから肌を覗かせる女子に対して、
俺は震えた声で返事をする。
この女子は、
未だに笑みを浮かべていた。
「そ そういうの
全然興味ないし…!!」
きっと、女子の思う壺なんだろう…
「え?ヌードモデルなら描くって?
仕方ないですねー…」
どんな言葉を返しても、
怯むどころか更に揶揄ってくる。
「わ わかった!!描くから!!
フツーの!!フツーので!!」
やはりと言うべきか、
先に折れたのは俺だった。
ポロシャツから肌を見せ続ける様子を
見ていられなかった…
女子の揶揄いを止めるように、強めの口調で俺は言った。
「あははははっ
センパイおかしー
フツーの!!
フツーの〜だって!!」
それを聞いて、面白そうに笑う女子。
1人で美術部の部活動をやりたかったんだけど…
ただ、描いてやれば帰ってくれるんだろう。
俺は仕方なく
彼女のデッサンを始めることにした。
「…じゃあ
20分毎に休憩で」
集中力を保つため、
…そして何より、少しでもこの緊張を和らげるために、
休憩を挟みながら。
「うぃーっす」
スマホのタイマーをセットした俺は、
女子の軽い返事と共に描き始める。
…だが、作業は中々進まない
モデルとなった女子をチラッと見るだけで
緊張してしまい、
手を中々動かせない…
チラッと見ては
キャンバスに視線を逸らす…
ほぼほぼ、それの繰り返しだった。
「センパイ
さっきからキョドリまくってますけど
ひょっとして…
全然描けてないんじゃないんですか?
そろそろ20分経ちますけど〜?」
俺の様子に見かねた女子は、
クスッと笑ってこう言った。
「い いや
アタリ取るのに時間かかってて…」
確かに、全然描けてないのかもしれない。
でも…
仕方ないだろ…
だって…
女子のこと正面から
じっと見たことなんて
一度もないんだから…
慣れてないんだよ 俺は
…すると女子は、俺の言葉を聞いてか