怨嗟ノ嘆_
「ちゃんと描けたら…
ご褒美 あげますよ❤︎」
更に、続けてこう言った。
「は…?
な 何…?ご褒美って…」
俺は訳もわからず聞き直す。
「ないしょでーす」
しかし、女子は答えてくれなかった。
別に……ご褒美なんてどうでもいいけど
絵は昔から描いてるんだ…
平常心で挑めば
こいつのことくらい
描ける!!
「ほら
がんばれがんばれ センパイ!!」
楽しげに手拍子しながら、
女子は言う。
平常心だ…
絵を描けばそれで終わる…
絵を描くだけでいいんだ
俺は、意を決して
再びキャンバスに絵を描き始めた。
たびたび休憩を挟むことにはなったが、
自分なりに、
一生懸命、
集中して絵を描いた
そして数分後_
拙いながらも
苦戦しながらも
俺はようやく、
この女子の絵を描き終えたのだった…
ひと仕事が終わった俺は
キャンバスの前のイスに座ったまま
じっとしている。
「ほうほう なるほど…
これがセンパイの全力ですか…」
女子は、キャンバスに顔を近づけて言う。
「ま まぁ…それなりには…」
これで満足だろ
もう帰ってくれよ…
…俺はそう思った。
しかし、女子は
「それじゃ約束通り
ご褒美ターイム❤︎」
俺の方を見て、
こんなことを言う。
そうだ
絵を描くのに集中していて忘れかけたが、
さっき、彼女は『ご褒美 あげますよ』と
言っていた…
まさか本当に、何かするつもりなのか…?
女子は
「目ぇつぶってください」
俺に近づいてきた。
「な 何で…!!」
当然、俺は戸惑って言う。
「いいから」
しかし女子は、
そんな俺の言葉を意に介さない。
「さ 先に理由を教えて…」
俺がこう言っても…
「いいから」
女子は、俺の言葉に
被せるように言い返すだけ。
…本当に…何がしたいんだ…?
戸惑いながらも俺は、仕方なく目を瞑ることにした。
何をされても良いように
俯きながら、目を瞑った。
女子が動いたのは、その直後
「…!?」
いきなり
クイッ、と俺の顎に手を当てて顔を上に…
自分と向かい合わせになるような向きにさせた。
そして…
い 息が…!!
ま まさか…
キ キス…!?
俺が目を瞑っているのを良いことに、
女子は自分の顔を俺の顔に近づける。
彼女の息が、俺の顔にかかるぐらい
近づけていた
俺は、緊張の余り…
そして、これからされるであろうことを
察してか…
無意識のうちに
口を尖らせていた。
しかし
ピンッ
女子の行動は、
俺の予想と違ったものだった
彼女は、
キスなんかするはずもなく…
俺の鼻に軽くデコピンしただけだった
予想違いだった彼女の行動に、思わず目を見開く俺
女子は、笑いそうな顔でこちらを見ている。
そして
次の瞬間
「アハハハハ!!
何スか その顔!!
ま・さ・か
キスされるとか思っちゃいました!?
ねぇ
ねぇ!?」
女子は
まるで爆発したかのような笑い声とともに
俺を揶揄い始めた
最初からそうするつもりだったんだろう
彼女の顔は笑い顔になっていた。
俺は、恥ずかしさのあまり
思わず目を見開いて唖然とする…
「こんなんでご褒美とか舐めてんスか?
ぜーんぜん 描けてないじゃないですか」
だったら
何で『ご褒美をあげる』なんて言ったんだ?
「特にこの辺り」
女子は
俺の絵を指差す。
「描くの恥ずかしかったんですね〜
女子のふともも
あはっ
センパイ
顔 真っ赤っスよ〜❤︎」
女子は、俺の目の前で
ふとももを見せるように飛び跳ねる。
「そのくせに馬鹿みたいな顔して
キス期待しちゃって…」
揶揄いは、まだ終わらない
「してないっ…!!」
俺がいくら強がったところで
「あはっ
センパイってちょっと面白〜い」
この女子には通じないんだ
「も もういいだろ…
用が済んだら 帰れよっ…!!」
君は…なんで…
なんで俺の美術室を
「ん〜〜…
どーしよっかなぁ」
なんで
俺の安息の場所を…
侵略するんだ_
「センパイ観察するの楽しーし♪」
女子は、必死に抵抗する俺の様子を見て
楽しんでいた。
「な 何だよ それっ…!!」
俺の感情なんて二の次だ。
…今まで、俺は不幸続きだった
「あれれぇ?」
君にはわからないだろ、そんなこと
「センパイ
瞼がピクピクしてますよぉ?」
友達と一緒にいればいいじゃないか
「こ これは…目が痒いから…」
それなのに
なんで 俺にこんなことするんだ
どうして 俺を揶揄うんだ
「あははは
センパイまた泣いちゃうのかな〜?」
お願いだから…
もう…
もう やめてくれ
「かっ 帰れって!!」
俺は、今まで以上に声を張り上げて
言った
とにかく、今すぐこの状況から抜け出したかった
だが
ガシッ
どう言うわけか、
女子は俺の両手首を掴んでくる。
必死に、俺が自分の顔を隠すために
今にも泣きそうなのを隠すために…
前に出した両手だ。
「ちょ…っ
な 何すんだよ!!
やめ…
やめろって…!!」
それを、この女子は
強引にどけようとしている。
「センパイ 男のくせに…
力
弱いっスね〜」
女子の力は、俺よりずっと強かった。
美術部の俺が抵抗できないほどに…
もう
俺に出来ることは
何もなかった
俺は、恥ずかしさと悔しさに負けて
涙を流してしまった
また泣いてしまったんだ
この女子に
また泣かされた
「クス…」
それでも、
彼女はニヤニヤしたままだ
「ぐす…っ」
俺は、涙を流していた。
すすり泣く声が漏れてしまう。
昨日のように、女子は
その涙をハンカチで拭き取っていた…
「ごめんなさい センパイ
またイジメちゃった…」
俺の涙を拭きながら
女子は言う。
「か 帰って…くれよ…」
俺は、泣きながら
弱々しい返事をした
「泣き止んでくださいよ センパイ…」
帰ってくれ
俺を1人にしてくれ
俺はそう思った
「な 泣いてなんか…ないし…」
今まで
人前で泣いたことなんてなかったのに…
こんな後輩やつに……
また…!!
「センパイ
今度また
がんばってちゃんと描いてくださいね
そしたら
すごーいご褒美
あげちゃいますよ」
嘘だ
どうせまた揶揄うに決まってる
「い いらないから…っ
ご褒美とか…!!」
この女子が、俺を泣かせた
ただそれだけじゃない