二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

怨嗟ノ嘆_

INDEX|9ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

#5 限界


 放課後_
 
俺は、1人で家への道を歩いていた
 
フラフラと
バランスを崩しそうなのを耐えながら。
 
俺は一昨日から一睡もしていない
 
しかも、食欲が湧かず
朝食と昼食を食べていない
 
そのせいか、俺の身体は疲れきっていた
 
休息を欲していた
 
 
だが、それだけじゃない
 
 
昨晩から
俺の耳がおかしくなり始めたんだ
 
誰も来るはずのない場所から、
『あの女子』の声が聞こえるようになっていた。
 
俺を揶揄からかってくる、あの女子の声が
 
幻聴が
 
 
家に帰って寝れば、きっと治るはず…
 
とにかく今は歩くことに集中しよう
少しでも早く、家に帰るんだ。
 
…そう思った
 
 
次の瞬間
 
 
 「センパーーイ!!」
 
 
後ろから声が聞こえてくる。
 
聞き覚えのある声…
 
それに、俺はびっくりした
 
 
まただ
 
またあの女子だ
 
しかも今回は
今朝からの幻聴よりも鮮明に聞こえる
 
こっちに走ってくる足音もある
 
 
俺は一瞬でわかった
 
…これは幻聴じゃない
 
本当に 来るんだ
 
あいつが
 
あの女子が
 
せっかく、家に帰ろうと思ったのに
 
1人になれると思ったのに
 
 
 「セーンーパイっ!!」
 「あはははは」
 「セ・ン・パ・イ」
 「キモいっスね センパイ」
 「あははっ」 「ねぇ センパイ!!」
 
 「ねぇ!!」
 
治りつつあった幻聴が
一気に悪化していった
 
まるで、
たくさんの女子に囲まれて
揶揄われているような、
そんな感覚に襲われた
 
 
 タッ タッ タッ
 
 
足音が、段々と俺の元へと近づいてくる。
 
 
…そして、それと同時
 
 
 ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
 
 
俺の心臓の鳴る音
 
それが、嫌に鮮明に聞こえ始めた。
 
あの女子の足音が大きくなる度
 
あの女子が俺に近づいてくる度
 
鼓動は速く、大きくなっていく
 
心臓が
ドクン ドクン…と波打つ、あの感触が
いつもより 不自然なほど
気持ち悪いほどに鮮明に感じた。
 
それだけじゃなかった
 
陽の光に照らされているはずなのに、
なぜか、急に肌寒さを感じ始めた。
 
フラフラとする感じも
酷くなり始めた。
 
悲しくないはずなのに
涙が、ものすごい勢いで目から溢れ出した。
 
 
まずい
 
 
この瞬間、
俺は察した。
 
早く家に帰らないと
 
女子に追いつかれてしまったら
 
女子に揶揄われてしまったら
 
もう正気でいられなくなるかもしれない
 
昨日までは
なんとか我慢できたが、
もう限界だ
 
もう、構ってられない
 
そう思った俺が
次にとった行動
 
それは
 
 
 タッ タッ タッ タッ
 
 
彼女から『逃げる』ことだった
 
 「センパーイ
 
 待ってくださいよー」
 
走り出した直後、
あの女子の声が聞こえる
 
楽しそうなあの声が
 
しかし、俺は止まらなかった
 
もう振り返らなかった。
 
 
どうか俺に構わないでくれ
 
もう 限界なんだ
 
もう 耐えられないんだ
 
 
俺は、とにかく全速力で逃げた
 
何も考えず
 
なりふりなんて構うことなく
 
息が切れるまで
 
ひたすら走り続けた
 
 
 「センパイ」
 「ねぇねぇ センパイ」
 「待ってくださいよー」
 「聞いてるんですか」「セ・ン・パ・イ」
 
…しかし、
走っている時でさえ
幻聴は聞こえ続けた
 
 
一体 どうなってるんだ
 
 
あの女子の 小馬鹿にするような声が
脳裏に焼き付いて離れない
 
ずっと追いかけられているような感覚だった
 
俺は とにかく怖かった
 
 
数分後_
 
ゼェ ハァ ゼェ ハァ…
 
無我夢中で走っていた俺の身体は、
とっくに限界を迎えていた。
 
今まで以上に大きく息をしないと、
意識を保てそうになかった。
 
 タッ タッ タッ………   タッ………
 
足の動きをゆっくりにして後ろを見る。
 
もう、そこにあの女子の影はなかった。
 
スゥー……
 
ハァー……
 
俺は、深呼吸をした。
 
しかし その時
 
「……!!」
 
手足から、一気に力が抜ける
 
 バタリ
 
疲れた身体で走り続けたからだろう
 
俺は、まるでスイッチが切れたかのように
いきなり前のめりに倒れ込んだ
 
体力の限界を迎え
気絶してしまったのだ。
 
 
………………
 
 
…か
 
おい 
 

大丈夫か?
 
 
突然 声が聞こえる
 
落ち着いた、男性の声だ。
 
 
それを聞いた俺は
重たい頭を持ち上げ、
ゆっくりと体を起こした。
 
「…気がついたみてぇだな。
良かった良かった」
 
その声の正体は、
白髪の年老いた男性だった。
 
「お……俺は……何…を…?」
 
当然、俺は混乱する。
 
「気絶してたんだよ アンタは
走っていたと思ったら
いきなり倒れたモンだから
びっくりしちまった」
 
そんな俺の肩を優しく叩きながら、
お爺さんは言う。
 
「そ そうなん…ですか…
 
す すみません……」
 
俺は謝った。
 
「いやいや
気にするこたぁねぇ
俺だってこの数十年 数え切れねぇぐらい
ぶっ倒れちまってるからよ」
 
しかし、
彼は全く気にしていない。
笑顔でこう言った。
 
すると
 
「…それよりよ」
 
お爺さんの顔が、いきなり険しくなる。
 
「俺ぁ見てたんだ、
アンタが走ってる瞬間の顔。
 
何かに怯えてるような顔だった
 
…何か あったんか?」
 
俺の目を見て、お爺さんは言った。
 
真剣な表情だった。
 
しかし、俺は気絶して目が覚めたばかり。
 
気絶する前の記憶は、
すっかり抜け落ちていた。
 
思い出そうにも、思い出せない。
 
しばらく考え込んでいると、
お爺さんは、俺の今の状態を察してか
 
「…そうか
 
目が覚めたばっかりだってのに
変なこと聞いちまって悪かったな。」
 
険しくなっていた顔を緩めて言う。
 
「あ ありがとうございます…」
 
近くに落ちていた俺のカバンを拾って、
お爺さんに礼をした。
 
「アンタにはアンタの事情があるんだ
首突っ込みすぎるのも良くねぇな。
 
まぁ 無理だけはしねぇでくれよ。」
 
俺の去り際に、お爺さんはこんなことを言った。
 
そして、離れて行く俺に手を振ってくれた。
 
…もう少し話していたかった気もしたが、
早く家に帰らなければならない。
 
いったい何時間気絶してたんだろう…
 
空はもう、真っ暗だった。
 
所々にある街灯だけが
辺りを照らしている。
 
しばらく眠っていたからか、
平衡感覚はだいぶマトモな状態に
戻っていた。
 
 
そして
しばらく歩いているうちに
俺は無事、家にたどり着いた
 
 
「ただいまー」
 
俺が玄関で言う。
 
しかし、返事はない
 
俺の両親は
まだ仕事から帰ってきてないらしい。
 
 
それから俺は
風呂に入り、宿題を済ませ…
 
余計なことはせずに
ベッドに寝転がった。
 
気絶していたはずなのに、
目をつむると
あっという間に眠りに落ちていったのだった
 
作品名:怨嗟ノ嘆_ 作家名:早瀬丸