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レベル100の杞憂

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しかしネツァワルピリは、警戒心を解いたガウェインの首に慌てて腕を引っ掛けて顔を引き寄せ、声を抑えるよう立てた人差し指を口元に当てる。


「茶会なものかっ。お主…ジータがホワイトデーに男性団員からいくつマカロンを貰ったかわかっておるのか?」

「はあ?それは……、っ!?まさか…!」

「左様…。これまで彼女が我等の前で口にしたマカロンなど、氷山の一角に過ぎぬ。社交辞令であの子なりに当人の前で食べたよアピールをするその裏で、軽く100を超える残りのマカロンやクッキーが新入団員の口に押し込まれていたのだ…」

「な、なんだと…!?」

「星晶獣であろうと口の大きさは人のそれ…。ジータは有無を言わせぬ勢いで、許容量を明らかに上回る大量のマカロンを二人の口に次々と詰め込んでいたのだ。破けんばかりに張り詰めた頬と奪われるばかりの水分……ナタク殿は粉を吹いておった。」

生唾を飲み下すガウェインに、ネツァワルピリは更に続ける。

「しかも、マカロンが終わったかと思えば、次はチョコやケーキを持ち出してきてな…。笑顔で言ったのだ…『グランからだよ』と…」

「おい…まさかそれは、バレンタインの…?」

「おそらく……そうであろうな」

「っ…馬鹿な、この艇の女の数は男を遥かに上まわるぞ!200近いチョコを、マカロンのあとに食わされたというのか!?」


あまりの悍ましさにガウェインが思わず声を荒げた、そのとき。
不意に両者の頭上に影が落ちた。


「二人とも、なんの話?」


「「!!」」


二人が勢いよく顔を上げると、ジータが二つの特大パフェを手にテーブルの横に佇み、にこにことこちらに笑顔を向けていて。

ガウェインとネツァワルピリの視線は、嫌でもその異常な高カロリーエネルギーの塊であるパフェに釘付けとなる。
このあと問答無用でパフェを口腔内にぶち込まれる図がありありと脳裏に浮かび上がり、椅子を蹴倒して二人は揃って立ち上がった。


「わ、どうしたのっ?」


長身の二人を仰ぎ見つつ、前触れない行動に驚いたジータが目を丸くする。

単純に身長差を利用して距離をとってから、ネツァワルピリは口元を片手で覆い隠してパフェの侵入を防いだ上で笑ってみせた。


「はっはっは!美味そうなパフェであるな!我は少々食べ過ぎてしまったようだ、腹が痛い!」

「お、俺は用事を思い出した。失礼するっ」


同じく手で口を塞いで、ガウェインもそれに続く。
冷や汗すら滲ませた二人は、トレーを手にいそいそとその場を後にした。


「?」


ぽつんと取り残されたジータだったが、二人の恐怖に塗れた視線が突き刺さっていたパフェを見下ろしてから、同じ眼差しのネツァワルピリを先日目にしたことを思い出す。

合点するなり、ジータは可笑しくて思わず吹き出してしまった。
席で待っていたはずのルリアが、状況を見かねて小走りで近寄ってくる。


「どうかしたんですか?さっきの、ネツァワルピリさんとガウェインさんですよね?」

「ああ、ごめんねルリア。二人の勘違いがおかしくて…」

「勘違い、ですか?」

「うん。少し前に、来たばかりの団員に経験値アップのお菓子を配ってたんだけど、それを見てたネツァがこのパフェもそうだと思ったみたいで……慌てて口抑えて逃げてくんだもん」

「あはは…、確かにジータとグラン、ホワイトデーのあとによくあげてますもんね」


甘いものが苦手なネツァワルピリからしたら、さぞ恐ろしい光景に見えたことだろう。
普段泰然としている鷲王と無愛想なガウェインの珍しい慌てぶりを見ることができて、なんだか得をした気分になる。


「ネツァもガウェインも、もうレベル100だから大丈夫なのにね」


そう。
古参の二人は、特にそういったものに頼ることなく自分たちと一緒に修練を積んで、一緒に強くなってきた。
だからこそ、未知の儀式に見えたのかもしれない。


「今度指輪あげよう」

「わあ!また強くなりますね、頼もしいです!」


苦難を共にしてきた大切な仲間を愛しく思いつつ、ジータはルリアと席に座って食後のデザートであるパフェに舌鼓を打った。


fin.
作品名:レベル100の杞憂 作家名:緋鴉