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特別への一歩

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食材や日用品の補充のために降り立った島は、小さくも物流が盛んで、町と町が互いに協力しあう比較的治安の良い場所だった。

現在ガウェインが身を寄せている騎空団はかなりの大所帯であるため、依頼の合間に行うこの物資調達という行為は非常に重要となる。
その役割は団員の中で平等にまわされており、今回は己の番というわけだ。

そしてもう一人。
何かにつけて組む機会が多い男が、今回も同行している。

ちらりとガウェインは上背のある隣の男を見遣った。
普段の鳥を模した戦装束ではなく軽装ではあるが、その長身と堂々たる振る舞い、更に異様なほどに大きな荷車をひいていることで非常に目立つ。

その男、ネツァワルピリは仮面に隠れたこちらの視線に気付く様子もなく、人々の往来をどこか眩しそうに眺めつつ目抜通りを悠々と歩きながら口をひらいた。


「なかなか良い賑わいであるな」

「…観光地でもないのに人が多くて敵わん。さっさと終わらせるぞ」


この美丈夫だけでも目立つが、己の物々しい甲冑姿も相当に人目を引いているのだろう。
すれ違う人々の視線が煩わしくて、ガウェインは苛つきを隠すことなく舌打ちを漏らした。
そんなこちらの態度など慣れたものとでも言いたげに、ネツァワルピリは特に何も言い返すことなく「うむ」と口元に笑みを乗せて鷹揚に頷く。

暫くしてひとつの店の前で足を止め、ネツァワルピリは店先に立つ女性に声を投げた。


「失礼。お主はこの店の者であるか?」

「はい、いらっしゃいませ!何をお探しですか?」

「小麦粉をいただきたいのだが、この袋にお願いできるであろうか」


そう言って荷車から大人の腰丈ほどある深さの麻袋を取り上げて示してみせると、店員の女性はそれを受け取りつつも表情をやや引き攣らせた。
まあ、当然だろう。普通の客は片手で持てる程度の量を求めるものであって、業務用にしても規格外なのだから。

しかもそれを。


「三つ、口一杯に用意してもらえると助かるのだが」

「み、三つですかっ?」


さすがに大きな声も上がるというものだ。訊き返す店員の気持ちもわかる。
腕を組んで一歩離れた位置からやり取りを見守るガウェインにも、正気ですかとばかりの視線をちらりと一度投げて寄越した店員だったが、なんとか営業スマイルを取り繕ってネツァワルピリに向き直る。


「えっと……お持ち帰りはどのようにしましょう?」


子どもが二人ほど優に入る大きさの麻袋いっぱいに粉を詰めるのだ、その重量は例え我が騎空団屈指の体力自慢とて三つともなれば一人では運べまい。
当然の疑問にネツァワルピリは、軽装でも十分王としての貫禄と余裕、そして彼特有の屈託ない笑顔を惜しみなく店員に向け、己がひいている荷車に麻袋をひとつ口を広げて置いて見せた。


「うむ。このようにしてから小麦粉を詰めてもらえれば問題ない」

「で、でも…車輪が耐えられないと思います」

「はっはっは!この荷車は特別製でな。車輪が潰れることも、重さのあまりひけなくなることもない優れものなのである!」


確かにこの荷車は、十二神将の鳥神宮とかいう奴が拵えた言うなれば特別製ではあるし、性能も男が言うとおりの事実を備えている。詳細は知らないが、モーターが内蔵されていて小さな力で牽引できるのだとか。
しかし外見は木製であり、証明するものなどないため店員は貼り付けた笑顔を固まらせるばかりだ。

まるで自慢の宝物を披露するかのような、愉しげなネツァワルピリの態度と女に向けられる笑顔が、沈黙を貫くガウェインの神経を嫌に逆撫でした。


「そう、なのですか…?」

「我等を案じてくれるのだな。なんと思慮深い健気な娘よ。出来るならば我の妃として迎えたいくらいだ」

「え…ええっ!?」


案じているのではない引いているのだ馬鹿が!
しかもなんだその物言いは二重に引いているじゃないかこの鳥頭め!

胸中で喚き立て、奥歯をぎりと噛み締める。


「まあ、騙されたと思ってここに載せてはくれぬだろうか。我等は他の店をまわる故、急がずとも良い」

「あ……は、はいっ」

「よろしく頼むぞ」


口説くような口振りだったかと思えば、からりと人好きのする笑みを見せて荷車を店先に残し、片手を挙げて背を向けるネツァワルピリ。
わかってはいたが、ただのリップサービスであったことに溜飲を下げてそいつの後ろに続こうとしたとき、ガウェインの耳は女性店員の悩ましげなどこか熱に浮かされたような溜め息を拾って、たちまちのうちに息苦しくなるほどの憤懣を覚えた。


その後、果物を購入する際にも鷲王の人たらしは遺憾無く発揮され、サービスだと言われ購入予定の倍の果物を押しつけられたのだった。


「はっはっは!これは有難い!」

「……」


二人揃って両手にぱんぱんになった紙袋を抱え、うずたかく積まれたリンゴやらバナナやらに視界を圧迫されながら、先ほどの製粉屋に引き返す。

…面白くない。
非常に面白くない。
なんなんだこいつは。なんで俺はこんなに腹が立っているんだ。

道中上機嫌に笑うネツァワルピリに対し、ガウェインは苛立ちを抑えきれずに口をひらいた。


「…おい貴様、何故いちいちああいう言い回しをする」

「む?ああいう、とは?」


すっとぼけているのかと思いきや、相手の表情は本当に心当たりがないと言わんばかりで。
込み上げてくる得体の知れない強烈な苛立ちに歯噛みしながら、ガウェインは腕の中の果物を感情に任せて潰してしまわないようにだけ気を遣って、吐き捨てるように言う。


「っ、女どもに言っているだろうが!歯が浮くような鬱陶しい台詞の数々のことだ!」

「そのようなつもりはなかったが…」

立ち止まって噛み付くガウェインに、ネツァワルピリも立ち止まり形の良い眉を下げて苦笑した。


作品名:特別への一歩 作家名:緋鴉