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特別への一歩

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「我は思ったことを口にしているに過ぎぬ」

「ふん…、ならば醜い見目の者にも相応の言葉を贈るのだろうな?」


揚げ足をとるように言ってやるが、ネツァワルピリは挑発に乗ることなく緩やかに首を振る。


「人を傷つけて得る成長がどこにあろうか。日々の生活を送るために皆懸命に生きているのだ。細やかであろうと、その一助となれるのならば僥倖である」

「…大袈裟な奴め。大半の連中は日常に流されているだけだぞ。そんなぬるま湯に浸かっているような奴らに、貴様の一助とやらは過ぎたものだと思うがな。聞いていて不愉快だ」


往来の人々に視線を流し、その表情を仮面越しに見遣る。
誰も彼も、腑抜けた顔をしている。とても懸命に生きているとは思えないし、この男に言葉をかけられるような価値は見出せなかった。

怒気を孕んだ溜め息を落とすと、饒舌な相手にしては珍しく口を噤み、ぱちぱちと高い位置から意外そうな瞬きが降ってきた。


「…ガウェイン殿、もしやお主…」

「……?…なんだ」


続きを促すが、ネツァワルピリは猛禽類のような強い双眸を僅かに見開いて黙り込んでしまう。
何がもしやなのかは知らないが、ものすごく居心地が悪い。


「…言いたいことがあるならはっきり言え。それとも、まさか俺にも甘ったるい戯言を吐く気じゃないだろうな」


探られるような視線に耐えきれず、ガウェインは苦し紛れに憎まれ口を叩いて振り切るように目的の店への歩みを再開した。
五歩ほど距離があいたあたりで、後方から小さく笑う気配。


「…なるほど。ガウェイン殿はまこと、難儀な御仁であるな」

「俺が難儀だと?貴様、馬鹿にしているのかっ」


反射的に振り返って食ってかかるが、ネツァワルピリは嬉しそうに目を細めるだけで歩き出す。
すべて見透かされているような心持ちになり、ガウェインは顔を顰めて果物を抱えなおした。


+++


小麦粉を注文しておいた店に戻ると、置いてあった荷車には白い粉に満たされた大きな麻袋が三つ、どっしりと鎮座していた。
こちらに気がついた先程の女性店員が顔を出し、心持ち頬を上気させて俺ではなくネツァワルピリを見上げる。


「お待ちしてました!」

「おお、これは美しい!質の良い小麦粉であるな。これならば厨房の者の眼鏡にも適うであろう」


用意された品に満足そうに笑うネツァワルピリに、店員は幸せそうにはにかむ。
それをなんだか見ていたくなくて、ガウェインは荷車に果物が山と入った紙袋をどさどさと積んでいく。

奴が懐から財布を出し支払いをしようとすると、店員は内緒話でもするかのように背伸びをして長身の相手に顔を寄せた。


「あ、あの…たくさん買ってくれたので、たくさんお値引きさせて下さい」

「それはならぬ。事前に予約でもしてあれば話は別であろうが、突然押しかけてこれだけの量を準備してもらったのだ。迷惑であっただろう。ここは適正な金額を支払わせてもらいたい」


ネツァワルピリは半歩後退り、苦笑混じりに軽く手を振って申し出を辞退するが、店員はその腕にそっと手を添えて微笑んでみせる。
その様子を視界の端に捉え、やり取りを見ないようにガウェインは背を向けて荷車の隅に乱暴に腰を下ろした。


「いいんです。その代わり、この島に来たら絶対にまたいらしてくださいね」

「はっはっは!商売の手腕も素晴らしいではないか!お主に咎が向かぬのならばその厚意、有り難く頂戴しよう」


闊達に笑いながらやんわりと自身の腕から店員の手を外させ、提示された代金を支払うネツァワルピリ。
まだ話し足りないとばかりに口を開きかける店員に「世話になったな」と短く残し、荷車に座るこちらに呼びかけた。


「動くぞ、ガウェイン殿!次は調味料と酒であるな」

「……」


返事を待たずに荷車は動き出し、降りるタイミングを失ったガウェインはそのまま小麦粉と果物と共に運ばれていく。
十二神将お手製の荷車はそれだけのものを載せても尚滑らかに転がり、小さな機械音が尻の下から聞こえてくるだけで振動もほとんどない。
乗り心地も良く、そのまま頬杖をついて進行方向を一瞥する。
視線の先では、鍛え抜かれた広い背中が特に苦もなく荷車を引いていた。
先ほどの俺との応酬なぞ忘れているのだろう。あいつは鳥頭だから。

…ああ。苛々する。

別段、あいつと二人でいる分にはこんな気持ちにはならないのだ。
しかし第三者が関わってくると途端に不愉快になる。
普段と変わらない奴の物言いや、それに喜ぶ周りの者ども。そしていちいち気分が悪くなる俺自身に対しても、すべてが気に入らない。

あいつは周囲に媚びない。
相手の良いところをすぐに見つけ、声に出しているだけだ。本人もそう言っていたし、そこに下心はない。
つまりは奴の性格なのだ。

わかっている。
……わかっているが、誰とも喋らなければいいのに、と思ってしまう。

大きな溜め息を落として、ガウェインは前方の鳥頭に声を投げた。


「おい、ネツァワルピリ。」

荷車から飛び降り、足を止めて首を振り向かせる男に並ぶ。

「貴様は買いものをするな。サービスだなんだと、店の者に迷惑がかかるだろう」


ぶっきらぼうに言い放つと、ネツァワルピリは顎に指をかけて逡巡し、神妙な面持ちで頷いた。


作品名:特別への一歩 作家名:緋鴉