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言い方には気をつけましょう。

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「あっ、ねえねえネツァワルピリ殿ー!」


依頼のため降り立った町で適当に散策していたネツァワルピリの背に、軽薄そうな明るい声がかかった。
振り返ると、往来の中から手を振って駆け寄ってくる見知った金髪の垂れ目がちな顔が覗く。

十天衆頭目、シエテ。
同属性であるが為に交流は多く、気さくな性格もあって立場を超えて親しくしている男だ。


「シエテ殿、なんであろう」


足を止めて訊ねると、シエテはビシッと親指を立てて拳を握り込み、己の後方を何やら指し示して片目を瞑ってみせる。


「これからサウナ行くんだけど、一緒にどう?」

「ほう、サウナ!」

「だっ、駄目に決まっているだろうがっ!」


誘いに目を輝かせるネツァワルピリの長身を押しのけて、隣にいたガウェインが舌鋒鋭く噛みついた。
突然割り込んだガウェインにシエテはぱちくりと瞬きしてからへらりと笑う。


「あれ、ガウェイン殿。ネツァ殿で見えなかったよー」

「…ふん、こいつがデカすぎるんだ」


とはいえガウェインも決して小さいわけではなく、標準身長よりも大分上背はある。
どことなく不貞腐れたように返す青年に、構わずシエテは言葉を続けた。


「ガウェイン殿も行かない?3人で汗流しにさ」

「パスだ」


にこにこと愛想よく言うシエテに対し、あからさまに身体の向きを変えて取り付く島もなく拒否の意を示すガウェイン。
全空一の剣の使い手である男が「えー」と子どものようにぶうたれると、いつも軽やかに風を受けている金色の髪がしょぼくれたように萎れていく。

見かねたネツァワルピリが口をひらこうとするが、見計らったかのように思いきりガウェインの手が顔をべちんと叩いた。…口を塞ぎたかったのかもしれないが、顔面を鷲掴みにする勢いに出鼻を挫かれる。


「行きたいなら貴様ひとりで行けばいいだろう」


「いや、我も…」口の動きを阻害されつつもネツァワルピリが同行を申し出ようとすると、指先に力が入り顔の部品をもみくちゃにされ「ぐ、ぶ…ぬぅ…」などと意味をなさない音が溢れた。


「つれないなぁ。せっかく呪いも解けたんだからさ、もっと自由を謳歌してもいいんじゃない?」


唇を尖らせるシエテをあしらうガウェインの手を顔から引っ剥がし、ネツァワルピリは悪さをされないよう手首を掴んだまま声を上げた。


「シエテ殿!我も行っても良いであろうか」

「もちろんだよー」

「だからっ、貴様は行かなくていいと言っているだろう!」


噛み付くガウェインに、ふたりの不思議そうな視線が同時に注がれる。
その圧にたじろぎつつもガウェインは前言を撤回する気はないようで、苦虫を噛み潰したような顔をふいと背けてしまう。


「えーと、つまり…ネツァワルピリ殿に行ってほしくない理由があるってことかい?」

「ふむ…確かにサウナは初めて故、無作法により皆に迷惑をかけてしまう可能性は否めぬが…」

「ん?作法なんてないよ。複数人と入ったって、結局自分の時間を満喫するだけだからね」

「ほう、それは良い。内なる己と向き合うということであるな?」

「そういう入り方をする人も確かにいるよね。オクトーなんかもそうなんじゃないかな。まあ、大半は難しいこと考えずに行くんだろうけど。」

で?とシエテはガウェインに視線を戻す。そこには何やら楽しそうな色が滲んでいて。

「なんでネツァ殿は行っちゃいけないんだい?…ああいや、行ってほしくない、だったかな」

「……、」


ガウェインはぐっと何かを堪えるように押し黙るが、その顔はじわじわと赤みを帯びて耳まで染まりはじめている。
その様を見て、ネツァワルピリもはたと思い当たった。


「…もしや、」

しかし彼がそんな些細なことを気にするとは、と考えを否定しかけたところで、逆の立場に置き換えて想像してみてすぐに理解が及ぶ。
ガウェインに真意を探るように横目を投げられ、ネツァワルピリはそれを真っ直ぐ受けとめて力強く笑ってみせた。

「そういうことならば心配無用!」


きっぱりと言い放つ鷲王にシエテが首を傾げる。


「え、なになに?なんの心配?」


話が見えずに訊ねてくる男に説明しようとネツァワルピリが口をひらくと、ガウェインが慌てて止めに入ろうと再び掴まれていないほうの手をその口元に伸ばす。
すかさず目を光らせたシエテが、ガウェインの後方に回り込み羽交締めにして食い止めた。


「なっ…この、離せっ」

「まあまあ、いいじゃない。で?なんの心配?」

「我は普段烏の行水でな、」

「わあああ!!…………あ?」口火を切ったネツァワルピリの上から被せるように大声をあげたガウェインだったが、思っていた内容と違ったのか間の抜けた一音を発して固まる。「何…カラス?」半ば呟くように問い返すと、鷲王は鷹揚に頷いた。

「サウナで湯当たりしないか、気遣ってくれたのであろう?」

「…いや、」

「心配には及ばぬ。湯船には浸かりすぎると眠くなってしまうためすぐに出ているが、特段暑さに弱いわけではない」

「……」


あまりに的外れな言葉にどう反応したものかと推し黙るガウェインだったが、ふたりの応酬を見ていたシエテは我慢できないとばかりに吹き出した。


「あっははは!いやー、なかなか苦労してるね、ガウェイン殿」

「どっ、どういう意味だ…」

「この天星剣王シエテを舐めてもらっちゃあ困るよ。」

拘束から逃れようと試みる男に殴られては堪らないと、シエテはガウェインの腕をしっかり固定したまま続ける。

「要するに、サウナっていう『場所』に行ってほしくないわけだ。さてネツァ殿。サウナって何をするところかな?」

「無論、汗をかくところであろう」

「そうだね。つまりどんな格好?」

「格好も何も…腰布一枚では?」

「正解。ガウェイン殿はそれが嫌なんじゃないかな」


でしょ?とシエテに訊ねられ、ガウェインは首まで赤くしながら沈黙を貫いていたが、それは同時に肯定でもあって。