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言い方には気をつけましょう。

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ネツァワルピリは意志の強い双眸を見開き、慎重に訊ねた。


「…ガウェイン殿、それはつまり……我の肌を衆目に晒すことが耐えられないという意味」

「き、貴様っ!言葉を選んでそれなのかっ!?もう少し言い方があるだろうが!」


暴れるガウェインからシエテが機を見計らってぱっと手を離し、勢い余ってたたらを踏んだところをネツァワルピリが掴みっぱなしにしていた腕をひいて胸にその体躯をおさめる。


「委細承知した!我としてもお主の肌をいたずらに視姦されるのは赦し難い。シエテ殿、お誘いは辞退させていただく」

「だからなんで貴様はそういう言い方を…!」


街中にも関わらず抱きしめようとしてくる鷲王から腕を突っぱねて逃れるガウェインだが、その表情には安堵の色が見えていて。
シエテはうんうんと温かい目で深く頷き、軽い調子で踵を返して手を挙げた。


「んじゃ、残念だけどひとりで行ってくるよ。ガウェイン殿、いじめてごめんね。今夜3人で飲もう」

「それは良いな!楽しみにしている」

「俺は飲まんからなっ」


対照的なふたりの反応にシエテは愉快そうに声を上げて笑い、雑踏に混ざっていった。


「……」「……」


見送った両者のあいだに微妙な空気が横たわる。
少しして、ネツァワルピリがどことなく芝居がかった咳払いを落として口をひらいた。


「先ほどの話であるが、今後はお主の心に配慮できるよう善処しよう」

「いや…俺も言葉にするのが苦手だからな。迷惑をかけんよう努力する」


ぽりぽりと指先で顎を掻いてぼそりと返すと、ネツァワルピリは素直なその言葉に嬉しそうに相好を崩す。


「何やらこそばゆいな!」

そしてガウェインの肩に腕を引っ掛けてぐっと顔を寄せると、甘く聴覚を犯す低い声音を耳元に吹き込んだ。

「…今すぐにでも、お主と肌を重ねたい」

「ッ!」


びくりと肩が跳ね、せっかく引いてきた顔の熱がぶわりとぶり返してくる。


「ガウェイン殿の熱に触れ、その身を内から溶かして愛でたいのだが……艇に戻っても?」

「くっ…、貴様、俺の心への配慮とやらはどうした…」


周囲には聞こえない程度の大きさで続けるネツァワルピリに、完全に茹で上がったガウェインが地を這うような恨めしげな声で訊ねるが、反省の色が皆無であろう凄絶な色気を含んだ微笑が返ってきた。


「そうは言うが、お主のあられもない声を聞きたいのは本心でな…」

「……おい。」

「うむ」


一転してにこにこと人好きのする笑みを称えるネツァワルピリの腕をそっと外し、ガウェインはゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。


「…ガウェイン殿?」


往来の妨げにならない端の方とはいえ、普段騎士としての振る舞いを卒なくこなしている男の突然の奇妙な行動に、ネツァワルピリは首を傾げる。


「…今は歩けん。貴様のせいだ、なんとかしろ」

「…なるほど。確かに我のせいであるな」


つまり、生理現象により立っているわけにはいかない状態である、と。

事態を理解したネツァワルピリは、己の首に巻いていた大判のマフラーを外してガウェインに持たせた。


「これを前に持てば問題あるまい。艇ではなく一度宿に入るが……如何かな?」

「…わかった。それでいい」


憮然とした面持ちの男に愛しげに微笑み、立たせてやる。
若干不自然な前屈みであることは否めないが、そこまで気にする者はいないだろう。

適当な宿がないかとネツァワルピリが周りに視線を走らせると、隣でガウェインが呟くように言った。


「……業腹だが、機転に感謝してやる」

「なに、我のせいであるからな。我の。」


非を認めているくせに嬉しそうな鷲王に「だから言い方を改めろ」と半眼で釘を刺し、呪いの解けた騎士はぶすくれた表情でマフラーを抱えなおす。

ゆっくりとした足取りで並んで歩くふたりは、雑踏の中に溶けていった。


fin.