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zoku勇者 ドラクエⅢ編 完全版 夢の町・再出発編

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船に戻って、いい加減距離が進んだ頃、目の前に岬が見えてきた。
 
「……ジャミル……」
 
「どうしたい?」
 
甲板にてずっと海を見ていたアイシャが不安そうな声を出した。
 
「何だか空が真っ暗よ……、怖いわ……」
 
「本当だ、何だか雨が降りそうだね……」
 
アルベルトも空を見上げる。
 
「……雨ぐらいならいいけど……、も、もし……、嵐にでも
なったら船が沈没しちゃうよおー!」
 
「嫌な事言わないでよ!ダウド!」
 
「……そうなったら泳ぐしかねーじゃん」
 
「ええーっ……」
 
「大丈夫だよ……、ナイトハルト様が提供してくれた船なんだから……」
 
 
その時……。何処からともなく声が聞こえてくる……。
 
 
……エ……、ッ……、ク……
 
 
「……何だ……?」
 
「……いやっ!」
 
突然アイシャが耳を押さえてしゃがみ込む……。
 
「どうしたんだよ!」
 
「痛っ!み、耳が……、キャアアーーッ!!」
 
「う……、こ、これは……、あっ……」
 
「アル!」
 
続いてアルベルトまで蹲ってしまう……。
 
「……いったーっ!いたーい!」
 
「……おいおい、ダウドまで……、本当にどうし……
うわあああーー!?」
 
「……ジャミルーっ!おねえちゃあーん!」
 
等々ジャミルまで倒れてしまい、ただ1匹無事なスラリンが
皆を心配してぴょんぴょん跳ね捲る。……そして、ジャミルの
頭の中に不思議な声が響いてくる……。
 
 
……ク……、リ……、ク……
 
 
最初は聞き取れなかったが、やがて声がはっきりと聞きとれる様に……。
 
 
エリック……
 
 
「……エリック?」
 
 
エリック……、ああ、エリックに会いたい……
 
 
そして声は悲しい歌声へと徐々に変わって行く……。
 
「……ジャミル!」
 
アイシャに呼ばれ、ジャミルがはっとし、ふと我に返った。
 
「アイシャ!大丈夫なのか……?」
 
「大丈夫よ、だけど……」
 
「この船……、押し戻されてるよお……」
 
 
「……うわぁぁぁぁぁーっ!!」
 
 
船は見えない強い力で元の方へ押し戻されてしまった……。
 
 
「……あー……、びっくりした……、マジで船から
振り落とされるかと思ったぜ……」
 
「……もーいやっ!あそこの岬通りたくない…!!」
 
よっぽど怖かったのか今日はアイシャが駄々を捏ねていた。
 
「いや……、通れっつっても通れないだろ……、
今日は休もうぜ……」
 
一行は宿泊出来そうな島を探し、船を留め、一晩其処で
休憩していく事にしたのだが……。
 
「……」
 
夕食時も4人はただ黙って黙々と食事を食べ続ける。
……何か考えているのか、流石のジャミルも今日は大人しかった。
 
「ジャミル、夕飯済んだらさ、アイシャ連れて外散歩でも
してきたら?」
 
「どうする?アイシャ……」
 
「行く……」
 
アルベルトの気遣いに甘え、ジャミルはアイシャを連れ、
船の外に出た。暫く島の周辺を歩き、二人は木陰に腰を
下ろして一休みする。
 
「わあー……、見てジャミル!きれいなお星さまよ!」
 
「うん……」
 
「……聞いてんの、ジャミル!」
 
「眠くって……、星が食えりゃいいなあ……、そうすりゃ
食う物にも困んねえのにな……」
 
「もう!ムードないなあ……、って、ジャミル、
寝ぼけてるでしょ……、……ジャミル?」
 
「……グウー……」
 
ジャミルはそのまま寝てしまった。
 
「頑張ってるのよね……、ジャミルも……」
 
アイシャは寝ているジャミルの頬にそっと手を触れる。
 
「子供みたい……、ジャミルって……」
 
そしてアイシャもジャミルにそっと寄り添い、そのまま静かに
目を閉じて眠る。
 
 
「あ、アル……、いたよ!」
 
「え?どこ……」
 
いつまでも戻って来ない二人を心配してアルベルトとダウドが
探しにやって来た。
 
「ありゃー……、凄く幸せそうな顔してるね、二人とも……」
 
「……今日はもう少しこのままにしておいてあげようか……」
 
「うん、だねえ!」
 
そして、翌日……。夜が寒かったのと、この二人の
気遣いの所為で……。



……船室中に響き渡るクシャミの爆音と咳のオンパレード……。
昨夜の夜散歩が災いし、ジャミルとアイシャは二人揃って
風邪をひいたのである……。
 
「……ふぇーっく!!」
 
「くしゅん、くしゅん!!……ごほっ、ごほっ!」
 
「えーと……、ジャミルが39度で……、アイシャが38度……」
 
「……あんなとこで寝てるからだよお、全く……」
 
「……起こせよ!」
 
「いや、あんまり幸せそうな顔してたから……、
ねえ、ダウド……」
 
「そうだよお!オイラ達、気を遣ってあげたんだよお!?」
 
……頼むからお前ら別の処でも気を配ってくれやと
ジャミルはベッドの上で熱に魘されながらそう思う。
 
「……ハア、頭いてー……、咳でる……、鼻水とまんねー!
……ひーっくしゅ!!」
 
「アル、これじゃ当分此処から出発出来ないよね……」
 
困った顔をしてダウドがアルベルトの方を見た。
 
「アルー……、身体が熱いよー……」
 
「少し我慢しようね……、何か食べないと……」
 
「私、何も食べたくない……」
 
「同じく、俺も……」
 
いつもは食い意地が張っているジャミルでさえ、今日は何も
食べたくないと言う。……いつもの元気がなく、身体が
かなり弱っている。
 
「食べなきゃ薬飲めないよ!」
 
「う~……」
 
……それから暫くのち、アルベルトが見るからにしょっぱそうな
薬草入りのスープを作って船室に持ってきた。
 
「……起きれるかーい?」
 
「う、ふう……、ふう……」
 
アイシャは顔が真っ赤でかなり苦しそう。
 
「平気?……僕が作ってみたスープだけど、昔、姉さんに
教わった事があって……、うろ覚えだけどね、あまり
美味しくないとは思うけど……、取りあえず飲んでみて……」
 
「ううん、そんな事ないよ、ありがとう……」
 
アイシャは嬉しそうに熱いスープをふうふうしながら
ゆっくりと口に運んだ。
 
「アル、ジャミルがね……」
 
「え?」
 
「うう……、座布団持っていくなー!山田ー!俺の座布団ー!!
座布団返せー!!」
 
「さっきから……、ずっと魘されてて……」
 
「……君は一体何の夢をみてんの……?」
 
ゆっくり休む様アイシャに言ってアルベルトは船室から
出て行こうとした。
 
「あ、忘れてた、ホラ、心配でずっとお見舞いに
来たがってたんだよ」
 
「ピキー!」
 
「あはっ、スラリン!」
 
アルベルトがドアを開けるとスラリンが喜んで部屋に
入っていき、アイシャに飛びつく。
 
「……けほ、でも、此処にいると風邪がうつっちゃうわよ?」
 
「にんげんとボクたちモンスターはちがうからへいきなのー」
 
「そうなの……」
 
「……おねえちゃん、かおあかいよー?だいじょうぶ?」
 
「うん、苦しいけどすぐに良くなるわ……」
 
アイシャはそう言ってスラリンを胸に抱き寄せた。
 
「ピキー……」