zoku勇者 ドラクエⅢ編 完全版 番外・恋するタマネギ編
頬をさすりながらアイシャが顔を赤くする。
「ピ……、ピ……、ピィィー!!」
「あらあら、お二人はとっても仲がよろしいのねえ、
素敵な事ですわ」
シスターが笑った。
「ピ……」
「スラミィ、あなたの気持ちは良くわかりますよ、けれど我儘を
言ってはいけませんよ」
「……ピキッ!?」
ジャミルは今度はスラリンを掴んでテーブルの上にドンと
置くとスラミィと目を合わさせる。
「今回、一番頑張ったのはこいつだよ……、お前の為に
一生懸命だっただろ?分るよな……」
「ピィ……」
「ジャミル……、そうよ、スラリンはスラミィちゃんを
助けたくて本当に頑張ったの、あんなに怖い思いをしてまで……」
「ピ……」
スラミィは俯き、ジャミル、アイシャ、……そしてスラリンの顔を
交互に見る……。
「……ピィィーーッ!!」
「ピキッ!スラミィちゃん!!」
「ジャミル!スラミィちゃんが外に行っちゃったわ!」
「ホラ、早く行けよ……」
ジャミルが指で軽くスラリンを突いた。
「ピキ?」
「……わかんねー奴だな!早く行ってやれっつってんの!」
「ピキッ!!」
スラリンは丸い体をぼよんぼよんさせながら転がる様にして
外へ飛び出して行った。
「……たく、世話の焼けるヤツラだな……」
「ふふ、人の事言えない癖にさ……、どうしようもないんだから……、
世話が焼けるのはそっちだって同じじゃないか……」
アルベルトがからかう様にしてジャミルの方を見てくすっと笑った。
「……アル、何か言ったか!?」
「なんにも~!」
「ハア、これで一段落つくといいね……、うーん、今日も
疲れたよお……」
お代わりのパイも全て平らげてしまい、お腹も一杯の
ダウドが大きく欠伸をした。
「そうね、私達もそろそろ船に戻らないと……、ね、ジャミル?」
「ああ……」
(……あいつら別れの前にちったあ進展すりゃいいけど……)
……状況が全く進展しないまま、スラリンとスラミィに
別れの時が近づく……。
場所変わって再び、スライム2匹・外、教会裏。
……2匹はまるで西部劇の様に互いにじっと見つめ合う。
「ピキ……(スラミィちゃん……)」
「ピィ……(あなたも……どうせ行ってしまうのでしょう……?)」
「ピキィィィ……」
「ピィィィ……(お別れは……大嫌いです……)」
「ピキ!(スラミィちゃん、あのねあのね!)」
「ピ……」
「ピキーッ!(ボク、いまはジャミルたちといっしょに
たびしてるけどいつかぜったいまた、スラミィちゃんの
ところにあいにくるよ!!)」
「ピィィィ……」
「ピキキー!ピキキキー!!(だってボク、スラミィちゃんの
ことだーいすきだもん!)」
「ピィー……」
「ピキッ!ピキー!(だからこれはかなしいさようなら
じゃないよ、またあおうねのやくそくのさようならだよ!!)」
「ピ……、ピィィィィ……(スラリンさん、ありがとう……)」
……実にストレートで単純なスラリンの愛情表現では
あったもののスラミィにはスラリンの気持ちが漸く
伝わった様だった。
「……どうにか上手く纏まったみたいな雰囲気だね……」
「うん、良かったわ……」
「あーあ……、スライムでさえ春が来てるのに……、オイラは……」
ダウドが下を向き、悲観に暮れる。いつもの事である。
「ま、100年後ぐらいにはどうにかなるんじゃね?」
「……ま、極度のバカップルにはなりたくないけどお?」
「うるせーな!!この……!!」
「ちょ、声大きいってば!!しっ!」
「……んむーっ!」
「ジャミルったら……、邪魔しちゃ駄目よ……、スラリン達に
聞こえちゃうでしょ……」
「んー……」
アルベルトに口を塞がれ、アイシャにも注意され……、
ジャミルが顔をしかめた。
「……皆さん、本当に有難うございました……」
シスターも教会から出て来てジャミル達4人に深々と頭を下げた。
「いえ、さ、騒がしくて申し訳ないです……」
アルベルトも慌ててぺこぺこと頭を下げた。
「アハハハハ……」
「えへへへへ……」
「あの子と出会って2年……、本当の実の娘の様に
育てて来ましたがそろそろあの子の本当の幸せを考えて
あげなければならない時期になったのかも知れませんね、
……いつの間にか大人になったのね……」
……シスターは愛おしい娘の成長を感じとり、
そっと目頭を擦るのであった。
「いやーまだまだ、先長いかもよ?何せさあ、ウチの
スラ公の方がさ、頭が幼稚園でどうて……」
「?」
「い、いい加減で……、そろそろお暇しないと……、ね?皆……」
「……アハハハハハ……」
「……えへへへへ……」
「もがっ!もがっ!」
(……バカ……)
又アルベルトに抑え付けられ、もがいているジャミルを
アイシャが横目で見た……。
……そしてスラリンとスラミィが別れ際にもう一度、またあおうねの
約束を交わし、4人はサマンオサを後にしたのだった。
……数日後……、船内、休憩室……。
「だーかーら!絶対やり方間違ってるって!塩入れ過ぎだろ!?」
「これでいーのっ!ちゃーんとシスター様の作り方見てたもん!
ジャミルのバカ!」
「何だとー!?誰がバカだっ!!このジャジャ馬っ!!」
「ピキー?おねえちゃんとジャミルなにしてるのー?
またきゅうけいしつでけんかしてるのかなあー?」
「んー?アイシャがパイを焼こうとしてるみたいなんだけど、
ジャミルが横から茶々入れてあの通りさ……、スラリンも
邪魔しない様にね、巻き込まれるから……」
「ちゃちゃー?おちゃー?ジャミルがおちゃいれるのー?」
「……」
アイシャはお菓子作りは結構成功する方なのだが、
心配性のジャミルが邪魔をし、カマをふっかけて
騒ぎになりそうであった。
「あ、いたー!アルー!オセロしよー、オセロー!」
其処へダウドが甲板に現れる。
「この本読んでから……」
「駄目だよおー!アルは一旦本読みだすと絶対
止まらないんだもの、早くー!勝負っ!」
ふんふん鼻息を荒くするダウド。どうしても勝負したいらしい。
「……はあ、しょうがないなあ……、折角の僕の大切な
読書タイムが……」
アルベルトは仕方なしに本を閉じると、階段を降りて
休憩室まで移動する。……スラリンは甲板に残り、
そのままぼーっと海を眺めていた。
「……こんどはいつスラミィちゃんにあえるのかなあ~……」
そして、また休憩室。
「ほぷしっ!あ……」
「!!きゃーっ!!クシャミ……、ジャミルのクシャミがーっ!!
……クリームの種にーっ!!いやーっ!!んもうーーっ!!
怒ったんだからーーっ!」
「わ、わざとじゃねえんだ……、出物腫物、所構わず……」
「ジャミルの……、バカーーーーっ!!」
「ピキー、カモメさん、カモメさん」
「ハイ、なんでしょうか?(カモメ語)」
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 完全版 番外・恋するタマネギ編 作家名:流れ者