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last advent

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「そいつは古代種の娘の姿を借りて私の邪魔ばかりする。挙句、最後のジェノバを奪われてしまった。私の中の最初の憎悪、私の燃料だったのに。まったく、意地の悪い意識体だ」
そう言ったセフィロスは穏やかで、悲しげにも見えた。クラウドが初めて見る弱ったセフィロスの貌だった。途方にくれている、そんな言葉がぴったりだった。
「無事に再臨できたとはいえ、原初のジェノバが失われたことにより因果が変わってしまった。お前の中の子たる細胞こそが次代の主になろうとしている。細胞の親子関係に係わらずイニチアシブの逆転が起きて、こともあろうに私の中の残滓を端末として働かせようと干渉している。多少抵抗をしてみたが、私はここへ来ざるを得なかった。何度も私を殺した仇に、しかも人形ごときに傅かねばらなんなど、皮肉なことだな。
……さあ、今のお前ならばたやすく私を屈服させることができるだろう。どうぞご命令を、ご主人様」
そう宣言したセフィロスは、言葉とは裏腹に尊大な態度を崩していない。ソファに足を組み座す姿は帝王の如く居丈高である。

クラウドには全く自覚のない話だった。自分の中のジェノバ細胞――もしくはインコンプリートとしてのクラウドを作り出したセフィロスの細胞が当の本人にそんな作用をしているとは。はた迷惑な話に、クラウドは眉を顰めた。
「あいにく、俺はあんたと違って人形遊びは趣味じゃない。帰ってくれ」
「帰る?どこへ?姿の見えぬところに遠ざけようとも無駄だ。お前の中のジェノバがそれを許しはしない」
「……いい加減、俺を開放してくれ。あんたは何がしたいんだ?俺を人形と呼んで好き勝手に操ってぞんざいに扱って……結局あんたは俺を殺さない。俺ばかりにあんたを殺させるのはやめろ。もう、放っておいてくれ」
「何を拗ねている?」
「あんたがおかしなことばかり言うからだ。殺されたくなければ出ていけ」
「……それがお前の本当の望みなら、そうしよう」
セフィロスの神妙な言葉にクラウドは虚を突かれた。
先ほどの話が本当ならば、クラウドが命じればセフィロスは意のままに動くということだった。かつてセフィロスがそうしたように。
――本当に望んでいるなら。
クラウドは今一度退去を命じる言葉を口にしようとし、やめた。セフィロスが再三の要望にも応えないということは、クラウドがそれを真に望んでいないという証左になってしまう。そんなはずはない。恐れがクラウドの口を噤ませた。

宿敵と相対するとき、クラウドの胸にあるのは強い怒りと憎しみ、やるせなさだった。幾度屠っても拭えない憎悪に、いつしかクラウドは疲弊していた。返事がないと分かっていても「どうして」と問いかけずにはいられなかった。故郷を焼いた動機を、その狂気の由来を知ることができたなら。理解できたなら、手放せない感情に決着がつけられると思った。その感情の名が何なのか、誰にも明かすわけにはいかなかった。

クラウドはしばし言葉を待ったが、腹の探り合いのような沈黙が続いた。
クラウドの意思や言うことなど一切無視してきた男が、他でもないクラウドの言葉を待っている。これが最初で最後の対話の機会なのかもしれない。クラウドは観念し、顔を上げた。
「あんたは……俺をどうしたいんだ」
「どうもしない。先ほど説明したとおり、今の私にはお前を操る術がない……望む資格もない」
自虐めいた笑みを浮かべてセフィロスは口を開いた。
「どんな理由があれ、許されることではない――お前も、そうなのだろう。私は、ただ……」
セフィロスは言いかけた言葉を飲み込んだ。望みを口にすることすら憚られたのか、神を自称する男が許されぬと知って口を噤むの望みとはいったい何なのか。

長い逡巡の後、セフィロスは重い口を開いた。
「……古代種の娘は、私とお前は同じ望みを抱いていると言った。お前が望むなら、私の望みは叶うと」
クラウドは愕然と目を見開いた。
「なんだよそれ……そんなこと」
あるはずがない。そう続けようとした言葉は出てこなかった。クラウドにはずっと秘していた思いがあった。しかしそれはあまりにも自分本位で、望むことが許されないと知っていた。
クラウドは目の奥に痛みを伴う熱を感じた。寒くもないのに指先が震える。喉の奥が渇く。久しく忘れていたが、それは涙腺が緩んでいるときの感覚だった。それを悲しみと呼ぶことすら惑った。守りたかった人を喪ったのは間違いなくクラウドのせいで、原因を運んでしまった自分には悲しみに浸る資格はないと思っていた。あの日の後悔が生々しく蘇る。古代種の住処、わすらるる都。星を守るため、祈りを捧げた彼女。それを屠った男と、それを食い止められなかったどころか彼女を害そうとすらした、無力な己の姿。胸が押しつぶされそうだった。
許されざる冒涜を懺悔したかった。けれど、クラウドの告解に優しいあの人はきっと許してしまうだろう。支えてくれた仲間たちにも合わせる顔がない。だから自分だけは自身を許さないでいようと誓ったのに。
クラウドはそれを否定しようとしたけれど、喉が震えて嗚咽がもれてしまいそうだった。代わりに、セフィロスがゆっくりと言葉を紡いだ。
「クラウド、私の望みは、お前だ。星の支配も、他の銀河へ渡る旅も、もう叶わない。けれど、お前だけは諦められなかった」
作品名:last advent 作家名:sue