天空天河 七
掠れた小さな声で、長蘇が言った。
靖王に、無理に軽口を叩いて、笑う長蘇が痛々しくて、靖王の眼に涙が溢れる。
「悪かった、、、小殊、、。」
そう言って靖王は、長蘇を抱きしめ、頬と頬を合わせた。
━━小殊、何て冷たさだ。━━
病のせいでそもそも、長蘇の体温は酷く低かったが、それでも、今靖王の腕の中にいる冷たい長蘇よりは、かなり温かいと言えた。
ぐったりと力無く、靖王を身体を預ける長蘇が、靖王の耳元で、苦しげに言う。
「、、、ぁ、、ぁ、、、ケイ、、エ、、、
、、、、、ヌイ、、て、、、。」
「抜く?、、、何を?、、。
これか?、、この胸の、、、、、、、、、!!!!。」
最後まで言葉を繋げない程、長蘇は苦しいのだろう。
長蘇の身体を改めて見れば、禍々しい異物が、長蘇の鳩尾に突き刺さっている。
あまりの異様な有様に、息も忘れる程、靖王はぎょっとした。
指先は真っ黒に染まり、腕や腹部も本来の長蘇の白い肌とは違う。
墨て撫でられたように、薄黒くなり、鳩尾からは、太く赤黒い血管が脈打っていた。
その中心に、小さな黒い玉が付いている。
禍々しいものは、そこから広がっていた。
━━一体、これは何なのだ!。
私が抜いても大丈夫なのだろうか。
小殊の苦しさの原因がこれならば、直ぐにでも抜いてやらねば。━━
靖王は長蘇の胸に刺さる、赤黒くなった玉の簪をそっと摘んだ。
「、、ぅ、、、、グッ、、、、、。」
痛いのか、声を漏らして長蘇が堪える。
「小殊、今ここで抜いても、大丈夫なのか!、本当に?!。」
しっかりと靖王に視線を合わせ、長蘇は目で頷いた。
それならば、と、靖王も覚悟を決めた。
「、、よし!、抜くぞ。」
簪を掴む手に、ぐっと力を入れ、靖王は抜こうとした。
簪は、深く刺さっているだけなのだろうが、根でも張っているかのように、びくともしない。
靖王は更にぐっと力を入れる。
━━なるべく小殊に負担にならないように、、。━━
「ぅ、、、、ン、、ン、ンン、、、。」
小殊が呻き声をあげた。
「だめ!!。」
そう言って、ぴしりと、飛流が靖王の手を払った。
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