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天空天河 八

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幕間五 安息の日々



 真冬だと言うのに、金梁は暖かい日が続いていた。


「茶だ。」
 そう言って、靖王が茶の入った器を、長蘇の前に置いた。
「、、、景琰、お前、思いの外器用だな。
 茶を片手で、しかも最後まで、、、。」
「片手で茶くらい、造作もない。」
 靖王はそう言うと、自分で淹れた茶を、ぐいと飲み干した。

「、、、。」
 長蘇も飲んだが、些か、眉間に皺が寄り、半分程を飲んで、ことり、と器を、目の前の文卓の上に置いた。

「小殊、不味かったのか?。」

「、、、これが美味いと?。」
 長蘇は、『おまえの舌はどうかしているのではないのか?!』位の勢いで、靖王を睨んだ。

「景琰、この手を離して、両手を使ったら、もう少し、『まし』な茶になるのでは無いか?。
 確かに茶なぞ、片手で淹れられるが。
 お前、ずっと私の手を握りっぱなして、、、。
 ものには限度というものが、、、。」

「、、、小殊から限度の話をされようとは。」
 靖王はそう言って、怒る長蘇の話を、嬉しそうに聞いている。
『限度を知らぬのは、昔から小殊の方だろう』、と、靖王の顔には書いてある。

 靖王自ら、茶を淹れるなど、珍事ではあった。
『茶など無駄、水で結構』が口癖の靖王だが、茶を好む長蘇の為に、茶を淹れた。
『茶なぞ誰でも淹れられる』、靖王はそう思っていたが、明らかな経験不足と、茶に対する認識の不足である。

「私の書房に来るなり、ずっと私の手を握りっ放しで、、、。
 、、、一体、何なのだ!、、イラ、、。」
 長蘇が怒って、靖王の手から逃れようとしたが、靖王は握った手に少し力を入れ、長蘇の手を離してくれない。
「、、景琰!、いい加減に、、、。」
 長蘇が怒って、靖王を睨んだ。

 だが靖王は、長蘇の手を繋ぎ直した。
 長蘇の指に自分の唇をあてる。

 唇がそっと優しく長蘇の指に触れた。
 朱唇がほっそりとした白い指に重なる。

 靖王には不適切だろうが、形良い靖王の唇は朱唇と言えよう。

 靖王の唇が長蘇に触れるのは、初めてではないが、長蘇の胸に、ぎゅっと甘いものが込み上げるのは防げない。
 長蘇は自分でも、頬が上気するのを感じていた。

「、、景琰、、どうしたのだ、、、、。」

 靖王の目が笑い、今、口付けた長蘇の手を、今度は自分の頬に当てた。
「、、っ、、。」
 更に長蘇に甘酢っぱさが込み上げる。


「、、この黒いのが、、、私に移って来ぬかと思ってな、、、。」
「は?。」

 靖王は真剣な目で話し続けた。
「、、、小殊が苦しんでいるのが、歯痒いのだ。
 少しこの黒いのが、私に移ってきたら、小殊は楽になるのではないかと、、、ずっと思っていたのだ。」
「は????。」

「懸鏡司での一件以来、以前よりも、身体が辛そうではないか。
 あれだけの痛みを受け、まだ回復しきらない。
 、、、やはり、その爪と、腹の痣が、回復を遮っているのだろう?。
 私では飛流の様に、祓えぬが、、、、幾らでも私に移せば、小殊は楽になると思ったのだ。
 私はそもそも健康体だし、辺境で更に身体が強くなった。
『魔』が少し入った位、私は何でもない。」
「、、、、、、。」
 靖王の余りの話に、長蘇は目を大きくして驚いていた。
 思い当たる節もある。

「、、、景琰、、もしかして、、、、懸鏡司から戻った夜、私の黒い痣を、自分に移そうとしたか?。」

「した。」
 臆面もなく、靖王は答えた。

「だが、身体まで合わせたにも関わらず、、残念な事に、私にはさっぱり移らずに、、。」
 靖王は、ふぅ、と大きく溜息をつく。

「、、、、情けない事に、小殊の方が先に起きていた。」
 長蘇よりも先に起きて、寝顔を眺めていたかったと、小声で囁いた。
『道理であの時、自分の衣が開(はだ)けていた筈だ』と長蘇は納得をした。

──あああ、、、、景琰ときたら、、、。
 本気でそう思っていたのか。
 あの時、現に、景琰には私の『魔』が移ったのだ。

 正直、手を繋いでいる今だって、私の中の『魔』が動いて、景琰の中に行ってしまいそうで仕方ないのだ。
 私は私の身体の中に、この『魔』を留めておくのに、苦労している。
 、、、景琰め、、、。──

「体温だけ、小殊に持っていかれたぞ。」
 ふふふ、、と、頬に長蘇の手を当てながら、靖王が笑う。
「、、、、体温を持っていって、悪かったな。」
 長蘇はそう言って、頬に当てられた手を引っ込めようとした。
 頑として、長蘇の手が頬から離れる事は無かった。

「景琰!、いい加減にしろ!。
 一晩、身体を合わせても移らなかったのだ。
 手を握った位で、移る訳がない。
 そもそも、私の身体から、移動したりしないのだ。
 あああ!!!、鬱陶しい、手を握られたら私は何も出来ぬではないか。
 、、、、景琰ッ、もぅいい加減に、、、。」
 いい気な靖王に、長蘇は少し苛ついた。
 それを察したか、靖王は、長蘇の手を握る力を緩め、長蘇はつかさず自分の手を抜いた。


 今日は暖かいとはいえ、急に解き放たれた長蘇の手は、冬の室内の空気に晒され、靖王の掌の温もりを再認識させられた。
 少しばかりの後悔を、長蘇の心は感じていた。


「小殊?、怒ったか?。」
「、、、少々、おふざけが過ぎだな。」
──景琰には、らしくないが。
 あの時の『魔』が、景琰に残っているのか?。
 こんな面白い奴では無かったのに。──


「小殊、機嫌を直せ。
 茶を淹れてやる。」
 そう言って、急須に残った茶を、長蘇の器に注いだ。

「、、、ぁぁ、、止めろ!。
 私がきちんと淹れる。
 太監が持ってきたと言っていたな。
 静妃が贈ってくれたのだろう?。」

「ん?、、恐らく。」

 改めて長蘇が、茶葉を匂う。
「良い茶だ。
 皇宮に献上された銘茶ではないか?。」

 茶葉など、靖王が求める筈が無い。
 靖王に茶葉を寄越すのは、後宮にいる静妃ぐらいなものだろう。
 容易に想像がついた。
 良い茶を入手したら、息子を思う母親らしく、愛息の住まう靖王府に贈るのだ。
「、、、そうなのか?。」
 静妃は、茶葉の善し悪しが分からぬ息子に、贈り続けるのだ。

 長蘇は静妃が、少し気の毒になる。
 『これが銘茶だと、何故、分からないのだ』、と長蘇は眉間に皺を寄せて、靖王を見た。

 そして急須の蓋を開けて、『うッ』と顔を背けた。
「景琰!、お前一体、何処の水を使ったんだ!。
 おぃッ!、誰か!!。」
「え?、水?、、、靖王府の井戸水をつかったのだが、、、。
 、、、、、そんなに酷くは無いだろう?。
 普通に使える水だぞ。」

「飲水には構わないが、この茶とは合わぬ。
 水の違いは分かるのに、何故、茶にはぞんざいなのだ。」
 配下が書房の入口に顔を出した。
「この茶道具を洗って、汲み置きして澄ました水を頼む。」
 配下に指示をし、配下は茶葉以外の道具を持って下がった。

「いいか、景琰。
 今から私が淹れ直す茶を、飲んでみるがいい。
 水の質というものが、どれ程大切か、分かる筈だ。」

 程なく配下が、綺麗になった茶道具と、水を運んできた。
作品名:天空天河 八 作家名:古槍ノ標