zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 ダウド大暴走
アルベルトがスリッパを取り出した……。
「……ジャミルっ!いい加減にしなさいよっ!」
アイシャが腕組みをし、ジャミルを睨んだ。
「はい……、すみません……」
「もうっ!」
「やっぱりこれが……、一番効果覿面みたいだね……」
「ねえ……」
一頻り騒いで夜は更ける……。
「……きゅぴ~……」
「あら……、チビちゃん寝ちゃったわ……」
「ん~、良く寝たわ……」
酔って暫く倒れていたジャミルが目を覚ました。
「……うひ~……、オイラ強いんだぞお……、ジャミルめ……、
この野郎、どうだまいったか……」
「……ねえさーん、むにゃ……」
「何だ、奴らも寝ちゃったのか……」
「ジャミル、私もそろそろ、チビちゃん寝ちゃったから、
もう寝るね、よいしょ」
アイシャがチビを抱き上げると。チビはむにゃむにゃと寝言を発した。
「……きゅぴ~、みんな……だいすき……」
「チビちゃん……?」
「寝言だよ、たく、この後生楽面は、産まれた時からずっと
変わんねえや、おいっ!」
ジャミルが軽くチビを突っつくと、チビは小さく声を出す。
「きゅぴ……」
「ふふっ、そうね……」
アイシャが笑う。
「俺、今日はこのまま此処で寝るわ、こいつらも起きねえし」
「そう?冷えるから風邪だけは注意してね……」
「ああ」
「……ジャミル」
「ん?」
「……私ね、本当は……、このまま……、ずっと……チビちゃんと……」
「アイシャ……?」
「ううん、何でもないわ…」
あどけなく眠っているチビの表情を見てアイシャが何か言い掛けたが
すぐに口を噤む。
「そうか……?」
「うん……、……来年も宜しくね、ジャミル……」
「……あ?」
アイシャがジャミルの頬にそっとキスをした。
「……おやすみー!」
チビを抱え、照れ臭そうにアイシャが船室まで慌てて走って行く。
「……」
一瞬何が起きたのか分からず……、ジャミルは暫くぼーっとしていたが
すぐに我に返る。
「……来年もいい年にしねーとな!」
この先に待ち受ける更なる困難の事も……、今はまだ何も知らない4人であった……。
夢の国のヘタレ 前編
年が明けて……。此処アレフガルドでも新しい年、新年を迎える。
「チビっ、待てっ!逃げるなっ!!」
「チビちゃん!駄目よっ!」
「ふわあ……、朝から騒がしいなあ……」
早朝から船内に響き渡る騒がしい騒音に目を覚まし、目を擦りながら、
アルベルトが休憩室から出て来た。……年が明けようが、この4人+αは
相変わらずだった。
「ぴいーっ!歯磨き嫌いっ!」
「観念しろっ!虫歯になっても知らねえぞっ!そっち逃げたぞ、
アイシャ、頼む!」
「おっけー!チビちゃんっ、大人しくしなさいっ!」
ジャミルとアイシャで二人がかりでやっとこさチビを捕まえる。
捕獲され、ようやくチビは観念し、大人しくなった……。
「びいい~……」
「はあ~、漸く今日も朝の歯磨きが終わった……」
「疲れた……」
「ご、ご苦労様です……、二人とも大丈夫かい?」
アルベルトが気遣い、心配する。冷える朝にも係らず、走り回った所為で
ジャミルとアイシャはもう汗だくになっていた。
「あー、しっかし、最近チビも歯がでかくなってきたからな……、
大変だわ……」
「うん、もう少し……、大きめのブラシの方がいいのかもね…」
「ぴゅぴ~……」
チビの口の中を覗き、点検するアルベルト。
「……アル、処でダウドはどうしたい?まだ寝てんのか?」
「うん、まだ爆睡してるみたい」
「たく……、年明けからしょうがねえな……、叩き起こしてくるわ」
ジャミルがドタドタ休憩室に走って行った。
「……」
「ダウドっ!起きろっ!」
「……」
「おい、聞いてんのか!もう新年だぞ、起きろってば!年明けたぞ!」
「……」
無理矢理に、ダウドに掛けてある毛布を引っ剥がすが……。
「……ダウド?」
ダウドは返事をせず、昨夜の状態のままテーブルに顔を伏せ
眠ったままである。
「おい、ダウド……?」
さすがにジャミルも心配になり、ダウドの身体を揺さぶってみる。
しかし呼吸はしているものの……、一行に目を覚ます気配がない……。
「ねえ……、どうしたの……?ダウドはまだ起きないのかい……?」
アルベルト達も心配して休憩室にやってくる。
「本当に……ダウドが……起きねえんだよ……」
「……けっけー、あけましておめでとりゅ、新年から失礼りゅ、そうりゅよ、
あのヘタレにこそっと魔法掛けたのリトルりゅよ、悪夢の夢の魔法りゅ!
これでヘタレは永遠におねんねしたままりゅ、いい夢見ろよりゅ!
……本当はあのクソ猿と全員に掛けるつもりだったのに……、
間違えてヘタレだけに集中して掛けちゃったのりゅ……、
まあいいりゅ、一人でも厄介者がいなくなればいいのりゅ、けけっけけのけー!」
……この小悪魔が何故チビを付け狙うのかは未だ不明だが、もはや
本来の目的よりジャミル達に悪戯を仕掛け反応を楽しむ方が小悪魔の
日常になりつつあった。こそっと様子を見ていた小悪魔は嬉しそうに
何処かへ飛んで行った。
「けけっけりゅー!屁がでりゅー!」
「ダウド、起きて……、ねえ……、冗談よね……?」
アイシャも心配そうにダウドの頬を触るが、ダウドは何も反応しない。
「こんな……、事って……」
「ぴゅぴ……?ダウ……?どうして起きないの……?」
チビも不安そうにダウドの側を離れずパタパタ飛び回る。
「死んでるわけじゃねえのに……、本当、どうしたんだよ、おい……」
「?ぴゅぴ……、ジャミル、ポケット、……光ってるよお……?」
チビが不思議そうにジャミルの顔を見て首を傾げた。
「鍵か?……これは……」
ジャミルは上着のポケットに入れてある竜の涙から変化した鍵を
取り出す。鍵が光りを放ち、ダウドの身体を包み込み照らすと、
ダウドの側に又、旅の扉が出来る……。
「また……、旅の扉よ……!」
「もしかして、此処からまた……、ダウドの心の中に行けるとか……」
「……行ってみるか…、俺達がダウドの精神の中に入って直接
ダウドを連れてくるんだ、何でダウドがこうなっちまったのか……、
原因はわかんねーけどな……」
「ぴゅぴ!チビも行く!」
チビがジャミルの肩にぴょんと飛び乗った。
「このままお前だけ此処に置いておけねえしな……、
よし!皆行くぞ!」
トリオとチビは旅の扉の中へ……。
「ん?……此処、何処だ……?」
周りを見ると、まるで見た事の無い不思議な田舎の
景色が広がっている。
「此処がダウドの心の中……?あるいは見てる夢……、なのかな……」
アルベルトも目で周囲を追う。
「何だか不思議な感じねえ……、懐かしい様な……」
アイシャも首を傾げた。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 ダウド大暴走 作家名:流れ者