黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 31
第百二章 虹の力
「ちきしょう、あんなのどうすりゃいいんだよ!?」
シンが叫び、歯噛みした。
「オレが行く! ハルマゲドンで相殺してやりゃなんとか……!」
「駄目です。破壊する力に破壊する力でぶつかっては、相殺するどころか吸収されてしまいます!」
イリスは言った。
「じゃあ、やっぱり爆発してウェイアードが消えてなくなるのを指咥えて待ってるしかねぇのか!?」
大声で捲し立てるシンの言葉を受け、イリスは口を開いた。
「成功する可能性がとても低いのですが、一つだけ方法があります。それは、ソルブレードの破壊の力の逆、ソルブレードに宿る第二の力、再生する能力です」
「再生する力?」
シンはすぐに理解できなかった。
「最強の癒しの力、っと言った方が分かりやすいでしょうか? 闇の力に光の力をぶつける、それで破壊の力を消し去るのです」
一同は理解した。
「だけど、どうやるんだ? 成功する可能性が低いって言ってたけど」
ロビンが訊ねた。
「順を追って説明いたします……」
言うとイリスは説明を始める。
まず第一に、この場にいるエナジスト全員のエナジーを一致させること。第二にその力をアネモスの巫女、シバに与えること。そして第三にロビンとイリスが、シバの体を媒体として融合することであった。
「私はソルに導かれし虹の女神。ソルの力が僅かですが宿っています。ソルは先ほど見せた通り光の力を持っています。私にも太陽の力、すなわち光の力があります」
「しかし、そのような悠長な事をしている時間があるのか? こうしている内に光球は大きさを増しているぞ!」
「ほんなら、オレにできるのはこれだけやな」
アズールが歩み出た。
「待たれよアズール殿。私も出るぞ」
ユピターも前に出た。
「待ちなさい、あんた達だけに良いかっこさせないわ。どうせ死ぬなら、イリスを守って死ぬわ」
メガエラも続いた。
「あなた達何をするつもりですか?」
「決まってるでしょ、あたし達があの光球にぶつかって威力を少しでも削ぐのよ」
「我々の力は微弱であろうが、それならば時間を稼ぐ事に使った方がいいだろう」
「そう言うことや。イリス様の為に死ねるなら本望や」
天界の三人衆は、捨て身の特攻をするつもりだった。
「お待ちなさい、三人とも、そのような命を投げ捨てるような事、絶対に許しませんよ!」
「許す許さないの話やない。この場にいてオレらが役に立てる事、それがあの黒いデカブツに突っ込む事なんや」
アズールは、これまでにないほど真面目な顔で言った。覚悟はとうにできている様子である。
「この場にいるエナジスト全員の力を完全に合わせること、そんなもの一度で成功するとは思えない。だから私達でこれ以上膨れ上がらないように特攻して時間を稼ぐのよ」
メガエラもイリスを守るため、と命を懸ける覚悟をしていた。
「私の力は守りの力。ここ一番で発揮できまする。イリス様の御身、このユピターが命を以てお守りいたす」
これから死にに行くというのに、ユピターは騎士らしく堂々としていた。
「お前達、本気なのか!?」
「本気やなかったら、こんな事言い出さへんで、ロビン」
「勘違いしないでちょうだい。あたしはイリスの為に命を懸けるの。あなたの為ではないわ」
「ロビン殿、騎士に二言はありませぬ。お引き留めしても無駄ですぞ」
三人の覚悟はもう、絶対に揺るがないものになっていた。
「さあ、もう時間があれへん。行くで、メガエラさん、ユピターさん……」
ユピターとメガエラは魔法の翼を広げて武器を持ち、アズールは水竜の姿に変身した。
そして三人は飛翔し、今もまだ膨張を続ける黒の球体、暴走した錬金術へと向かっていった。
「アズール、メガエラ、ユピター!」
ロビンが叫んだ。
アズール達はエナジーを全身に纏い、光の矢の如く球体に飛び込んだ。
暴走した錬金術は風穴を開けられ、そこから力が抜け出ていった。
はち切れんばかりの巨大な球体は、力が抜け、半分ほどに縮まった。
「アズールさん……ユピター団長……メガエラぁ……!」
イリスは涙に暮れていた。
「イリス、泣いてる場合じゃない。今がチャンスだ。ソルブレードの第二の力を解放するんだ! アイツらの死を無駄にしちゃ駄目だ」
「ロビン……」
「イリス、辛いのは分かるけど、今は堪えて!」
ジャスミンが語りかけた。ジャスミンも仲の良かったメガエラを失って悲しかったので、自分にも言い聞かせるように言った。
「ユピターは、ヒースから助けるよう言われてたからな。世界を救う、それがアイツらの意志だった。だから、オレが奴らの遺志を引き継がなきゃならねぇんだ!」
シンは力強く言った。
「みんなも、そう思うよな!?」
シンが声をかけると、仲間達はそれぞれ応じる返事をした。
「そう言うわけだイリス。さあ、涙を拭け。ソルブレードの力を解放しよう」
仲間達の様子を見て、ロビンがイリスの両肩を持ち、立たせてやった。
「……私としたことが申し訳ありません。今は泣いている時ではありません。彼らの遺志を引き継ぎ、暴走した錬金術を完全に消し去ってしまいましょう!」
志を一つに、ロビンとその仲間達が団結した瞬間であった。
「それじゃあやることがあったな。ここにいるエナジスト全員のエナジーを一致させること、だったな。どうするんだ?」
「ロビンはエナジーの担い手になってもらいます。正確にはロビンと私を除くエナジストのエナジーを一致させるのです」
「シバはどうなる? デュラハンの時のように融合の媒体となるようだが?」
「心配しないでください、ガルシア。今まで言ってきませんでしたが、シバには異種族の者同士を融合させる能力が備わっています。恐らく神と非常に近しいアネモス族が、ウェイアードの危機に、神と融合して危機を脱するために創られた能力なのではないかと考えられます。そう、まさに今の状況のように……」
「私にそんな力が……?」
シバは、両手の平を見つめる。
「それじゃあシバは、安全なのだな、イリス?」
「もちろんです、ガルシア。多少の刺激は有るかもしれませんが、命の危機に陥ることは絶対にありません」
安心するガルシアであった。
「ではやってみましょう。ガルシア、イワン、メアリィ、ジェラルド、ジャスミン、シン、ピカード。エナジーを発動してください、その後に微調整を行います」
「ああ、行け!」
「これで……!」
「祈りを……」
「行くぜぇ!」
「せえぃ!」
「持っていけ」
「はああ」
ガルシア達七人は、同時にエナジーを発動した。
「ジェラルド、少しエナジーを抑えて、メアリィは弱すぎます。もっと出力を上げて」
しかし、一致させるのに苦労した。どうしても誰かが強すぎるか、弱すぎるという差ができてしまう。
「全力を出す必要はありません。皆さんのエナジー、心が一致すれば、自ずとエナジーも一致するはずです!」
ーー心でーー
一同の考えが一致した。
ーーこのエナジーで二人をーー
ーー一つの存在にーー
ーー力まず心でーー
ーー慈悲なる心でーー
ーー悪しきものからーー
ーー二人を守ってーー
ーー世界を守ってーー
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 31 作家名:綾田宗