zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 さよなら、チビ
ジャミルが目を開ける……。以前、この場所を訪れた時は
僅かではあったがそれでも此処から感じ取れる、覚えている
懐かしい空気……。
「竜の……、女王の城だ……」
「……僕達、等々戻って来たんだね、上の世界に……」
「信じられないわ……」
「本当に……、帰って来ちゃったんだねえ……」
「……ぴきゅ?ここ……、何だかとっても優しい匂いがする……、
あったかいねえ……」
チビは懐かしそうに部屋の中をパタパタ飛び回る……。
「……チビちゃん、感じるのね……、やっぱり……、
あなたの……本当の……」
「勇者殿……?」
「あ、あんた達……」
以前と変わらぬ容姿のホビットの門番達がジャミル達を見る……。
「その、ドラゴンは……」
「……」
「ぴきゅ?こんにちは!」
「お、おおお、おお……」
チビがホビットに近づき、そして……。
「ぴきゅぴきゅきゅ!」
「……おお、おおおおお……!」
鼻の穴に爪を入れた……。
「チビちゃんたら!駄目って言ってるでしょ!もう~!!」
アイシャが慌ててチビを取り押さえ、ホビット達に謝罪する……。
「ぴきゅ~!!お鼻~!!」
「……女にはやらねんだよな、アイシャにもしねえし、宿屋の
おかみさんにもしなかったし……」
「フェミニストなんじゃないの……?」
「チビは性別ないよ……?でも、分んなくなってきたなあ……」
どうでもいい事で悩む男衆……。そして、4人とチビは
城の中にある特別な部屋へとホビットの案内で通される。
「そうですか……、おお……、あの、幼きドラゴンが……」
「何か、感じるものはあるかい……?チビから……」
「微かに……伝わります……、お亡くなりになった女王様と同じ……、
聖なるお力を……」
チビは不思議そうに部屋の中をパタパタと飛び回り、あっちへ
行ったりこっちへ行ったり……。
「分るモンなのか?」
「勿論ですとも、女王様は世界を守るお力を神からお預りになった
聖なるドラゴン……、凄い波動のエネルギーがこの我々にも
ひしひしと伝わるのです、チビ様も恐らく同じ力を宿している
筈です……」
「そっか、じゃあ……、チビの事はあんた達に任せるよ、頼むな……」
「……ジャミル!?」
……いよいよ来るときが訪れ、アイシャが反応し……、アルベルトと
ダウドも下を向く……。
「宜しいのですか……?」
「ああ、元々チビはこの場所に卵として存在していたんだからな……、
それが判ればもう安心だよ、帰ろう、これで俺らのお役目は終了だ……」
「きゅっぴ!?皆、何処行くの……!?チビも連れて行ってよ……!」
「チビちゃん……」
事態に気づいたチビが皆の処に慌てて飛んでくる……。
「あのな、チビ……、よく聞けよ……、此処は元々お前の
本当の故郷なんだ……、卵の時に誰かに盗まれてあの洞窟で
ずっと眠ってたんだよ、お前の本当の親は……、今はもういない
此処の城の主だった、竜の女王なんだ……」
「きゅっぴ!判んないよ、だって……、チビのパパとママは
……皆だよ……」
「お前は頭がいいんだから、理解出来るだろ?お前は将来、
竜の女王の跡を継ぐ存在なんだ……」
「……そんなのどうでもいいよおーっ!!チビは皆とずっと
一緒にいるんだよおーっ!!」
チビは怒って、又ジャミルの鼻の穴に爪を突っ込もうとした……。
……そんなチビに、ジャミルは突き放す様に……、強い口調で
言い放つ……。
「いつまでもふざけてんな!……子供はいつか親から離れるんだよっ!!
もう、俺らがお前の面倒を見る時期は終わったんだ、正直、もう……、
うんざりなんだよ、うるせーお前の面倒なんか看るのはよ……、
これで清々すらあ……」
「……っ!」
状況に耐えられなくなったアイシャが堪らず、部屋を飛び出す……。
「アイシャっ……!」
「アル、駄目だ……、堪えてくれや……」
「ジャミル……」
「じゃあ、……チビ……、いい子になるから、だから……、
皆の側に……ずっと、置いて……?お願い……、ぴい~……」
「……アル、頼む……」
チビの方を振り返らず、ジャミルが静かに口を開いた……。
「判ったよ……、……ラリホー!!」
「……ぴきゅ……」
アルベルトがチビに魔法を掛けると……、チビはそのまま
静かに目を閉じ、眠った……。
「あはは……、赤ちゃんの時と……、同じ顔して眠ってるよお……、
チビちゃん……、これでさよならだね……、楽しかったよお、
ありがとうね……」
ダウドが眠っているチビの顔にそっと触れる。……ダウドの目からも
涙が一滴、チビの顔の上にぽたりと落ちた。
「じゃあ、俺らは本当にこれで……、チビの事頼むな?可愛がって
やってくれよ?こいつは本当にいい子だからさ、俺達の自慢の子供だよ……、
まあ、馴れないうちはどうせ我がまま言うから大変だと思うけどさ……」
そう言い、ジャミルが眠っているチビをホビットに手渡す。
「もちろんですとも……、我らホビットも今は亡き女王様の志を
受け継ぐ者として、この子を大切にお預り致します……」
「今までチビ様をお守りして頂き本当に有難うございました……」
ホビット達が深々とジャミル達に頭を下げた。
「本当に頼むぜ……?もう盗まれる事なんか絶対無い様に
してくれよ……?」
「御意!強化を警備致します!!」
「しかし、最後の最後まで……、眠らされちゃったね、チビは……、
しかも最後は僕らにだったもんね、はは……」
切なそうにアルベルトもそっと口を開いた。
「さあ、行こう……」
後ろを振り返らず、ジャミルが最初に部屋をそっと出ていく……。
「……」
男衆が部屋を出るとアイシャが無言で立ちつくし、ジャミル達を
待っていた……。
「アイシャ……」
「チビちゃんは……?」
「ああ、アルの魔法で眠らせたよ……、大丈夫だ、これで本当に
終わったんだ……」
「そう……、あはっ、良かった……、これで……、チビちゃんも……、
……うっ、ひっ……」
「おい……、もう無理しなくていいぞ……?」
「何よ、私は泣かないって前に言ったでしょ!泣いたりしないわよ、
泣くもんですか……!」
「無理しなくていいっつってんだろ、……んな、顔くしゃくしゃにしてよ……」
「……泣かないったら!泣か……ひっく、ぐす……」
「バカだなあ……、たく……」
……アイシャはそのままジャミルの胸に顔を埋め、
嗚咽し、泣き崩れた……。
「……これから、オイラ達、どうするの……?」
「アリアハンに戻ろう……、俺も久々にファラにブン殴られてくらあ……」
覚悟した様に困ってジャミルが頭を掻いた……。
「そうだね……、僕のルーラで戻れるから……」
「行こう……」
1部・完
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 さよなら、チビ 作家名:流れ者