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うたた寝枕はただ一人の特権

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 恥じ入る風情の冨岡に高揚感をおぼえた煉獄の声は、いかにも浮かれている。めずらしい冨岡の反応が、どうにもうれしくてしょうがない。もっと寝顔を見ていたいと悩んでいたくせに、我ながら現金なものだ。だが、喜びのなかには不安も少々含まれている。
「よく眠っていたなっ。そんなに疲れていたのか?」
 血鬼術のせいではないにしろ、煉獄の気配にすら気づかず寝入るのは、やはり不思議だ。案じる言葉をつづけようとした煉獄の唇は、一瞬早く発せられた冨岡の声に、ひたりと閉じられた。
「煉獄だったから」
 はて、これはどういう意味だろう。言葉の意図がわからず、煉獄は思わず首をひねった。
「俺か?」
「気配がして目が覚めたが、煉獄だとわかって、また眠ってしまった」

 虚を突かれ絶句する。言葉の意味を飲み込み、理解するにしたがって、煉獄の頬が熱をおびていった。
 あどけない寝顔。健やかな寝息。あれは……警戒心などまるでない無防備なあの姿は、近づいたのが煉獄だったから。煉獄であったがゆえに、穏やかで安穏とした眠りを享受したと、冨岡は言うのだ。
「……そうか」
「あぁ」
 他意などない発言かもしれない。よしんば先に悲鳴嶼や胡蝶が到着したとしても、冨岡は同じように無警戒な居眠りをつづけただろうとも思う。それでも。
 叫びだしたいような多好感と、幾ばくかの切なさ。千々に乱れる煉獄の心は、その理由をまだ見つけられない。
「肩、ありがとう」
「ん? あ、あぁ、気にするな! 寝苦しくなかったか?」
「煉獄だから」
 まただ。冨岡の言葉はわかりにくい。
「安心して眠れた」
「そ、そうかっ! それは良かった! 君の安眠に役立てたのならなによりだ!」
「いや……すまなかった」
 冨岡の言葉は、どうしてこうも心を乱してくるのだろう。謝罪の理由はわからぬでもないが、喜びに沸く心に水を差されたようで、心なし煉獄の眉尻が下がった。
「胡蝶や甘露寺ならよかった」
「っ、そうだな……俺より胡蝶たちのほうが、うれしいか」
 日頃の言動からして恋愛感情とは思わないが、やはり冨岡も男なのだ。かわいらしい女性のほうがいいに決まっているじゃないか。思い落胆する自分が不思議で、けれどなぜだか納得もする。
 きっと自分は冨岡に、傍らにあると眠れるのは煉獄だけだと思われたいのだ。そんな願望の理由は、もう少しで掴めそうな気もするが、知りたくないような気も少しする。
 それが冨岡にとっては望ましくない答えなら、気づかぬままでいたい。
 落胆を振り切ろうと笑みを浮かべた煉獄が視線を向ければ、冨岡はいかにもキョトンとした顔で、コテンと小首をかしげていた。
「うれしいのは、煉獄だろう?」
「いや、俺は君だからうれしかったが」
なんだかかみ合っているようでかみ合わない。んん? と顔を見合わせ、お互い首を傾げあう。
「煉獄だからと言った」
「うむ、言われたな」
「胡蝶や甘露寺の肩を借りるなんてするわけがない」
「まぁ、みだりに女性に触れるべきではないな」
「……もしかして、俺だから肩を貸してくれたのか?」
 信じられないと言いたげな、茫然とした顔をして冨岡が言う。その顔は先ほどまでよりもずっと赤い。

 答えを出してもいいのだろうか。理由を告げてもいいのだろうか。本当は、もうとっくにわかっていた、その答えを。花の色に染まった冨岡の顔に、煉獄は思う。自分の顔もきっと赤く染まっているのを自覚しながら。

「君にでなければ、しない」

 冨岡だから、小さな眠りを守りたいと思った理由。自分だけに、無防備な姿を見せてほしいと願った、その答え。

 答え合わせするなら、きっと今だ。もう迷っている時間はない。
 大好きな君の赤く染まった無防備な顔を、ほかの誰かに見られる前に。
 いくらでも君の枕になると約束するから、どうか正解だと笑ってくれないか。