笑顔幾歳、願いはひとつ
「本当だ。おーい、義勇さーん!」
道の先で手を振るのは炭治郎だ。嘴平や我妻もいる。禰豆子の姿が見えないが、留守番しているんだろうか。
義勇が歩み寄るより早く、炭治郎たちはまっすぐ駆けてくる。みんな笑顔だ。まぁ嘴平だけは相も変わらぬ猪頭だが。
「お誕生日おめでとうございます!」
近寄ってきた炭治郎にいきなり言われ、義勇はきょとんと目をしばたたかせた。
「知っていたのか」
「カナヲに聞きました! あ、正確には禰豆子が遊びに行ったときに聞いて、俺たちにも教えてくれたんですけど」
栗花落のもとには今も義勇のカルテがある。誕生日を知っていてもおかしくはない。
「異国では誕生日にみんなでお祝いするって、このあいだ輝利哉くんが教えてくれたんです。それで、義勇さんの誕生日が近いしみんなでお祝いしようって決めたんですよ。義勇さんには内緒にしちゃってごめんなさい」
「おいっ、早く行こうぜ! 子分その三やアオイたちが飯作ってんだ、腹減った!」
「おまえなぁ、禰豆子ちゃんのこと子分扱いするのいい加減やめろって言ってるだろっ」
炭治郎たちはわいわいと相変わらず姦しい。宇髄の嫁たちとの交流で女三人寄ればというのは本当だなと思ったものだが、炭治郎たちもじゅうぶん当てはまる。
「場所は輝利哉くんが貸してくれることになったんです。千寿郎くんも料理作るの手伝ってくれてるんですよ」
「雛鶴さんたちも冨岡さんの誕生日ならって、みんなでご馳走作るんだって。ちぇっ、色男はいいよなぁ! ずるいっ!」
「こらっ、善逸! 善逸の誕生日だってちゃんと祝ってやるから文句を言うなよ」
むくれながらも、善逸のときにも禰豆子がご馳走を作ってくれるからと言われ、すぐに脂下がる我妻。早く行こうぜと地団太を踏む嘴平。困り切った顔で二人をなだめる炭治郎。
あぁ、なぜだろう。泣きそうだ。
「不死川さんも輝利哉くんが誘ってくれたんで、待ってるはずですよ。村田さんや後藤さんも来てくれるって言ってました」
さぁ、と手を差し出す炭治郎の顔には、明るい笑み。機嫌を直した我妻の口元も、小さく笑っている。嘴平はちょっとわからないが、それでもきっと笑っているんだろう。
みんな、みんな、笑っている。きっと禰豆子たちもみんな、明るく笑って料理に精を出しているはずだ。
義勇の命の終わりを数えるよりも、生まれたことを寿いで。
「あぁ……ありがとう」
こんな日に、涙は似合わない。浮かびかけた涙をこらえ、義勇は笑った。
ほら、無駄じゃなかっただろうと、胸のうち幼い自分にも笑いかける。
空は晴れて、雪は降りだしそうにない。目の前には、お天道様より明るい笑顔。いつまでもと願い、義勇は炭治郎たちと並んで歩きだした。
願いはいつでもひとつきり。どこかで見守ってくれている愛おしい人たちの願いもまた、きっと同じだろう。
だから義勇は、やわらかな笑みを浮かべて歩く。守り、守られ、笑いながらゆっくりと。いついつまでも変わらぬようにと願いながら。
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作品名:笑顔幾歳、願いはひとつ 作家名:オバ/OBA