二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

恋は求め合うもの、愛は許し合うもの。

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 



「……」


左近は、困ったように笑う宗矩の背に徐に手を伸ばし、束ねられた艶やかな長い黒髪を掴んで容赦なく思いきり引っ張った。


「あいたたたたた!!」

さしもの大剣豪といえども毛根までは鍛えることはできないようで、引っ張られるがままに上半身を仰け反らせる。
手にしたお茶が溢れないよう死守する様子はさすがの一言に尽きた。

気が済むまで引っ張ってから解放すると、宗矩は仰向けで大の字に転がって白旗をあげ、弱々しく抗議してくる。

「いきなり…何…」

「何って、あんまり柄にもないことを言うからでしょう」


努めて素っ気なく言い放ち、溜め息をついてみせる。

…危なかった。あのまま空気に飲まれて流されてしまえば、何かが大きく変わってしまう気がして。
宗矩は立場や責任をすべて投げ打つ覚悟があるのかもしれないが、自分はそうではないのだ。取り返しがつかなくなる前に、いつもどおり茶化さなければ。
何も響いていないふりをしろ。何も届いていないふりをしろ。

何も、感じていないふりを、しろ。


「大体、人が死ぬのを前提に話を進めないでくださいよ。縁起でもない」


やれやれとばかりに肩を竦め、寝転がったまま物言いたげにこちらを見上げてくる宗矩から視線を外す。
少しすると、「あーもー」などと意味不明な声を漏らして宗矩は両手で顔を覆って、右へ左へとごろんごろん転がりはじめた。
体格が体格なだけに、かなり面積を要する挙動だった。


「…何してんですか」


図体に見合わない行動が滑稽なのに可愛く思えて、思わず吹き出して笑ってしまう。
ちらりと指の隙間を開けてこちらを窺う視線が非常に恨めしげであることがわかり、尚更おかしい。


「島殿はいっつもそーやってさァ…」


不服そうに唇を尖らせて、宗矩が転がったまま不意に腕を伸ばしてくる。
ほとんど防衛本能で、左近は手にしていた湯呑みをたんっ、と互いの間の床に音を立てて置いた。

同時に、宗矩の手がぴたりと止まる。


「…それ以上は、いかんでしょう」


無意識に、声が低くなる。
どうやら茶化して済ませてもらえるような話ではないらしい。彼は本気だ。
両者の間に、僅かに糸が張り詰めたような緊張感が横たわる中、宗矩が口を開いた。


「もう、楽になりたいんだよね。勘弁してよ」

「そうなれば……終わりますよ。全部」

「わかってるさ。拙者はそれを望んでるんだから」

「俺はそんなこと望んじゃいない」


この御仁は、俺を求めている。
豊臣を抜けて自分のところへ来いという勧誘は、過去にも数え切れないほどあった。
それでも頑なに首を縦に振らないこちらの意志の強さは、もう重々承知しているのだろう。
だから、彼はこう言っているのだ。

この関係をお終いにして、楽になりたい、と。
もう会うことをやめて、繋がりを断とう、と。


きっぱり言い放った左近に、宗矩は口元を歪ませて微笑する。


「……、酷だねェ。島殿はこんな爛れた付き合いがお好みなのかい?」

「そうですね。あんたを解放してやる気はさらさらありませんよ。そのまま一生、俺を想って追い続ければいい」


こちらが先に死ぬことは、情勢を見ても明らかだろう。
だったら、俺の死をその心にとくと焼き付けて、縛り続けてやろう。

ぐっと身を乗り出して、宗矩の唇に己の唇を重ねる。
細い目が見開かれたのがわかるが、構わず角度を変えて深く深く、繋がっていく。
逃がさないとばかりに舌を絡め取って、きつく吸い上げて、唾液を送り込む。まるで呪いのように。
最後にちゅ、と音を立てて顔を離し、挑発するように笑ってやる。


「簡単には死んでやりませんけどね。馬鹿な主人を、最期まで支えなきゃいけないんで」

「……そりゃあ、一筋縄じゃいかなそうだ」

「ええ。俺のわがまま、許してくれます?」

「……、」

にこやかに正面から訊ねると、宗矩はひどく切なそうに眉を潜めて小さく嘆息し、何かを堪えるようにそっと笑った。

「…生き地獄、だねェ」


その一言に、無意識に自分が安堵しているのがわかる。
流されて渋々続けていただけの関係だったはずが、いつの間にか己もこの男に執着し始めていることに気付かされた。
宗矩の言葉を借りるなら、求めている、というやつか。
しかし、自分のこれはなんだかそんなに綺麗なものではなくて、もっとドロドロとした後ろ暗い類のものである気がする。
そのうち、彼のすべてをまるごと受け入れて、許してしまうときがくるのだろうか。…この男のように。

そこまで考えて、左近は思考を打ち切った。
仮に、三成という存在がいなければ、そういった未来もあり得たかもしれないが、そうではないのだ。


「まあ、指を咥えて見ててくださいよ」


強気に微笑み、行き場をなくした迷子のような男の頭を、腕の中に引き寄せて、優しく抱きしめる。

それは差し詰め、閉じ込めて、繋ぎ止めているかのようだった。


fin.