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恋は求め合うもの、愛は許し合うもの。

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「…蓬ですか?」

「いい線いってるけど、ちょっと違うなァ。当ててみてよ」


口の周りに粉をつけて、にこにこと笑う宗矩。
童のような無邪気な様子に呆れて左近も小さく笑い、薄緑色の物体を一口かじった。

…ふむ。
口に含んでも生臭さや酸味は特に感じない。原料となった餅米はどうやら問題なかったようだ。
そしてほんのり口腔内に残るこの香りは…


「あ、お茶……茶葉!」

「せいかーい」


思わず声を張ってしまってから、気恥ずかしさにお茶を飲んで誤魔化す。
どことなく苦味があるが、餡子の甘さとあいまってなかなか美味しい。豆大福や塩大福程度のものしか知らなかっただけに、これは衝撃だった。

素人考えながら、一見してムラのない生地は製造過程でよくよく米と混ぜないと実現しないのではと感心してしまう。


「こんな大層なもん、この辺りじゃないでしょう。どこの菓子ですか?」


訊ねている間にも、茶畑が有名な地に思考が行き着いて己の中で答えが出ていた。そしてそれは、柳生宗矩という人物との接点を思えば間違いないわけで。


「浜松さ。あそこはお茶っ葉が名産だからねェ。秀忠様から頂いたんだけど、こういうのって足が早いから。島殿と一緒に食べようと思って」

「足が早いものを食うために数日かけて佐和山くんだりまで足を伸ばすなんて、言葉がありませんね」

「嬉しくて?」

「ははは。まさか。矛盾してて、ですよ。」

乾いた笑いを適当に返して、食べかけの大福を口に放る。
気がつけば笹の葉の上は綺麗になっていて、いつの間に四つも食ったんだと隣の大食漢に内心戦慄した。

「…本当に、甘いもの好きですよね」


半ば呆れつつ言うと、幸甚極まれりといった様子で顔を弛緩させて頰を膨らませながら、宗矩は鷹揚に頷く。


「ここに着くまでの間、拙者の理性が何度崩れかけたことか」

「よく我慢できました。偉い偉い」

「島殿に驚いてほしかったからね」


つまみ食いもせずに運ぶだけというのは、この食いしん坊にとっては拷問に近いものがあったのかもしれない。どうでもいいが。
上っ面の労いを込めて広い背中をぽんぽんと叩いてやると、お茶を飲み干した宗矩がひと息ついてしみじみと口を開いた。


「好きな人と好きなものを好きなだけ食って、後腐れなく死にたいよねェ…。」

唐突に話題が飛躍し、左近はきょとんとして相手を見つめる。
宗矩はそんなこちらに流し目を寄越して、困ったように笑った。

「刀なんて捨てて、さ」

「…どうしたんです、いきなり」


やはりあのお茶大福には変なものでも混入していたのだろうか。
宗矩の様子に冗談とも本気ともつかないことを考えて、左近は気持ちだけ居住まいを正す。

この男は物言いや振る舞いこそのらりくらりとしているが、核心的な部分を常に秘めている節がある。不殺を貫いているのもそのひとつで、己の信条を曲げないし、揺らがない。言うなればただの頑固。
そんな彼の、まるで諦観しているような口調に違和感を覚えた。


「別に深い意味はないよ。ただ、ちょっと考えちゃってね。」

へらりと笑い、宗矩は手にした湯呑みに視線を落として続ける。

「…あと何回、こうして島殿と会えるんだろうって」

「…随分、郷愁的じゃないですか」


普段なら、今日で最後ですよなどと軽口を適当に返すところだが、今はどうやらそういう雰囲気ではなさそうで。
宗矩相手に心配などしても無駄だと理解していても、なんだか様子を窺ってしまう。
見つめていると、宗矩は言葉を選ぶようにぽつぽつと語り出した。


「前はさ……って言っても本当に少し前だけど、島殿の情が欲しくてあれこれしてたんだよ」

「……」

「石田殿への過保護っぷりも治してほしかったし、子飼いの二人や大谷殿との家族ごっこもやめさせたかった」


訥々と紡がれる言葉に思うことは諸々あったが、今はすべてを飲み込んでただ耳を傾ける。
宗矩の声音はひどく落ち着いていて、もともと低い声帯だが輪をかけて低く、どこか暗く沈んで聞こえる。それでも口元には僅かに笑みがあり、沈鬱な表情は口を挟むことを拒んでいるようだった。
もしかしたらこちらに話しているのではなく、これは彼の独白なのかもしれない。


「でも、気がついたらそういうのはどうでも良くて……いや、そういうのもひっくるめて、島殿に会いたいって思うようになって…」

「……、」


ちょっと待て。
次第に話の流れが変わってきているような気がして。
嫌な予感がする。心拍数が上昇していることは間違いない。


「求めるばかりだったのが、許すようになった…って言うのかなァ。…まるごと受け入れたくなる感じに変わったんだよ。」

しかしそんなこちらの内心など知る由もなく、宗矩は己の気持ちと向き合うようにして続ける。

「それからかなァ、…戦が怖くなった。いつかお宅は死地に赴く。あとどれくらいの時が残されてるのか…ってね」

「……」

「もう、見てられないんだよ。」


不意に宗矩が視線を上げ、目と目が合う。
自分はいったい、どんな顔をしているだろう。
わからない。
思考が働かない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからな


「……恋から、愛に変わっちゃったってとこかなァ」