黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 32
「あー、起きた、シバ? 兄さんったらひどいのよ。こーんな美女に育ったシバを前にして、シバの事を友達だって」
「ジャスミン!? 何を言い出すんだお前は!」
まだ目が覚めきっていないシバは、ぽやー、っとしながら答えた。
「何を言ってるのジャスミン。私とガルシアは友達でしょ?」
「し、シバ!?」
ガルシアはショックを受けた。
「そっかー、友達かー。それ以上は期待できないかー、ンフフ……」
「……もういい。ジャスミン、ぶどう酒をくれ」
ガルシアは、初めて飲まなければやってられない気持ちになった。
「おっ、兄さんも飲む気になった? 私が作った特別ぶどう酒はまだまだあるから、飲んで飲んでー」
ジャスミンはエナジーで、小ぶりな酒樽を出現させた。
ガルシアは杯に入れるのではなく、酒樽を抱え、グビグビと一気に飲み始めた。
「兄さん!? いくらなんでもペースが……」
酒樽は小さな物だったので、ガルシアは全て飲み干してしまった。
「ふう……!」
ガルシアは酒樽を卓の上に置いた。
そして、大きく息をつくと、呼吸をふうふうと小刻みにした。
「……ふう、ふう」
ガルシアの呼吸は鼻声混じりになっていった。
「ガル、シア?」
ピカードは呼びかけた
「……アタシは」
ガルシアは鼻声を涙声にして言った。
「アタシはシバが好きなのよ! 海よりも深く、誰よりもシバを愛してるのよ……!」
ガルシアは、すっかり顔を真っ赤にし、泣きながら女言葉を話した。泣き上戸な上、女性化するのがガルシアの酔った姿であった。
「兄さん……」
「ガルシアが壊れましたね……」
「ガルシアはオカマだったのか」
「誰がオカマですって!? アタシは男よ! だからシバが好きなのよ!」
ガルシアに好きだと言われたシバは、まんざらでもないようだったが、性格が女性化したガルシアには少し引いていた。
「シバ! アナタはどうなの!? アタシの事は嫌い!?」
シバは困惑しながら答えた。
「えぇと、突然そんな事言われたら、どうしたものかと……」
「ひどい! やっぱりアタシの事なんか嫌いなのね!?」
「そうは言ってないでしょ。ただ、今のガルシアを好きになるかは別問題よ」
シバは、普段のガルシアなら好きになれる余地があると考えていた。
誰よりも気にかけてくれて、真っ先に助けてくれていた。そんなガルシアを嫌いになる理由がなかった。
だんだん女性化したガルシアに慣れてきたシバは、形はどうあれ、ガルシアから告白を受けたことに恥ずかしく感じた。
しかし、シバは、決心して告白の返事をした。
「ガルシア、私もあなたが好き。これからも友達でいてくれたら、いつか大切な人になれると思うわ」
顔を紅潮させて、シバは一生懸命に返事をした。しかし。
「ぐがー、ぐがー」
ガルシアは、卓に突っ伏して眠っていた。シバの返事は遅かった。
「時間切れ、だな」
シンは笑って言った。
「……ガルシアの……」
シバは、恥をかかされた気分になり、真っ赤な顔で叫んだ。
「バカー!」
ダン、とシバは卓に杯を強めに置いた。
「シン、お酒よ! もう飲まなきゃやってられないわ!」
「はいはい、あまり無茶するなよ?」
シンは、シバの杯に並々と酒を注ぐのだった。
※※※
ロビンは、宴の席から離れ、一人夜空を見ていた。
満天の月に、星が瞬いている。この数年のうちにデュラハンによる瘴気の影響はなくなり、きれいな星空が見えるようになった。
黄金の太陽現象と、アレクスが解き放ったウィズダムストーンによってウェイアードは傷ついてしまったが、ウェイアードは完全に平和となった。
ウェイアードの平和を取り戻したが、ロビンは気にかかることがあった。
それは、闘霊となった自分自身の事であった。
ウェイアードの防衛反応である闘霊はロビンの他にもシンやヒナ、ハモ達が存在するが、ロビンの闘霊化は命と引き替えであった。
最早人間ではなくなってしまったロビンは、この世界にいてもよいものかとさえ思っていた。
一度死に、闘霊化して今も存在できている事実に、ロビンは疑念を抱いていたのだ。
「あれ、ロビン。こんなところで何をしているのですか?」
ロビンは、呼びかけられて振り向くと、そこにはイリスがいた。
「イリス……」
「今夜は宴ですよ。楽しまなければ損というもの」
「すまない、少し考え事をしていたんだ。とうれ……」
「闘霊になって、自分の居場所が分からなくなった。そんなところでしょう?」
ロビンが言いきる前に、イリスはロビンの考えを当ててしまった。
「よく分かったな?」
「これでも天界の女神、人の考えなどお見通しです!」
イリスは胸を張った。
「……オレは一度死んでいる。本来なら天界に逝く定めなんじゃないのか?」
悪事の限りを行っていないロビンは、死神の腹に収まる事はない。
「一度は死んでいる。そこにどの様に疑問を抱く事があるのですか? ロビンは闘霊となって今一度の命を得た。かつてウェイアードを救ってもいます。ウェイアードに大きな城を築いて、豪遊していても許される程の働きをしているのですよ?」
シンとヒナの影響を受けたのか、イリスは笑える冗談を言った。
「大きな城、か……ふっ……」
ロビンは思わず吹き出してしまった。
「一度は死んだ。ですが、こうして闘霊となって蘇った。ドラゴンスレイヤーという、大悪魔も超神も討ち取れる力を持って。今は平和でもいつかまた巨悪の根元が現れるとも知れない。その時それらを打ち破れるのはロビン。あなただけです。だから、あなたはウェイアードにいてしかるべきなのですよ」
「オレにしかできないこと、なんだな?」
「ええ、私も太鼓判を押しますよ。ロビンの力はウェイアードを救う唯一無二の力ですよ」
ロビンの闘霊の力が、世界を救う無二のものと言われ、ロビンは元気が出てきた。
「オレはウェイアード、みんなの所に居ていいんだな? 闘霊としてここに生きる道を選んでもいいんだよな?」
「何度も訊かないでください。ここがロビンの居るべき場所です」
「ありがとう、イリス。イリスが話を聞いてくれたおかげで、心が軽くなったよ」
ロビンは言うと、歩きだした。
「どこへ行くのです、ロビン?」
答えは決まっていた。
「宴に戻るのさ。イリス、飲み比べでもしないか? 結構強いぞオレは。飲みの席でも最強だ!」
イリスは、小さく笑って答えた。
「面白そうですね、私は酒の神デュオニソスに勝ったことがあるんですよ!」
「ほう、それなら楽しみだ! いい勝負になりそうだな!」
ロビンとイリスは、宴の席へと戻るのだった。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 32 作家名:綾田宗