黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 32
エナジーで奏でられる楽器に合わせ、村人はペアを組んで踊った。
魔物が減り、よく採れるようになった動物の肉に村人は舌鼓を打った。
大人達は村の特産物のぶどう酒に酔いしれ、陽気に歌った。
「うーん、このお肉美味しいわね! お代わり!」
シバは動物肉を頬張っていた。
「太るぞ、シバ!」
シンがからかうように言った。
「うるさいわね! アンタこそ散々食べてるじゃない!」
「オレは太らない体質だからな、食って当たり前だぜ! あー、姉ちゃん、オレにもぶどう酒を一杯!」
「うそ、お酒まで飲むつもり?」
「オレはおまえと違ってお子ちゃまじゃないからな」
「むう……! お子ちゃまですって!? 私だって二十歳の立派な大人なんだから! 見せて上げるわ! お姉さん、私にもぶどう酒一杯!」
「だーからぁ、いっへるでひょ! 私はよっへないって!」
すっかり泥酔したメアリィが卓を叩きつつ騒いでいた。
「はいはい、分かりましたから、酔った人はそう言うものですよ。とりあえず静かにしてください。ほら、皆さん見ていますよ?」
ピカードが宥めていた。
卓の上には空のグラスが九個置かれており、十杯目のグラスがメアリィの手に握られていた。
ハイディアのぶどう酒は、とても甘く、口当たりが良いためにすいすい進んでしまう酒だった。
その絶妙な口当たりであるために、嗜む程度にするつもりが、いつの間にやら、呂律が回らなくなるまでメアリィは酔っていた。
メアリィの酒に付き合っていたピカードも相当飲んでいたが、レムリア人である彼は、酒を飲み慣れており、酔っている様子を見せていなかった。
「わらひは、アレクスなんひゃひらいだった! けど、死んだとたんひ、さびひくなっは! このひもちはなんらの!?」
「はいはい、それはきっとメアリィがアレクスを好きだったからでしょう?」
「ひがうもん! だいっひらいだっはもん!」
「寂しいなら、ほら、僕がいてあげますから」
「ひかーど……?」
騒いでいたメアリィは、一瞬静かになった。
「ああ、深い意味はないですよ? 一緒にお酒を飲んであげると言う意味です」
ピカードは弁明した。
ふと、メアリィは下を向いた。そして卓の上にがらがらと並べていた空きグラスに顔をうずめた。
「メアリィ! 大丈夫ですか!?」
ピカードは、驚き訊ねた。
「……ふしゅー……」
「メアリィ?」
「ふしゅー、ふしゅー……」
メアリィは、酔い潰れて眠ってしまったようだった。
「全く、びっくりしましたよ。人騒がせですね、メアリィ」
ピカードは、ハンカチでメアリィを扇いでやった。
「見てたぜピカード? 一緒にいてやるって?」
「わわ、シン!?」
「ピカード、お前も隅に置けねぇな。ずっと一緒だった同族の仲間を失って、心に穴空けた女にかける言葉としちゃ最高だったぜ?」
「だから、深い意味はないと言っているじゃないですか!?」
シンは、しー、と人差し指を立てた。
ピカードは、思わず大声になったことに、はっとなってメアリィを見た。
「ふしゅー、ふしゅー……」
メアリィは眠ったままだった。
「こりゃあ起きるまで側にいた方がいいな。ピカード、一緒に飲もうぜ。おーい、シバ! お前も来いよ!」
「飲み比べね!? 負けないんだから!」
ピカードとシン、シバを交えた小さな酒宴が始まるのだった。
ガルシアは、人だかりを外れ、魔導書ネクロノミコンを繰っていた。
「に・い・さ・ん……!」
「うわ!?」
ガルシアは暗がりから両肩を掴まれ、驚いてしまった。
「んっふー、こんなところで何してたのー?」
「世界が平和になったからこそ、気を引き締めないといけないと思ってな。魔導書の調子を見ていたのだ」
デュラハン、アレクスとの戦いで使用した魔導書ネクロノミコンであったが、彼らのような強敵が存在しなくなっても召喚獣は呼び出すことができ、黒魔術も問題なく使用できた。
「兄さんったら、相変わらず真面目なんだから、今日くらい何にも考えずに騒げばいいのにー」
「そう言ってもな、というか酒臭いぞ、ジャスミン。飲んでいるのか?」
「アハハ、バレたー!? 今日は宴だよ。精一杯楽しまなきゃ」
ジャスミンは、エナジーを使ってその手にぶどう酒がなみなみに注がれた杯を出現させた。
「そー言うわけでほら、兄さんも飲も!」
「いや、俺は……」
「何よう、あたしのお酒が飲めないってわけ?」
ジャスミンは顔を膨らませる。
「……分かった、一杯だけだぞ」
「一杯じゃなくていっぱい飲んでもらうから!」
ガルシアは酒が苦手であった。酔いが瞬く間に回ってしまい、性格まで変わってしまうほど苦手であった。
しかし、妹から勧められては断りきれず、ガルシアは一口飲んだ。
「ん? これは……?」
口当たりがよく香りも良く、それでいてアルコール臭くなかった。
「旨い」
「でしょー、兄さんの為に少し煮込んでアルコールを飛ばしたの。まあ、完全にアルコールがなくなったわけじゃないけど、兄さんでもこれならいけるでしょ?」
ジャスミンの気遣いに、ガルシアは嬉しく思った。
「ほらほら、こんな陰気臭い所じゃなくて、あっちで一緒に飲もー!」
「ま、まて、引っ張るなジャスミン! 酒がこぼれる!」
ガルシアはジャスミンに、宴の席へと引き連れられていった。
「シン、兄さん連れてきたよー!」
二人は、シンとピカードのいる卓へ行った。
「っ!? シバ!」
ガルシアはシバの様子を見て絶句した。
顔を真っ赤にして、卓に突っ伏していた。そしてうわ言のようなものを言っていた。
「……まだまだ飲めるんだから...…」
シバは、完全に酔い潰れていた。
「まったく、見栄っ張りもいいとこだぜ。弱いくせにオレ達に飲み比べを挑むんだからな」
シン達はもう、樽一つ空にするほど飲んでいた。
「シバは大丈夫なのか!?」
ガルシアは、シンに詰め寄った。その間にも、シン、お代わり、とシバはうわ言を言った。
「大丈夫ですよ、ガルシア。先ほど『アンチドウテ』をかけておきました。命に関わることはありませんよ」
ピカードは言った。酒樽一つ空けるほど飲んでいるはずなのに、ピカードに酔いは見られなかった。
「なら良いのだが……」
ガルシアは心配でならなかった。
「まったく、ガルシアは心配しすぎなんだよ。シバの事になると昔っからそうだ。あれか? シバの事がそんなに好きなのか?」
「なっ! そんな事……」
ガルシアは、頬を赤くしてしまった。
「その顔、そのリアクション、ますます怪しいなぁ……」
シンは、ニヤニヤと笑った。
「ち、違う! これはジャスミンからもらった酒で少し顔が熱くなっただけだ!」
ガルシアは必死に言い訳をするのだった。
「じゃあ、嫌いなのか?」
シンによるいじわるは続く。
「そんなわけないだろう! 絶対にあり得んことだ! ずっと一緒に旅をした仲だ。そう、大切な友人だ!」
「友達止まりなんて、シバが可哀想よ」
「ジャスミン、お前まで何を!?」
シンのいじわるにジャスミンも加わった。
「……うん? 私いつの間に寝て……」
ピカードのエナジーによって、酔いを醒まされたシバが目を覚ました。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 32 作家名:綾田宗