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Tパロ

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地脈を流れる奔流は命をただの記録に変える。セフィロスはその奔流、ライフストリームの中に落された。

セフィロスは神羅の英雄として育てられ、ニブルヘイムの地にてジェノバの子として覚醒を果たした。しかしジェノバは古代種などではなく、異星の怪物だった。星の命を啜り、そこに生きる生物を模し、謀り、乗っ取る。そうやって増殖を果たし、最終的には増えた子すらも食い取り込む。セフィロスはその尖兵として目覚めさせられた。
だが目覚めたセフィロスはただの一兵卒の一撃により倒された。兵士は胸を刺し貫かれながらもその刃を掴み返し、セフィロスを深い魔晄の底へと振り落とした。魔晄溜まりはそのまま地脈の深くへと繋がっており、セフィロスはどこまでも深く沈んでいった。魔晄とはライフストリームそのものであった。星に生きる命の終着点であり、命の記録のプール。その中に浸されたセフィロスは真実を知った。はるか昔に飛来したジェノバのもたらした災いや自分の秘されてきた出生。ジェノバは子たるセフィロスすらも謀ろうとした。自らを古代種と自称し、その末裔としての責務と徒人たちに追いやられた復讐を遂げよと嘯いていたのだ。
それを知ったセフィロスの内に炎が生まれた。復讐心と生への渇望だった。セフィロスは個としての生を知らなかった。生まれてから実験と訓練を繰り返す日々を過ごしてきた。友と呼べる交友関係を築くこともあったが、セフィロスにかかわったものはすべて彼を置き去りにした。初めての僻地任務で得た年上の部下も、その後に得た同僚も。裏切りというほどの喪失には足らず、ただの離別というには苦悩に満ちたものだった。セフィロスに残されたのは観念だった。自分は特別な人間なのだから、仕方がないのだ。そう言い聞かせて孤独に蓋をした。理解を得られなくても、信じてもらえなくても。強大な力に寄り添うものなど必要なかった。彼はただひとりの英雄なのだから。
その自負こそジェノバに打ち砕かれた。その怪物を利用し、虚像に満ちた英雄という歪みを産み出した神羅という組織にも。セフィロスは様々なものに裏切られてきたのだ。世界が裏切るのならばセフィロスはそれにふさわしい報いを与えなければならない。
まだ復讐の一端も成していないというのにこのままライフストリームの中へ溶け消えるわけにはいかなかった。セフィロスはその流れに逆らい、北を目指した。星の旧き傷跡、災厄の降臨した最初の地へ。災厄ジェノバに食い荒らされたその地には修復のためのライフストリームがいまだに地表へ吹き上がっている。人間ではこの大気の濃度に耐えられぬであろう地で肉体の修復を図る。デミジェノバとしての生を得たセフィロスはジェノバの生態と酷似している。もはやその身はライフストリームを糧として生きる生命体に転じていた。
肉体に魔晄が満ち、人としての体が崩れていく。けれどセフィロスには何の惑いもなかった。完全なる転化には時間がかかるだろう。それまで肉体はここを離れることはできないが、ライフストリームの中で得た知識がセフィロスにジェノバの力の揮い方を教えた。細胞を種として地に蒔き、芽吹いたそれはセフィロスの仮初の肉体となった。当面はその肉体を使い、復讐の舞台を整えねばならない。星にすらも知らしめねば。正統な復讐の行く末を。

――そう決意したはずだった。



頬に生ぬるい風を感じ、セフィロスは目を開けた。
腰ほどの高さに生えた植物が風に揺れている。広大な麦畑が目の前に広がっていた。
セフィロスの肉体は北の果てで眠っていたはずだった。まさか眠っている間に幾年もの時が過ぎてしまったのだろうか。それともライフストリームによって北の果てからどこか別の地域へ流されたのだろうか。仮初の肉体はきちんと機能していたのでそんな見落としをするはずがない。セフィロスは冷静であろうと思考した。
セフィロスの本体は人間の形を失っている。だから今、この地に立っている体は仮初のものなのだろう。見下ろした体は生前に着用していた黒の戦闘服に包まれている。念じると手の内に長大な刀が現れた。愛刀の正宗である。構えもなく刃を薙ぐと、麦の穂先がはらりと散った。儚い手ごたえだが、目の前の光景は幻覚ではなかった。辺りに視線を巡らせると畑の先に城壁が見えた。城というほど華美ではない、砦のような構えの建造物がある。共和国時代にはそのような古めかしい建物が残っていたが、今では珍しい建築様式だった。
ライフストリームに時間や空間という概念は存在しない。生命の記録を蓄えたそれは可能性の世界にすら接続するという。共和国時代よりも過去、あるいはそんな可能性の世界なのだろうか。答え合せをすべく、セフィロスは生物の姿を探した。人間がいちばん効率がいいが、何の生物でもいい。セフィロスの持つジェノバの力は対象の生命を模し、その思考を読む。それがあれば現状把握は容易い。だが――
「なん……だと……?」
麦の穂に止まる小鳥にジェノバの力の触手を伸ばそうとした手が止まった。力が発動しなかったのだ。
ジェノバの能力は贋造、増殖、再結合である。生物をコピーし、同個体を増やし、それらを取り込む。コピーができなければ個体を増やすことができず、増えないのなら取り込むこともできない。肉体に欠けた気配を感じられないのでジェノバ細胞が消え失せたわけではない。しかし使えないということは、ここは全く別の法則を持つ世界に転移させられたのかもしれない。セフィロスは不快感も露に畑を進んだ。人を探す必要があった。対象が人間以外だったから発動しなかっただけかもしれない。

幸いすぐに人間は見つかった。農作業中の農夫が畦道に座り込んでいた。
まずは力が発動できるか試す。駄目なら締め上げる。会話というまどろっこしいコミュニケーションなど必要ない。セフィロスは無遠慮に距離を詰めた。
しかし農夫はセフィロスが手を伸ばすより先に気づき、顔を上げた。日に焼けて皺が深く刻まれた労働者の顔だ。
「なんだい、あんた、見かけない顔だな……?」
きょとんとしたその表情が見る間に驚愕に染まる。
「そっ、その御髪はッ……!」
農夫は地面に頭を擦り付けて平伏した。セフィロスに恐れをなした、という風ではない。何の意図でそんな行動を取っているのか分からず、セフィロスは面倒に思いつつも声をかけた。やはり人間相手にもジェノバの力は発動できなかったのだ。
「……何をしている?」
「恐れ多くもエルムドア公におかれましてはこのような農地に足をお運びいただき恐悦至極にございますればッ」
農夫はセフィロスのことを聞き覚えのない名で呼んだ。人違いだった。
だが、その人違いはセフィロスに思いもよらぬ道を与えた。

作品名:Tパロ 作家名:sue