ゲーム屋雇い主とバイトウドち
そのゲーム屋は町の片隅にひっそりと存在していた。アルバイト募集の張り紙がなければクラウドもこの店に気づかなかっただろう。
三階建てのビルの地上階の店舗。建物自体はかなり古い。だが一周回ってレトロな建築様式は洒落たデザインに見える。店内は建物の古さのわりに経年劣化はなく、手入れが行き届いて清潔さがある。決して広くはない店内の棚にはゲーム機本体とその周辺機器、そしてゲームソフトが並んでいる。関連グッズや書籍、カードやボードゲームの類もない。色気のないラインナップである。いっそ潔いほどの商売っ気のなさ。そんな硬派な品ぞろえがコアなゲーマーに受けるのか、はたまた建物自体を所有していて家賃がかからないからできる経営なのか、ゲーム屋には不思議と斜陽の気配はない。忙しくなさそうだし、業務も難しくないだろう。おまけに時給もそこそこ良い。そう思い、クラウドは意を決した。彼は就職に失敗し、ブラック企業を辞めたばかりだった。働く自信をなくしていたときだったので、社会復帰のきっかけとしてちょうどよい条件だと思った。バイト募集の張り紙を見たその足で直接言うのは憚られたので、タブレットのカメラで電話番号を控えて、帰宅してから店へ電話を掛けた。
翌日、クラウドが面接しに店に行くと、レジに座っていた男が面接に応じた。営業時間中にもかかわらず、男はクラウドをレジ奥の休憩室へ通した。男はセフィロスと名乗った。従業員は他におらず、彼がたったひとりの店員で店長だという。
「見ての通り、客は少ないんだ。月曜と水曜は定休日。俺の不在時には休日にするから不定休もある。その代わり、注目作品の発売日には臨時で開けることもある。やってもらいたい業務は主に客対応と荷受け、四半期に一度の棚卸しと……」
落ち着いた声色のせいか見た目から年齢が分からない。後頭部の後ろで長髪をひとくくりに結んだひっつめ髪のヘアスタイルのせいかもしれない。古びたビルの閑古鳥の鳴くゲーム屋の店長にふさわしい胡乱さがある。
簡潔な説明を聞きながらクラウドに疑問が湧いた。面接なのに自分のことを聞かれない。履歴書は先ほど渡したばかりで、目を通されたとは思えない。採用前提のような説明を受け、クラウドは恐る恐る口を開いた。
「あの……採用ということでいいんですか?」
「ああ、もちろん。明日から来てもらえるか?今からでも構わないが」
クラウドはその提案を辞した。本当にここで働いていいものか不安になった。前任者がいたのかもしれないが、暇なのにバイトを募集する意図が分からない。大して質問をされなかった面接も気にかかる。何か裏があるのではないか。もしかして闇バイトというやつじゃないのか。帰宅したクラウドは評判を調べようと店の名前で検索をかけてみた。あんな鄙びた雰囲気の店なのに口コミは悪くない。「店長の知識量がすごい。何を聞いても返ってくる。通販サイトがないのがネック」「店頭の品揃えは悪いが取寄せは迅速」など、悪評やクレーム、妙なサクラもない。やはり常連客に支えられる店なのだろう。しかも採用されてしまった手前、辞退の連絡をしづらい。クラウドは頼まれごとを断るという行為が苦手だった。前職でも仕事が散々積みあがって、許容量を超えていると根を上げようにも封殺されるブラック企業だったせいもあり、最終的には逃げるようにしてやっと辞めることができた。
「……三日間だけ、様子を見よう」
なにかまずい雰囲気がしたら即辞める。クラウドはそう決めて、早めに就寝した。
三階建てのビルの地上階の店舗。建物自体はかなり古い。だが一周回ってレトロな建築様式は洒落たデザインに見える。店内は建物の古さのわりに経年劣化はなく、手入れが行き届いて清潔さがある。決して広くはない店内の棚にはゲーム機本体とその周辺機器、そしてゲームソフトが並んでいる。関連グッズや書籍、カードやボードゲームの類もない。色気のないラインナップである。いっそ潔いほどの商売っ気のなさ。そんな硬派な品ぞろえがコアなゲーマーに受けるのか、はたまた建物自体を所有していて家賃がかからないからできる経営なのか、ゲーム屋には不思議と斜陽の気配はない。忙しくなさそうだし、業務も難しくないだろう。おまけに時給もそこそこ良い。そう思い、クラウドは意を決した。彼は就職に失敗し、ブラック企業を辞めたばかりだった。働く自信をなくしていたときだったので、社会復帰のきっかけとしてちょうどよい条件だと思った。バイト募集の張り紙を見たその足で直接言うのは憚られたので、タブレットのカメラで電話番号を控えて、帰宅してから店へ電話を掛けた。
翌日、クラウドが面接しに店に行くと、レジに座っていた男が面接に応じた。営業時間中にもかかわらず、男はクラウドをレジ奥の休憩室へ通した。男はセフィロスと名乗った。従業員は他におらず、彼がたったひとりの店員で店長だという。
「見ての通り、客は少ないんだ。月曜と水曜は定休日。俺の不在時には休日にするから不定休もある。その代わり、注目作品の発売日には臨時で開けることもある。やってもらいたい業務は主に客対応と荷受け、四半期に一度の棚卸しと……」
落ち着いた声色のせいか見た目から年齢が分からない。後頭部の後ろで長髪をひとくくりに結んだひっつめ髪のヘアスタイルのせいかもしれない。古びたビルの閑古鳥の鳴くゲーム屋の店長にふさわしい胡乱さがある。
簡潔な説明を聞きながらクラウドに疑問が湧いた。面接なのに自分のことを聞かれない。履歴書は先ほど渡したばかりで、目を通されたとは思えない。採用前提のような説明を受け、クラウドは恐る恐る口を開いた。
「あの……採用ということでいいんですか?」
「ああ、もちろん。明日から来てもらえるか?今からでも構わないが」
クラウドはその提案を辞した。本当にここで働いていいものか不安になった。前任者がいたのかもしれないが、暇なのにバイトを募集する意図が分からない。大して質問をされなかった面接も気にかかる。何か裏があるのではないか。もしかして闇バイトというやつじゃないのか。帰宅したクラウドは評判を調べようと店の名前で検索をかけてみた。あんな鄙びた雰囲気の店なのに口コミは悪くない。「店長の知識量がすごい。何を聞いても返ってくる。通販サイトがないのがネック」「店頭の品揃えは悪いが取寄せは迅速」など、悪評やクレーム、妙なサクラもない。やはり常連客に支えられる店なのだろう。しかも採用されてしまった手前、辞退の連絡をしづらい。クラウドは頼まれごとを断るという行為が苦手だった。前職でも仕事が散々積みあがって、許容量を超えていると根を上げようにも封殺されるブラック企業だったせいもあり、最終的には逃げるようにしてやっと辞めることができた。
「……三日間だけ、様子を見よう」
なにかまずい雰囲気がしたら即辞める。クラウドはそう決めて、早めに就寝した。
作品名:ゲーム屋雇い主とバイトウドち 作家名:sue