ゲーム屋雇い主とバイトウドち
翌日からクラウドは店員として店頭に立った。店長はレジ打ちから丁寧にクラウドに教えていった。店に来る客はなく、教えられたことを飲み込むだけの日々が数日続いた。本当にバイトが必要だったのかクラウドが不安に感じてきた頃合に、ようやく店のドアが開いた。搬入業者ではない。赤髪の派手な顔立ちの男だった。
「セフィロスはいないのか?」
クラウドがいらっしゃいませと言う前に男が声をかけてきた。店長のセフィロスはバックヤードで在庫の整理をするといって席を外している。退勤するときにだけ声を掛けろと言われているのですぐには戻ってこないだろう。
「今、店長は……」
「邪魔をするぞ」
クラウドが答える前に、男はずかずかとレジ内に入ろうとする。クラウドはその肩を掴み押し戻そうとした。
「ちょっ、お、おきゃくさま、ここは関係者以外立入禁止で」
「俺はセフィロスの知人だ。関係者に相違あるまい」
一見細身に見える男だが、掴んだ肩はコート越しに分かるほどにずっしりと厚い。上背もある。どちらかというと華奢な部類のクラウドでは力負けする。筋力差も身長差もある相手では押し留められなかった。
知人とは言うが、無理やり現金のあるエリアに入ってくる人間などまっとうではない。通報案件だ。クラウドは悲鳴じみた声を上げた。
「てっ、店長!店長ーーーったすけてください!」
「よし、通報だな」
クラウドのすぐ後ろから声がした。にゅっと顔の横から手が伸びて、男の肩を押しのける。赤髪の男はようやく身を引いた。
「セフィロス……いるならとっとと出てこい」
「ストライフくん、すまない。不審者対応ご苦労様。そういえばまだ教えてなかったな、最寄の派出所の電話番号は……」
「おいセフィロス、聞け」
セフィロスは男の言葉を聞き流している。クラウドはふたりに挟まれ、おろおろと視線をさまよわせた。不審者と言う割にセフィロスは男を警戒していないし、どことなく気安い雰囲気を纏っている。
「あの……店長。この人は……?」
「出禁にしても無視して入ってくる不審者だ。見かけたら粛々と通報してほしい。今回は特別手当を用意するから、辞めないでくれないか」
そう言うとセフィロスはクラウドのエプロンポケットに茶封筒をねじ込んだ。そこそこの厚みがある。事情を飲み込めないまま、クラウドはこくりと頷いた。なんにせよ臨時収入は良いことに違いないので。クラウドの心中で退職の選択肢が消えた瞬間であった。
作品名:ゲーム屋雇い主とバイトウドち 作家名:sue