ゲーム屋雇い主とバイトウドち
「親友を不審者呼ばわりとは嘆かわしいことだ。薄情者め」
赤髪の男はジェネシスと名乗った。役者のような顔立ちにふさわしく言動がいちいち芝居がかっている。セフィロスは彼を不審者と言い張っているが、最初に自称した通り知人に違いないのだろう。
「セフィロスの親友たる俺を覚えておくがいい、チョコボの君よ」
「チョ……チョコボ……」
「いや覚えなくていいぞストライフくん、だがチョコボというのは……言いえて妙だな」
セフィロスもクラウドの頭を見てくすりと笑った。クラウドの奔放に跳ねる毛先は家畜馬鳥チョコボの特徴的な鶏冠羽によく似ている。美形の代名詞であるはずの金髪もチョコボのスタンダードカラーに重ねられ、幼い頃からそうからかわれてきたし似ている自覚も多少ある。クラウドはむっつりと押し黙ってそれを聞き流した。
「……で、その親友さんのご用事とは?」
「よくぞ聞いてくれたなチョコボの君。これこそ女神の贈り物」
ジェネシスはコートの懐から取り出したものをずいとクラウドの目前に寄せた。
「クイーンズブラッド?」
ジェネシスが手に持つカードのパッケージはクラウドもよく知っていた。クイーンズブラッドは最近流行のカードバウトゲームで、クラウドもアプリでなら遊んだことがある。簡単に言ってしまえば場に出たカードの強さの合計を競うゲームだが、カード自体のコストや陣地の駆け引きなどがあり、なかなか奥深いゲームだった。
「これを使いこの閑古鳥鳴く店に新たな風を吹かせてやろうというわけさ」
「はあ……」
ジェネシスはこのゲーム屋をカードバウトのできる、いわゆるカードステーションとして運営し、新たな利益を生み出そうと持ちかけているのだろう。
クラウドは近場にあるパティスリーを思い出した。りんごを使ったメニューを売りにしていたその店は最近になってカフェスペースを併設した。洒落た雰囲気に生まれ変わったカフェは女性客に混じってカードバウトに興じる客もいて、連日賑わっている。その仕掛け人がジェネシスなのだろう。
「ただのりんご農家が、よくやるものだ」
このナリでりんご農家なんだ。セフィロスの言に、クラウドは思わず彼を振り仰いだ。瀟洒な外見は農家とは程遠く見えるが、確かに先ほど触れたジェネシスの肩はがっしりとしており、肉体労働に従事していても不思議ではない体つきだった。芝居がかった物言いは仕事柄ではなく、彼の趣味なのだろう。
「プロデューサーと呼んでもらおうか。アップルパイしか売りのなかったアンジールの店をカードバウトによって繁盛させたのは俺だ。実績も十分ある。さあセフィロス、今こそ」
「だが断る」
芝居がかった仕草で腕を広げるジェネシスに、セフィロスはぴしゃりと言い放った。
「な……っ!?」
「暇で結構。そのほうが都合がいいんだ、特に今は」
セフィロスはそう言いながらクラウドへちらりと視線を送った。
「新人教育中だからか?」
「……そうだな」
意味深な間を置いた店長の回答にクラウドは胸をなでおろした。新たな業務を詰め込まれるにはまだ早い。
作品名:ゲーム屋雇い主とバイトウドち 作家名:sue