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バイオハザード Fの起源  第一話 ホークアイズ(鷹の目)

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彼女は激しい痛みに耐えながら、天井を睨みつけた。
銃を握れない。
この自分が銃を撃てない。
これほどまでに、自分が無力だと感じたことはなかった。

数時間後、ソニアは麻酔の影響でようやく眠りについた。
彼女の傍らには、ジェイクが静かに座っていた。
彼は、包帯で固められたソニアの腕を見つめ、眉間に深い皺を寄せていた。

「くそっ……」

その後のアメリカ陸軍、空軍の到着もあり、ペンタゴンの緊急事態は、どうにか収束した。しかし、被害は甚大だった。多数の職員が犠牲になり、施設の一部は完全に破壊された。

レオンは、血と硝煙の匂いを纏ったまま、作戦室で報告書に目を通していた

「目的はFウイルスの関連データ、あるいはペンタゴンが管理するFウイルスそのものだったようだ。」

レオンが重い口調で言った。
モニターには、B.O.W.が侵入した際に、特定の研究区画を重点的に狙っていたことが示されていた。

「ソニアの解析通りだ。Fウイルスの変異種…そして、その背後には『Fウイルス』を弄ぼうとする奴らがいる」

レオンは、疲労を滲ませながらも、鋭い視線をモニターに向けた。
ソニアの負傷は、この戦いが本格的な段階に入ったことを示唆していた。
彼女が戦線離脱を余儀なくされた今、レオン、そしてジェイクの肩にかかる重圧は、これまで以上に増すことになる。

「ソニアの容体は?」

レオンが尋ねた。彼の声には、僅かな心配が混じっていた。

「腕を骨折した。しばらくは安静が必要だ。しかし、コイツの目の洞察力は健在だ。今回のB.O.W.の動きから、奴らの目的と次の手が少し見えてきたらしい」

ソニアは、ベッドの上で意識を朦朧とさせながらも、その「鷹の目」でB.O.W.の動きや、彼らが残した痕跡から、多くの情報を読み取っていたのだ。

「彼女は、我々が追うFウイルスの真実に、最も近い場所にいる。だが、それ故に狙われる。我々は彼女を守り、同時にFウイルスを悪用しようとする奴らを止めなければならない」

レオンの言葉に、ジェイクは深く頷いた。彼らの戦いは、ソニアという「Fウイルスの適合者」を巡る、より複雑なものへと変貌しつつあった。


[newpage]


都会の喧騒が遠のき、夜の帳が降りる頃、ジェイクはペンタゴンの医療ラボの一角にいた。
冷たい金属のテーブルに置かれたタブレットには、ソニア・ホークアイズの最新のバイタルデータが映し出されている。

ソニア・ホークアイズ――Fウイルスがその身に完全に適合し、通常なら死に至るはずの変異を、彼女は異能力へと昇華させている。
その特異な体質は、理解を超えた神秘でもあった。

「ジェイク、彼女の容体は?」

背後から声がした。
振り返ると、主任研究員のハドソンが立っていた。
疲労の色濃い顔だが、その瞳には探求心が宿っている。

「ハドソンのジジイかよ。まあ安定してるよ。相変わらず、適合率は100%を維持してるしな。Fウイルスの活動も異常なし。生体機能も問題なし。……のはずだ」

ジェイクは抑揚のない声で報告した。
ハドソンはタブレットのデータを覗き込み、深くため息をついた。

ジェイクは、ソニアの存在が人類にもたらす可能性と、彼女自身が背負う宿命について考えていた。
彼女は単なる実験動物ではない、人間だ。
そして、そんな彼女を誰よりも理解し、共に戦ってきたのは、他ならぬ自分たちなのだ。

シェリーバーキンの顔が脳裏に浮かぶ。
俺達は同じ地獄の囚人だ。

夜が更け、ラボの白い光だけが、世界で一人のFウイルス適合者の静かな呼吸を見守っていた。