バイオハザード Fの起源 第6話 ペンタゴンから~悪
レオンもまた、素早くVP70を構え、男に向けて銃弾を放った。
パン!パン!パン!
レオンの銃弾が、男の体に命中する。
しかし、男は呻き声を上げるものの、倒れない。
彼の体は、ウイルスの力によって、異常なまでに強化されていた。
皮膚はまるでゴムのように弾力を持ち、筋肉は鋼のように硬質化している。
「無駄だ!私の肉体は、既にFウイルスによって『完全』になったのだ!」
男は叫び、両手の異形銃をレオンとクリスに向けた。
そして、そこから、禍々しい銃弾型のウイルスの塊を連続で放ってきた。
それは、着弾すると地面を侵食し、周囲のコンクリートを溶かし始めるほどの腐食性を帯びている。
レオンとクリスは、素早く左右に飛び退き、ウイルスの塊を回避する。
彼らは、男の攻撃がただの銃弾とは異なる、生物兵器そのものであることを瞬時に理解した。
「クリス!まずはあの培養槽だ!あれを破壊すれば、クリーチャーの生産を止められるはずだ!」
レオンが叫んだ。彼の頭脳は、常に最善の策を模索していた。
「了解だ!あの男は俺が引き受ける!」
クリスは力強く頷くと、男に向かって再び突進した。
彼の格闘術が、男の攻撃を掻い潜り、強烈な打撃を繰り出す。
男はクリスの猛攻に苦戦するが、その間にも、両手の銃器からウイルスの塊を放ち続ける。
レオンはクリスの援護を受けながら、培養槽へと走り出した。彼のH&K VP70が、培養槽のガラス壁に向けて火を噴く。
しかし、培養槽のガラスは想像以上に頑丈で、銃弾が当たると甲高い音を立てるだけで、ひび割れ一つ入らない。
「くそっ、これじゃ埒が明かない…!」
レオンは歯噛みした。
彼は、もっと強力な爆薬か、特殊な装備が必要だと判断した。
しかし、そんなものは今、手元にはない。
その時、クリスが男の攻撃を避けながら、レオンに声をかけた。
「レオン!ここには爆薬の貯蔵庫があるはずだ!以前の記録で見た!」
クリスの声に、レオンはハッとした。
確かに、この地下施設が研究施設だったなら、爆薬を貯蔵している可能性は十分にある。
「どこだ、クリス!?」
「通路の奥だ!この場所から、さらに奥に進めば…!」
クリスは叫びながら、男の猛攻をしのいでいた。
レオンはクリスの言葉を信じ、培養槽の並ぶ空間の奥へと走り出した。
彼の背後で、クリスと男の激しい戦闘が繰り広げられている。
レオンは通路の奥へと進むと、そこには頑丈な鋼鉄の扉があった。
扉には、「DANGER - EXPLOSIVES」と赤字で書かれている。
ここが爆薬の貯蔵庫だ。
しかし、扉は頑丈なロックがかかっており、簡単に開けられそうにない。
レオンは自分の持っているツールでロックを解除しようとするが、複雑な仕組みで、時間がかかりそうだ。
その間にも、クリスの戦いの音が聞こえてくる。
彼は焦っていた。
「くそっ、時間がない…!」
レオンが呟いた時、無線からソニアの声が聞こえた。
「レオン!聞こえるか!?ジェイクの体内のウイルスは停止した。だが…まだ油断はできない。施設の通気口から、ウイルスの粒子が流出しているのを確認した!」
ソニアの声は、冷静ではっきりとしていた。
レオンは安堵したと同時に、新たな事態の深刻さに直面した。
ウイルスはまだ、完全に封じ込められていない。
そして、通気口から外へと流出しているということは、病院の外、街へと広がり始めているかもしれないということだ。
「ソニア!よくやった!だが、ウイルスの流出だと!?クリスもいる、培養槽の奥だ!爆薬の貯蔵庫を見つけたが、ロックされている!」
レオンは素早く状況を伝えた。
ソニアの異常な視力ならば、この状況を打開できるかもしれない。
ソニアの声が、冷静な口調で返ってきた。
「了解した、レオン。爆薬貯蔵庫のロック…おそらく、周囲の電力システムと連動しているはずだ。私の視覚で、電流の流れを追う。少し待ってくれ…」
ソニアの言葉に、レオンは希望を見出した。
彼女の視力ならば、見えない電流の流れ、あるいはシステムの弱点を見抜けるかもしれない。
レオンは扉に背を預け、ソニアの指示を待った。
彼の耳には、遠くでクリスと男の激しい戦闘が続いている音が聞こえていた。
[newpage]
レオンがソニアの指示を待つ間、背後の壁に、かすかな震動を感じ取った。
それは、クリスと男の激しい戦闘の振動にしては、あまりにも規則的で、まるで何かが高速で移動しているような感覚だった。
「…なんだ?」
レオンが振り返ると、爆薬貯蔵庫の扉のさらに奥、壁の一部がわずかに軋んでいるのが見えた。
普段は視界に入らないほど巧妙に偽装されているその壁の表面には、極めて薄い、しかし確実に新しい金属製のレールのようなものが、微かに光を反射していた。
「まさか…」
その時、クリスと男の戦闘の音が、急速に遠ざかるのを感じた。
男はクリスの攻撃を振り切り、別のルートへ逃走したのだ。
「レオン!男が…別の通路へ!」
クリスの声が無線で響いた。彼の声には、僅かな焦燥感が含まれていた。
「俺も気づいた!こっちだ、クリス!この奥に何かある!」
レオンは直感的に叫んだ。
ソニアの言葉から、男がこの施設を「利用」していたことが確定した今、彼が逃走用の隠し通路を持っている可能性は十分にあった。
それは、ペンタゴンがFウイルスの研究を行っていた過去、万が一の事態に備えて極秘に建造した「忘れられた脱出経路」であると同時に、男がこの施設を乗っ取った際に、自分の活動拠点と外界を繋ぐために改造した「秘密の移動手段」なのだ。
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レオンが壁の軋む音とレールの痕跡を辿ると、そこには見事な偽装が施された鋼鉄製の隔壁があった。
隔壁のわずかな隙間から、独特の金属とオイルの匂いが漂ってくる。
そして、微かながら、高速で何かが通過したような、かすかな風切り音が聞こえた。
「ここが、奴の逃走経路か…!」
レオンは隔壁に手を触れると、やはりロックがかかっているのを確認した。
しかし、先ほどの爆薬貯蔵庫のロックとは異なり、こちらは電子的なロックではなく、より原始的で強固な物理ロックだった。
「ソニア!もう一つ頼みがある!クリスが追っている男が、この施設の別の奥にある隠された通路に逃げ込んだ!そこを塞いでいる隔壁のロックを解除できないか!恐らく、通常の電力システムとは別系統の独立したロックだ!」
レオンは状況を素早く無線で伝えた。この男を逃がしてしまえば、ウイルス拡散の危険性がさらに高まる。
「了解した、レオン。その隔壁の構造を把握する。もう少し時間をくれ…」
ソニアの声は、相変わらず冷静で、彼女の異常な視力が高速で情報を解析しているのが目に浮かぶようだった。
レオンは隔壁に背を預け、ソニアの指示を待った。
彼の頭の中には、男の狂気に満ちた笑みと、異形の銃器が蘇る。
そして、この男こそが、ソニアの出生の秘密、「ホークアイズ計画」と深く関わっているであろう「ヴォルフ」であると、レオンは予感していた。
作品名:バイオハザード Fの起源 第6話 ペンタゴンから~悪 作家名:masa