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狂愛

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(一般隊士視点)


鬼殺隊は、命令が下れば遠方にも足を伸ばす。
炎柱も片目を失ったものの、鍛錬を積み死角を補えるようになってからは柱としての任務を再びこなしていた。

そして今回は飛騨高山。
都会というほど目まぐるしくはないが、それなりに栄えていて街も大きい。
つまり鬼にとっての食糧となる、人間が多いということ。ここひと月の間に、若い娘がいなくなるという事件が急増しているという。
その為か、まだ日が沈んで間もないというのに人は屋内に引っ込み、面倒ごとに巻き込まれないよう息を潜めている。

青い羽織を着た隊士は、件の鬼を見つけるべく、炎柱率いる数名の隊士とともに薄暗く細い路地を歩いていた。


「ふむ…。これだけ人々が警戒しているとなると、鬼も容易には姿を見せないかもしれないな」

「手分けをして捜索しますか?」


前方を歩きながら神妙に言う炎柱にそう進言してみるが、炎柱は周囲に気を配りつつ朱の混じった金の髪を揺らしてかぶりを振った。


「いや、相手はかなりの数の人間を食らっていると思われる。散開は得策ではないだろう」

「そもそも、お前らは本当に鬼狩りか?そんな闘気では虫も殺せまい。杏寿郎の足手纏いだ、何故ここにいる?」


不意に、炎柱の隣から桃色の頭がひょいと覗いて、後方のこちらに厳しい視線を投げる。その金色に輝く瞳には、上弦の参の文字がしっかりと刻まれていて。
圧倒的な存在に、隊士たちは声を上げることも出来ずに身を固くして生唾を飲み下す。
こちらを威圧する隣の鬼の耳を摘み、炎柱は無理矢理正面を向かせた。


「やめないか。君のほうが場違いであることを自覚した方がいい」

「いっ…、ッふん。俺と杏寿郎だけで十分だ。…ああいや、いっそ本当に手分けしたらどうだ?弱者なぞ、その人攫い鬼とやらに食わせておけばいい」

「その物言いは嫌いだ。彼らを侮辱するんじゃない」


きっぱり言い放つ炎柱には反論せず、上弦の参は舌打ちをしてポケットに手を突っ込み口を噤んだ。

矛先が自分たちから逸れたことで安堵する隊士たちは、前に並ぶ柱と上弦の鬼という組み合わせに戦々恐々としていた。
とても二人の会話に口を挟む度胸はない。故に、何故敵対する鬼が同行しているのか、それも柱と親しげに話をしているのか、訊ねることもできずにひたすら緊張していた。
炎柱から最初に説明らしきものはあったが、それも「申し訳ないが、ついてきてしまった!害はないので、いないものと思ってくれ!」という無茶なもので。

到底いないものなどと思えるはずもないが、尊敬する炎柱の言うことには異議も疑問も挟みたくないが為に、懸命に鬼の存在を無視して話しかけていた。しかし、その尽くに鬼のほうから突っかかってくるのだ。恐ろしくてどうしようもない。

それに、鬼の言葉は別段嫌味でもなんでもなく、悔しいことに正鵠を射ている。
名目上は柱の補助や後方支援という役割を与えられて随行している自分たちではあるが、柱との実力差は天と地だ。これまでに柱の役に立てたことなどあっただろうか。


炎柱は、片目を失っている。

その致命的な負傷により暫く前線を退き、療養期間を経て復帰している。当然以前のように任務をこなすことは難しいだろうと誰しもが思っていた。

ようやく助けになることができると。
共に肩を並べて戦うことができると。

しかし、それは自惚れであり、大きな勘違いであったことをすぐに思い知ることになった。
片目が見えなくなっても、自分たちの助力などまったく届く範疇にいない。雲の上の存在は、身体の一部を損ねても尚雲の上にいた。太刀筋、体捌き、判断力。その全てにおいて置いてきぼりだ。

上弦の参の言うとおり、足手纏いなのだ。

青い羽織の中でぎゅっと拳を握り込む青年隊士の斜め前方で、上弦の参は嘆息混じりにぼやくように言う。


「それにしても、下弦が解体された今、上弦でもない鬼など雑魚ばかりだろう。何故柱をわざわざ派遣するんだ?」

「だから柱の中でも俺が選ばれたのだろう」

「?…わかるように言え」

「上弦の可能性が低い鬼が相手ならば、戦力が最も低い俺でも十分対処できると判断されたということだ」

「……」


炎柱が気後れすることなく明朗にそう言い切ると、上弦の参の纏う空気がぶわりと剣呑なものに覆われて膨れ上がった。

後方の隊士たちの心拍は危機感に大きく乱れ、じわりと冷や汗が噴き出る。寒くもないのに歯が噛み合わず、ガチガチと音を立てて暴れた。
膝がうまく曲がらない。ちゃんと歩くことができているのかわからない。気を抜けば、腰が抜けて座り込んでしまいそうだ。

しかし結果として、自分たちはへたり込まずに済んだ。
炎柱が上弦の参の頭をわしゃわしゃと掻き混ぜたのだ。恐怖を上回る衝撃的な光景に息が止まった。


「その物騒な殺気をしまえ。何を怒っているんだ、君は」

「…杏寿郎は紛れもなく強者だ。柱の中で一番弱いなどあり得んだろうが。俺は認めないぞ」

「はっはっは!そんなことか。柱は皆一様に強いぞ!」


炎柱はなんでもないことのように笑い飛ばしているが、こちらは大気が震えんばかりの威圧感に肌が痛みすら感じている。とても身体を思うようには動かすことができない。

というか、炎柱と上弦の参は一体どういう関係なのだろう。
炎柱の目を潰した鬼というのが、まさに今目の前にいる上弦の参だったはず。間違いなく両者は鬼殺隊と鬼という立場にあって、命を賭して戦ったのだ。

それがどういうわけか。
頭を撫でている。頭を。

鬼殺隊の中であっても、炎柱が誰かに進んで接触する場面など見たことがない。そういうことにはどこか一線を引いている節のある人なのだ。

混乱を極める隊士たちを他所に、髪をくしゃくしゃにされた上弦の鬼の怒気はみるみるうちに萎んでいった。そして一転、隣の炎柱に対し好戦的な笑みを向ける。


「ならば俺が柱をすべて殺してやる。そうすれば、俺と戦い生き残った杏寿郎が最も強いと証明できる」

「それは短絡的な発想だ。物事はそう単純にはできていない」

「勝敗がすべてだろう」

「ふむ。では君は拳と刃、どちらが強いと思う?」

「拳だな」


隊士たちは聞こえてくる異次元の実力者同士の会話に思わず聞き入り、それぞれの回答を頭に思い浮かべる。そのほとんどは刃のほうが強いに決まっていると結論づけていた為、上弦の参が即答したことに対し興味をそそられていた。


作品名:狂愛 作家名:緋鴉