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想いと誓い

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煉獄は胡座をかいた身体ごとこちらを向き、真剣な表情で言う。

「君は約束を守ってくれただろう。鬼の血に打ち勝ち、こうして俺を迎えに来てくれた」

「……」

「俺は、人は誰しも苦難を乗り越える力を潜在的に持っていると信じている。どんなに絶望の淵に立たされようと、諦めずに全力で立ち向かえば必ず機は巡ってくる。そう思っている。」

言うなれば火事場の馬鹿力というやつだな、と僅かに表情を和らげたが、煉獄はぐっと眉間にしわを寄せ、軽く俯いた。

「君のことも、信じた。…鬼の生態は未知数だ。俺たちには与り知らぬことも多々あるだろう。それでも君の心の強さを信じて、ひたすら待った。……そのはずだった。」

「……」


猗窩座は頭を下げたまま、ただ黙って煉獄の声を聞いていた。次第にその声に、懺悔の色が滲んでくるのを感じながら。


「…初めてだ。信じると言っておきながら、懸念ばかりが頭をよぎって、信じきることが出来なかった」

「……」

「身の安全はもちろん、君という存在がどう変わってしまうのか。生死すらもわからず、信じる心を遥かに上回る心配が、俺の身体を支配してやまなかった」

「杏寿郎…」


そっと猗窩座が顔を上げようとすると、後頭部をがしっと押さえつけられた。


「…謝れ。俺にこんなに心配をかけて、心を散々乱してくれたことを……謝れ」


声が、震えている。
今お前はどんな顔をしている?怒っているのか?呆れているのか?疲れ果てているのか?
思えば、杏寿郎の背が小さくなった気がしたのは、少し痩せたからではないか。この大食漢が痩せた原因は、俺なのかもしれない。
人を信じるという信条を貫く杏寿郎が、それを曲げざるを得ないほど心を砕いて俺を心配してくれたというのか。

猗窩座は顔は伏せたまま、頭に置かれた手を押しやって膝立ちになり、煉獄の背中に腕を回してその身体を強く抱き締めた。


「…悪かった。心配をかけたな。……本当に、悪かった」


煉獄の肩に顎を乗せ、背中を優しくさすると、しがみつくようにぐっと抱き締め返されて身体がしなる。


「……戻ってきてくれて、ありがとう。猗窩座」


元を辿れば俺のせいではないし、杏寿郎もそれは承知しているだろう。
それでも、この熱苦しいくせにどこか達観したものの見方をする男の、やり場のない感情を垣間見ることができて、安心した。

杏寿郎は判断が早い。結論が出ない事柄は思考しても無意味であると、割り切ることも早い。
悩むことに慣れていないのだ。にも関わらず、俺のことで悩んでくれた。杏寿郎にとっては苦痛だったであろうそれが、どうしようもなく嬉しい。


「……杏寿郎、」

「…なんだ」


嬉しいのだが、そろそろ白状しても良いだろうか。


「少し、腕の力を緩めてくれ。実は背骨が粉々だ」

「よもや!」


ぱっと身体を離してついでに少しばかり距離を取る煉獄に、猗窩座は苦笑して同じく胡座をかいた。
漸く顔を見ることが出来た煉獄の鼻がほんのりと赤らんでいて、そういえばと思い出しポケットに手を入れる。


「そうだ杏寿郎、あのときお前にもらったこれ……なんなんだ?」


真っ赤な顔なし人形を手のひらに転がして訊ねると、煉獄はにっと悪戯っぽく笑った。


「さるぼぼという!君に似ているだろう?」

「…はあ!?これが?俺に?」

「うむ!小さくて赤子のようだ!」

「……なんだと?」


滅多に見ない童のような無垢な笑顔にきゅんとなるが、その発言は受け入れ難い。
体中のあらゆる血管がびきびきと浮き上がってくる。落ち着け。杏寿郎が可愛いんだ、落ち着け俺。

握り潰して粉砕してしまわないよう細心の注意を払いながら、改めてまじまじと観察する。…もとい、睨みつける。


「この…ちんちくりんが……俺に似ているのか…?」

「そういえば君、俺と再会してから身体の自由が効くようになったと言っていたな」

「…ああそうだ」


杏寿郎から見たら俺は赤子のようだというのか?小さいと言われれば確かに杏寿郎よりほんの気持ち身長は低いが、こんな…こんなものに喩えるほど小さくはないだろうっ…

息を細く長く吐き出して、わなわなと震える心を鎮めることに集中していると、杏寿郎の百万石の笑顔がずいと正面に迫って、さるぼぼを乗せた手を握られた。


「この人形には厄除けの意味が込められているそうだ!もしかしたら、この子のおかげで君は自我を取り戻したのかもしれないな!」

「そっ……」

真っ直ぐな赤い瞳が今日も美しいぞ杏寿郎…

キラキラとした笑顔に「そんなわけあるか俺は杏寿郎の声に呼び起こされたんだそうに決まっているそれ以外認めない」と噛み付きたい気持ちをぐっと堪えて、

「そうかもしれないな…」


精一杯の作り笑いでそう答えた。

しかし杏寿郎から何かをもらったのはこれが初めてだ。杏寿郎なりに俺のことを想って選んでくれたと思えば、たとえ赤子だろうが藁人形だろうが喜んで身につけようというものだ。
腰紐にさるぼぼの紐を括り付け、鈴を指先で弾くとちりん、と乾いた小気味よい音が溢れた。


「付けてくれるのか!なんだかこそばゆいな!」

「杏寿郎が喜ぶなら、俺は今日からさるぼぼになる」

「君がさるぼぼになっても俺は喜ばない!」


川縁に座り込んで、特に意味のない応酬に浸る。

今回、杏寿郎の存在がなければ、俺は自我を失ったままの人形として殺戮と破壊をし続けることになったのだろう。
杏寿郎を裏切るようなことはしたくないと強く想ったことで、五感がない中声を聞くことが出来たのだと。なんとなくそう思う。

もう大切な人を失いたくないから。
命を賭してでも守ると、心に誓ったから。

自分のためだけに強さを求めていた己は、もういない。
今は隣に、杏寿郎がいる。
守りたいもの、果たしたい誓いが、人を強く成長させていく。


「…杏寿郎」

「うん?」

「……、ただいま」


若干の照れ臭さもあったが、笑って猗窩座がそう言うと、煉獄も晴れやかな笑顔で大きく頷いた。


「ああ、おかえり!猗窩座!」


それから東の空が白んでくるまで、会えなかった時間を埋めるように二人は語り明かした。

fin.
作品名:想いと誓い 作家名:緋鴉