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連理の枝

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連理の枝

その1
 
 フッと、誰かに呼ばれた感じがして眼を開けた。
アクシズの表面を覆っていた不思議な光は消え、大気圏との摩擦により生じた高熱は、今ではすっかり下がっていた。

辺りを包むのは静寂だけである。

 シャアは、脱出ポッドのあちこちを触り、生きている回路を探してみたが、何ら反応はなかった。

「壊れたか」

大きくため息をついた瞬間に、胸に痛みを感じた。どうやら肋骨にひびが入っているらしい。
その痛みが己の生を自覚させた。
と同時に、直前まで戦っていた相手の生死が気にかかった。

外壁越しには何も感じられない。

ノーマルスーツの破損がない事を確認してメットを着けると、シャアはサザビーの脱出ポッドのハッチを開けた。
目の前にはνガンダムの機体が迫っていた。
νガンダムのマニュピレーターはアクシズの岩盤を握り締め、脱出ポッドを腕の中に庇う様にして静止していた。

「結果として、アムロに助けられた様なものだな」

自嘲気味に呟くと、ポッドの縁を蹴ってνガンダムのハッチ部分に取り付き叩いた。

返答は無い。

二度三度と繰り返してみるが、何の返答も無い事にイラつき、遂には外部からの開口フックを探りだす。
フックは直ぐに見つかった。それに手をかけて開けようとして、ふと一抹の不安が頭を過ぎる。
もし、彼がメットを着けていなかったら…。
かすかなアムロ特有の思念波が感じられる事から、彼が生きているのは確かだ。
返答の無いのは意識を失っているからだと容易に推測できる。
ここを開けたと同時に、彼の命を奪う事になるのではないか…。

戸惑いは数分。

「ええい。ままよ」と、ハッチを開ける。
もし彼が死んだら、己も後を追えば良いだけの事と割り切ってとった行動は、意外な事に吉と出た。
アムロはメットを着けた状態で、コックピットの中を漂っていた。
すばやく入り込むとハッチを閉じ、漂っているアムロの腕を取ると、胸に引き寄せた。
酸素が充満するのを待ち、自分とアムロのメットを外す。
アムロに触れる指が震えている事に、心なしか驚く。

アムロのメットが外された途端、血液が小さな玉となり、コックピット内に散らばった。
赤い玉は次々にアムロの口から漂い出てくる。

創部は何処なのか。肺か消化管か。
このままでいては、確実に彼は死に近づいてゆく。
首で感じる脈拍は異常に速いが、打ち方が弱い。
感じられていた思念波も、少しずつ弱まっていくのが判る。
一刻も早く適切な治療を施さなければならない必要性に迫られて、シャアはどちらに連絡を取るべきか考える。

地球か、ネオ・ジオンか。

 そして、意を決してアムロを膝に抱えると、シャアは慣れないνガンダムのアームレイカーを操りだした。


その2
 北の地に訪れた遅い春の風は、窓にかかるレースのカーテンを揺らして病室内に入り込む。
風は、ベッドに眠る青年の紅茶色の癖毛に白い小さな花びらを落とすと、その側に座る男の金髪を緩やかになびかせた。

第2次ネオ・ジオン抗争終結から1ヶ月半が過ぎていた。
アクシズが地球に落ちる事は無く、地球人たちは復興に向けて精力的に動いていたが、この病室だけは時が止まった様に、何ら変化の兆しが無かった。

小さなノックの音がする。
「どうぞ」と男は返事をしながら、視線は眠る青年から外そうとしない。
扉を開けて入ってきたのは、男によく似た容姿を持つ妙齢な女性だった。

「いかが?兄さん」
素っ気なく言おうとして、心配を隠せない声が男の背中にかけられる。

「変わりは無い」
幾分疲労を滲ませた声が返されるが、視線は青年の上から動こうとしない。
静かに呼吸を繰り返す胸以外、青年の身体に動く所は無い。
「あれだけの外傷を負ったのですから、命を取り留めたのは奇跡だわ。手術中に何度心臓が停止した事か。その度、直接心臓マッサージをしては蘇生を繰り返し、何時間もの手術に耐えられる体力が、この身体の何処にあったのかしら。いえ、体力ではなく精神力だったのかもしれないわね。今は、出し尽くした気力・体力を補っている所だと思うわ。時が来れば、必ず眼を覚まします。だから、兄さんも身体を休ませないと…」
そっと男の肩に手を置くと、ビクッと身体が震えた。
男は、肩に置かれた手に己の手を重ねる。
その手の冷たさに、セイラは眉を寄せた。

「アムロをこのまま失うと思った時、私に本当に必要なのは他の誰でもない、アムロ一人だったのだと自覚した。アムロの命を救う為なら、この命がどうなろうと構いはしない。そう思ったから、地球に降りたのだ。アルテイシアに罵倒されようが、連邦軍に捕縛されようが、彼の命が助かるなら、と…」
「その判断は間違っていなかったわね。今まで兄さんは、間違った判断や決断をしては私を怒らせてきたわ。でも、今回だけは正しい判断をしてくれた。だから私は二人を助けたの。アムロだけでなく、兄さん。貴方も」

そう言って一旦言葉を切り、前に回り込むと冷たい頬を両手で挟み、視線を合わせる。
ペール・ブルーとアイス・ブルーが見つめあう。
居たたまれなくなったシャアが視線を外そうとするのを、セイラは許さなかった。

「だから、今は身体を休めなさいな。アムロには私が付き添います。横になっていないのでしょう?こんなに冷たい身体をして…。顔色は悪いし、ご自慢のブロンドがわら束の様に艶を失くしていてよ。こんな姿をアムロに見せるおつもり?きっと顔を顰められてよ。さぁ、言う事を聞いて付き添い人用の部屋で休みなさいな」
「しかし…」
「アムロが目覚めたら、直ぐに知らせます!妹の言葉が信じられないのなら、病院の院長としての言葉を信じて頂戴」
言うなり、シャアの腕を掴むと病室に隣接した一室に引きずる様にして連れて行き、ベッドの頭元に腰掛けさせる。
今までほとんど使われた形跡の無いベッドのリネンを剥ぐと、シャアを無理やり横にさせ、上掛けをかける。
「大丈夫。呼吸も心拍も安定しています。眠っているだけの様な状態ですから。私が観ていますから、身体を休めて体力を戻してくださいな」と、上掛けの上から軽く叩いて子供を寝かし付ける様にする。
 シャアは少しだけ苦笑いをした後、素直に眼を閉じた。直ぐに寝息が聞こえ始めた。
正直な所、心身共に疲労はピークになっていたはず。
セイラは、眠る二人の姿を交互に見ながら、幸せそうな笑みを浮かべた。

その3
 更に半月が過ぎた。

そして、変化はいきなり訪れた。

窓からの日差しが眩しいかと、レースのカーテンをシャアが引こうとした時
「・・・・」
ベッドの青年の口から何か声が発せられ、シャアは慌てて振り返った。
男にしては長い睫がふるりっと搖れて、ゆっくりと目蓋が上げられた。
本当に久しぶりに見る茶色の瞳は、光を受けて琥珀色に煌くが、何処かまだ夢を見ている様だった。
床に縫い付けられた様に動かなくなった足を叱咤して、シャアはベッドサイドに近づき
「アムロ…」と、掠れた小さな声で呼びかけた。

「シャ・・・ァ・・・?」

アムロは聞き取れない程にか細い声で、それでも、側に立つ男の名を口にした。
作品名:連理の枝 作家名:まお