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横恋慕2

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(童磨視点)


「味音痴?猗窩座殿がかい?」


大きな背もたれのような座布団にゆったりと座っていた童磨は、思わず復唱して虹色の光彩を放つ双眸を大きく見開く。
やや不自然な距離を置いて、壁際に胡座をかいていた猗窩座はつまらなそうに頷いた。


「杏寿郎にそう言われた。だから俺に構うな」


寺院に猗窩座が訪れることなど滅多にないが、足を運んでくれた際にはいつも新鮮な女の肉や上質な稀血を勧めていた。というのも、彼は男しか食わない。彼が求める強さなど、女を食えば効率的に伸ばしていくことができるというのに。
それどころか、近頃は人間自体を口にしていないらしい。鬼は人間以外を摂食すると身体が拒絶反応を起こすはずだが、青い彼岸花の捜索が主な任務で、人里から遠退く機会が多くあった猗窩座は、これまでも稀に獣の肉で飢餓を回避していたことがあったという。

味音痴の一言で片付けて良いことではないような気もするが、正常な鬼の舌でないことは間違いないのかもしれない。

童磨は下がりがちな太い眉を更に下げて憂うような表情を見せる。


「そうだったのか、可哀想に…。しかし栄養はしっかり取らねばなぁ。味が分からずとも腹に入れた方が良い」

「いらん」

「信者の中に絶望の淵にいる美しい人がいるんだ。そろそろ救ってあげようと思っていたから良い機会だね。ああ、女を食わないなら血だけでも飲むかい?それとて男に比べれば美味なのだが」

「…いらん」

「相変わらず頑ななのだな、猗窩座殿は。ちゃんと食わないから身体が小さいのではないか?今は男すら食っていないのだろう?稀血を勧めたいところだが、猗窩座殿はすぐに酔ってしまうし…はて。どうしたものか」

「……」


笑ったり困ってみたりしながら饒舌に言葉を重ねてみると、猗窩座は重い溜め息を落とした。

おや。
いつもならこの辺で煩いなどと言って口を叩き潰しにかかってくるはずだが、今回は血管を浮かべ上がらせながらも我慢しているようだ。

まあ凡その予測は立つ。
とある一件で、自我を失った猗窩座の世話をここでしていた。理性も何もなく暴れ放題だった彼は寺院を半壊させたのだが、正気に戻ってからその事実に少し思うところがあったらしい。
ここまで修繕してのけた信者たちに対する態度が、先程はなんだか気まずそうに見えたのは恐らく悪いことをしたと思っているからなのだろう。

今なら触れても怒られないだろうか。
そんな好奇心が芽生えて、童磨は猗窩座のほうへと四つん這いで近づいていく。


「おーい、猗窩座殿ー?聞いているかい?久しぶりに会ったのだから、もっと話をしようぜ」

「貴様と話すことなどない。これを渡しに来ただけだ」


鬱陶しそうに眉を顰めて、寄るなとばかりに猗窩座が右手の中身をこちらに軽く投げて寄越してきた。


「おっとっと」


膝立ちになって放られたものを童磨が受け取ると、猗窩座は床に視線を落として平板な声で言う。


「これでこの前の借りは返したからな」

「借り?」

「お前のおかげで、俺はまた杏寿郎のもとに帰ることができる」


帰る、ね。

特定の縄張りを持たずに寝倉を転々としていた猗窩座の帰るという言葉は、一般的に使われる家に帰るなどとはまったく異なる重さを内包しているように感じた。
まるで心の拠り所。彼が例の炎柱を本当の意味で必要としているということが伝わってくる。

が、まあそれはそれとして…


「これは……石?」

「お前の目玉にぴったりだろう」


指の第一関節程度の大きさのそれをしげしげと眺める。

猗窩座に渡されたものは、角度によって虹色の色味が見え隠れする珍しい石だった。赤い紐がその石を守るように複雑に結わえられていて、どこかにぶら下げられるようになっている。
虹色の遊光効果が確かに自分の瞳に似ている気がした。


「美しいねぇ……何かの鉱石かい?」

「蛋白石というそうだ。洋名で…パール……いや、違う。オパール……とか言っていた気がする」

「オパール…。猗窩座殿が俺の為に…」

「用は済んだ。俺は帰るぞ」


作品名:横恋慕2 作家名:緋鴉