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炎柱を知る(甘露寺編)

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(甘露寺視点)


甘露寺蜜璃は、思考を整理することにひたすら追われていた。


……。

任務からの帰路の途中、煉獄邸が近いことに気付いてなんの気無しに立ち寄った。
柱になる前は煉獄杏寿郎の継子としてここの敷居は何度も跨いだ。柱になってからは任務に追われてしまいなかなか挨拶に来ることも出来なかったが、杏寿郎が不在だとしても千寿郎には顔を見せようと思い足を伸ばしたのだ。

手土産には杏寿郎の好物であるさつまいもの餡が練り込んである饅頭を、風呂敷いっぱい両手に抱えて。

果たして、杏寿郎はいた。
夕刻だったが、この時間にいるということは今日は任務がないのかななどと考え、間の良かった自分自身に喜んだものである。


が、事件はそのあとすぐに起きた。

千寿郎に案内されて通された部屋の襖を開けて、真っ先に目に飛び込んできたのはかつて己を育て上げてくれた、厳しくも格好いい金獅子の如き炎柱ではなくて。その隣。


桃色の頭。
顔面を禍々しく彩る刺青。
金色の双眸。


「やあ、甘露寺!よく来たな!」

「…ほう、お前も柱だな。杏寿郎ほどではないが、女にしてはなかなかだ」


え…?
え、え、鬼じゃない?
しかも上弦じゃない!?
煉獄さんなんで普通に挨拶してらっしゃるの!?

手にしていた土産は、見事にどさどさと板張りの廊下に落ちた。
それを見た鬼は、ぎょっとしたように長い睫毛に縁取られた瞳を見開く。
見間違いではない。しっかり上弦の参の文字が刻まれている。


「な、なんだその大量の饅頭は…」

「大丈夫か、甘露寺」


お、鬼に引かれたわ…

見るからに敬遠している上弦の参の様子に衝撃を受けていると、煉獄がこちらに歩み寄ってぽんぽんと背を軽く叩き宥めてくれた。
その手のひらの感触にはっと我に返り、煉獄の隊服にしがみつく。


「しししし師範っ、なんで上弦の鬼がっ…?」


気が動転しつつ日輪刀の柄に手をかけるが、煉獄は微笑を崩すことなく頷いた。


「以前柱合会議で説明した鬼だ。上弦だが、鬼舞辻の支配下にはなく、彼が人を襲うことはもうないだろう。」

きっぱりと迷いのない声でそう断言する煉獄を見上げながら、甘露寺は思い出していた。
もう一年近く前にそんな話があったこと、そしてそれ以来その鬼が問題を起こすことがなかった為、議題にも上がらなかったこと。
結果的に危険意識が薄れていたどころか、忘れていた。

「胡蝶や珠世殿には世話になっていたが、君は初対面だったな。驚かせてしまってすまない」

「い、いえ…。あの、大丈夫なんですか?」


こちらと煉獄のやり取りを、上弦の参は胡座をかいて大人しく眺めている。つまらなそうにしているだけで、特に何か行動を起こす様子はなかった。

恐る恐る訊ねる甘露寺に、煉獄は屈託なく笑う。


「はっはっは!猛獣というわけでもなし、存外話の通じる男だぞ」

「ふん。杏寿郎以外と話すことなどないがな。俺は猗窩座だ」

「あ、えっと、こ、恋柱の甘露寺蜜璃です!」


名乗られたことでつい反射的に名乗り返してしまった。
猗窩座は「恋柱?」と首を傾げていたが、それよりもと眉を潜めた。


「お前……あられもないな」

「なっ……あ、貴方だって同じような格好じゃない!」


ぼそりと紡がれた猗窩座の言葉に真っ赤になりつつ甘露寺が言い返すと、彼は尻を軸にくるりと反転して背を向ける。


「いくら鬼殺の隊士とはいえ、腹や脚は冷やさないほうがいい。女は身体を大切にするべきだ」

「……」


え?ちょっと……なに?なになになに?
なんて甲斐性のある殿方なの!?
本当に鬼っ?今私の身体の心配をしたの!?

あんぐりと口をあけて呆然とする甘露寺に煉獄は目を細めて笑い、その場にしゃがみ込むと足元に散乱している饅頭を拾い上げる。


「彼女は確かに女性だが、俺の元継子で実力は保証する。侮らないほうがいい」

「侮るものか。その異常な数の饅頭を見れば、こいつが只者でないことはわかる。食欲まで受け継いだのか」

「君にしては面白い冗談だ!そら、饅頭をやろう」

「…杏寿郎お前、俺の吐物を処理する覚悟はあるんだろうな」

「案外食えるかもしれないぞ。何事も試さないことには発展は得られない」

「尤もらしいことを言うな。……いや、試す価値はあるか…?」


煉獄とともにすべての饅頭を拾い終えた甘露寺は、必死に緩む口元を戒めていた。

勧められるままに座布団に正座をするも、肩を震わせて俯いてしまうこちらに煉獄は不思議そうに訊ねる。


「どうした甘露寺」

「…ご、ごめんなさい煉獄さん。二人とも…な、なんだか子どもみたいで可愛くて…」


悪意のない他愛ない応酬に甘く胸が疼く。
きっとお互いが信頼を置いているのだ。


作品名:炎柱を知る(甘露寺編) 作家名:緋鴉