二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

炎柱を知る(甘露寺編)

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 



聞いているだけで満たされていると、煉獄が「そうだ!」と声を上げた。


「君に教えた『萌え』や『尊い』といった概念を俺に指南してくれたのが、彼女だ」

「なんだと!?」

一瞬にして猗窩座が目を剥いてこちらに向き直り、勢いよく畳に手を突いて身を乗り出してきた。

「おい!お前は尊いものを崇めたあとどうする!?」

「うええっ?い、いきなり何っ?」


先程までの眼中にないと言わんばかりの態度が一転し、猛然と食いついてくる猗窩座にたじろいでしまう。
しかもこれはなんの話だろう。確かに萌えは今だって感じているし、尊いものを愛でるのは日常だが。

突然の質問に戸惑いはしたが、どうやら猗窩座は本気な様子。
甘露寺は居住まいを正して真剣に考えてみることにした。


「え、ええと……どうするか訊かれると困っちゃうんだけど…どうもしないわ。キュンキュンして苦しくなって、それで終わりよ」


可愛いものや格好いいものを見聞きすればときめく。しかしそれを受けて何かするかと問われれば、それは甘露寺の中では否だった。
あくまでも自己完結させているものであって、どこかにそれを吐き出しているわけではない。

猗窩座は信じられないといった面持ちで更に詰め寄ってきた。


「お、終わりにできるのか…?喰らい尽くしたくならないのか?」

「あ!それはわかるわ!食べちゃいたくなるときってあるわよねっ」


どうしようもないほど愛おしいと感じたとき、確かに食べてしまいたくなる。
と、同意を示したところで甘露寺はぎくりとした。

鬼が食べ尽くしたくなるものって……え、人?人のことかしらっ?

笑顔が引き攣るこちらに反し、理解を得られたことに猗窩座の表情はぱっと明るくなった。


「そうか、お前もなるのか!」

鬼らしくないその嬉しそうな顔が可愛らしくて、不穏なことを口にしているはずなのに胸がキュンとする。

「人の場合はそれをどう発散するんだ?」

「え……そうねぇ…。思いっきりぎゅーって抱きしめて、お腹いっぱいに匂いを吸い込むの!」

「匂い…」


ぽつりと呟き、猗窩座が不意に煉獄のほうを見遣った。

胡座をかいて温かくこちらを見守っていた煉獄は、その視線に気づいてぱちぱちと瞬きをする。
甘露寺は猗窩座と煉獄を交互に見て、察してしまった。

…ま、まさかこの子!煉獄さんを!?

猗窩座の膝が僅かに煉獄のほうを向く。


「きょうじゅ」

「今は駄目だろう!!」


食い気味に煉獄の大音声が飛んできて、甘露寺は猗窩座と一緒になって肩を跳ねさせた。


「な、何故だ杏寿郎!この女は同胞だぞ!見られても構わんだろうが!」

「君にとっては同胞かもしれないが、俺にとっては大事な教え子であり同僚だ!俺の体裁というものを少しは考慮してほしい!」

「ちょっと匂い嗅ぐだけだろう!」

「君の場合それだけでは済まない可能性が大いにある!もう一度言おう、今は駄目だ!」


こ、これは…

……。


冒頭に戻って、甘露寺は、思考を整理することにひたすら追われていた。

これは情報過多だわ…!
つまりあの子は煉獄さんのことが食べちゃいたいくらい大好きで、煉獄さんもそれに応えてあげている…!?
そもそもお家にいるだなんて煉獄さんのご家族公認ってことよね?
もう鬼とか上弦とか関係なくそういうことなのね!?
しかも煉獄さんったら、それだけでは済まないだなんて……身体の関係が出来上がってるってことじゃない!!ああああなんて大人な会話なの!!


「ッきゃーっ!!素敵だわぁ!」

甘露寺は両手で両の頬を押さえ、上半身を思い切りぐるんぐるんと大きく振り回した。奇声に二人がびくりとこちらを振り返る。
太い三つ編みが暴れるがそこに構う余裕などあろうはずもない。
猗窩座の右手をがっしと両手で捕まえ、興奮のままに上下に振った。

「貴方すっごく見る目あるのね!そうよねそうよね、煉獄さんは格好いいけど可愛いのよねっ!私のことは気にしないで吸ってほしいわ!吸われてる煉獄さんを見てみたいわ!!」

「お前っ……やはりお前は同胞だ!期待に応えよう!さあ、杏寿郎!」

「甘露寺!目を覚ましなさい甘露寺!」

「大丈夫です師範っ!私、お二人の愛を応援します!!」

興奮しきりでついには立ち上がってガッツポーズをしてみせる甘露寺に、煉獄も立ち上がり手にしていた饅頭を問答無用にその口に突っ込んだ。

「ふがっ」

「少し落ち着け!猗窩座、君もだ。いい加減にしないと君にも饅頭を突っ込む」

「おお…!その身のこなし、無駄がない…さすがだ杏寿郎!しかし饅頭は勘弁しろ」


甘露寺は口腔内に広がる餡子の優しい甘さとさつまいもの香りに、荒ぶっていた胸中が穏やかな幸せに包まれていく感覚を覚え顔を綻ばせた。


「美味しいわぁ…!そうそう、煉獄さんに食べてほしくて持ってきたんです、どうぞ召し上がってください!」

「そうか、ありがとう!」

「切り替えの早さは杏寿郎そっくりだな…」


呆れ気味にぼやく猗窩座を尻目に、元師弟は座布団に座りなおして風呂敷に山盛りとなっている饅頭を頬張りはじめた。


作品名:炎柱を知る(甘露寺編) 作家名:緋鴉