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魔界と妃と天界と・4

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そうして。
「……おい、フロン達はどこに向かったのだ?」
「へ?オレっスか?」
「他に知っている者はおらんだろうが」
「えーと、門に向かったみたいっス」
「門だと……?」
「あそこが基点、とかなんとか言ってたっス」
「ふむ……」
 プリニーの言葉を受け。
「ブルカノ?」
「……気になる所ではあるが……」
 そちらは魔王達に任せるしかないな、と溜息を吐いて。
「護衛」
「あ?」
「護れよ」
「は?おい、何を……」
 護衛悪魔の疑問の声が上がるが早いか。
「ハァッ!!」
 背後に突如出現した穴へと向けて、力を放出する。
 途端に上がるのは悲鳴とも叫びとも鳴き声ともつかない何か。
「うおっ、何だ!?」
「こりゃあ……!!」
 鼓膜を震わせ、脳髄に響くその不快な音に思わず耳を塞ぐ年長悪魔と、咄嗟に二人を庇う様に動く護衛悪魔。慌てふためくプリニー。
 思わず目を閉じた数瞬の間に何があったのか。
 気配の消失を知覚した彼等が目を開けた時、ブルカノだけが、穴と共にその場から消えていた。





 天界の門の前。
「あああああっ……!!」
「こんな、まさか……こんな事が……!!」
「ち、ちがう、違う、こんな……こんな事を望んでいた訳ではっ……!!」
 黒く染まる扉へ刻まれた天使言語。
 ひび割れ、不吉な音を立てて壊れていく扉と歪む空間と。
 封印する筈が、邪悪なものを招いてしまったという恐怖と焦燥と絶望に震えながら。
 高官の天使達は、ただ怯え、その場に立ち尽くす。
「……やはり関わっておったか」
「!?」
 何者かの声が聞こえた。
 それは門ではない方向から。歪む空間の一部に開いた穴からだ。
 ぱきり、ぴしりと乾いた音と共に穴は広がり、その声の主は姿を現す。
「ブ、ブルカノ様っ……!?」
 己の名を呼ぶ高官の天使をじろりと睨めつけ、身体にへばりついた泥の様な闇を払い落としながら、荒く息を吐く。
「ど、どこから……っ!?」
「……闇に呑まれてな。どうにか抜け出た先が、まさか天界とは……」
 忌々し気に息を吐き、じろり、と集まっている高官達を睨む。
 闇に呑まれる際、マデラス達が巻き込まれなかった事は確認した。あちらは一先ず大丈夫だろう、と言い聞かせながら。
「……貴様等」
 真っ青な顔で怯え、後退る高官天使の一人にズカズカと近寄り、ブルカノはその胸倉を掴む。
「ひっ……!?な、何を……!!」
「それはこちらの台詞だ。言うがいい。……貴様等は何をした」
 怯え、惑う高官天使達は口を噤む。
 その様子に舌打ちし、
「……貴様等も来い。己の行動の結果だ。見届けるがいい」
「なっ……!?」
「そ、そんなっ……!!」
「私達はただっ……!!」
 力ずくで扉をくぐらせようとするブルカノに抵抗しながら。
 高官天使達が必死で言葉を紡ぐ。
 平和に暮らしたいのだと。
 緩やかに、穏やかな日々を送りたいのだと。
 だから同種の者達しか受け入れたくないのだと。
 切実で、傲慢で、正直で、身勝手な、本心からの言葉達。
 ブルカノはじっと聞いていた。
 その様子から、その姿から目を離さずに。
 やがて、声は小さく、か細くなり、遂には消えて。
「……その望みの結果を見ろと言っているのだ」
 声は、静かだった。
「そ、そんな……」
「わ、私達は、私達はただっ……」
 同じ台詞を繰り返す高官天使達に嘆息し、魔界のガキ共でももう少し語彙あるぞ……と思わず呆れる。
 と、扉から黒い何かが溢れ出し、声を上げる暇も無く、ブルカノへと襲い掛かった。
「ひいっ!?ブルカノ様っ!?」
「うわあああっ!?」
 ブルカノを丸ごと飲み込み、その手から逃れた高官天使は腰を抜かしてその場から動けないでいる。
 這いずって逃げようとした一人は、震え怯える一人に縋られ、結局共倒れになっている。
 そして、黒い何かに飲み込まれたブルカノは、黒に遮られた視界の中。
「……ちっ。次元の穴を抜けて来た時の次元の歪みでも、纏わりついてきた泥の様なものでもないな……。ええい、気分の悪い……!!」
 抜け出ようとしても、身体が重く、思う様に動けない。
 と、闇が囁く。心の奥底まで響く様に、脳髄まで冒す様に、入り込む様に。
 己の嘗ての欲望を刺激する。
 抱いた野心を蘇らせようとする。
 どろりとしたものが、心に広がる感覚を得る。
 しかし、ブルカノは無意味だ、と哂った。
 嘗て己は、地位を欲していた。そして、名声を、富を、あらゆる全ての得られるものを、欲していた。
 だが。
 ──大天使になった暁には。
 天界を掌握した暁には。
 ………その先は。
 愕然としたのはいつだったか。
 何も無かった。その先など、何一つ、考えてなどいなかったのだ。
 ただ、平和を、安寧を、秩序を、天使達の楽園を。そう言いながら、ただただ自分を崇め奉る世界を望んでいただけで。
 他の誰かの笑顔一つ、そこに思い浮かべる事はできなかった。
 憐れと言われるだろう。滑稽と嗤われるだろう。当然だ。自分でもそう思う。
 自分こそ、そう思う。
 そのくだらない望みが叶わなかった事に。そして、そんなつまらないモノが利用されなくて良かったと、心底安堵して。
 知らず、ブルカノは笑う。
 次の瞬間、高官天使のその眼前、黒いそれからブルカノの手が突き出た。次いで、羽根がばさり、と広げられ。
 その羽ばたきに、黒い何かは霧散した。
 呆然とブルカノを見上げる高官天使達に、ブルカノはふん、と鼻を鳴らし。
「さあ、行くぞ、貴様等」
 その言葉に、高官天使達は従う他なかった。





 バイアスとラミントンはその頃、侵攻してこようとする力を押し止めながら、封印を施していた。
 その為に動けなかったのだ。
「私が封じ切れなかった外敵です。きっちり仕事は致しましょう。……が、この魔界を守るのは、現魔王である貴方の役目ですよ、ラハール」
「ふふ……ブルカノも動いてくれている様だし、こちらに専念できるのは有難いね。そちらは任せたよ、フロン」
 それぞれの大事な者達に言葉を向ける先代魔王と大天使の顔に浮かぶのは、膨大な力を行使しているとは思えぬ程の、優しげな笑みだった。





「呪い……!?そ、そんな、恐ろしい事っ……!!」
「違う、そんなっ……私達は、ただっ……!!」
 何とか聞き出した情報を総合すると。
 天使に被害があってはならぬと。その内容は詳しくは知らなかったらしい。ただ、少々無気力になり、こちらに興味を持たなくなる程度の術だと。
 そして、万一天使には効かない様に、保険として魔法を掛ければいいと。そう言われ、実行しただけだ。
 その魔法を通じて、次元の繋がりがより強固になる事など考えもせず。
 使者だというプリニーを介し、その魔法は託された。
 天使の力が使われている魔法そのものが重要だったので、別魔界の連中にとって、その内容は関係ない。
 言ってしまえば、マデラスに復讐しようとした悪魔の呪いもまた、どうでもよかった。
 そして、扉を封印してしまえばもうそれで、干渉などされず、平和な日々が戻るのだと。
「……というか、プリニーが使者という時点でもう怪しさ満点ではないか……」、
作品名:魔界と妃と天界と・4 作家名:柳野 雫